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静かな戦い

アオの部屋で、彼女と、ミハエルと、さくらと、エンディミオンの四人が一堂に会して、しかしそれぞれに何とも言えない雰囲気の中、ただ時間だけが過ぎていった。


ただ実はこの時、ミハエルとエンディミオンの二人については、さすがにいつまでもただ困惑してるだけではなかったのだが。


「……」


「……」


互いに相手を真っ直ぐに見詰めながら、二人は、最初に顔を合わせた公園でもやっていた<駆け引き>を、再び行っていたのである。


相手がどのように動いても瞬時に対応し、かつ確実に自分が優位に立てるように、体のどこにどう力を入れて動けばそれが成せるのかを、静かに確かめていたのだった。


しばらくするとアオとさくらの方も、二人がただならぬ気配を発していることに気付き、それがいわば<静かな戦い>とでも言うべきものだと悟らされた。


まるで空気が結晶化していくかのように硬く張り詰めていく中で、声を出すこともできない。


『戦ってる……』


『戦ってるんだ……』


アオもさくらも、そんなことを思いながらただ成り行きを見守るしかなかった。


背中にはじっとりと冷たい汗が浮かび、まるで自分の体が銅像にでもなってしまったかのように動かない。


喉はからからに乾いて、息をするのさえ苦痛に思える。


そんな状態が、数時間続いたような気さえした。


が、それは、何の前触れもなく突然破られた。


「…強いですね…僕だとあなたには勝ちきれない……」


不意にミハエルがそう口にして、緊張感を一方的に解いてしまったのだ。


するとエンディミオンの方も、


「け…っ、よく言う……オレがお前に切りかかろうとしたらその瞬間に床に這いつくばってるのはオレの方だっただろうよ……」


互いに実際にそうやって戦ってきた経験があるからこその悟りだったのだろう。


「だが、今日のところはもうやめだ。これ以上はこいつがもたない」


エンディミオンは忌々し気に吐き捨てながら、さくらの方を見た。すると確かに、彼女の顔からは血の気が引いて、今にも貧血で倒れてもおかしくないほどの蒼白な顔色をしていたのだった。


そしてそれは、アオの方も同様だった。


「終わった……の……?」


喉に絡み付くかのような言葉を辛うじて押し出したアオに、


「はい、僕の方はもうこれ以上戦えない」


とミハエルは穏やかに言った。


一方、エンディミオンの方も、さくらに向かい、


「おい、帰るぞ。出直しだ。ヒドイ顔をしやがって…!」


などと声を掛けながら玄関の方へと歩き出していた。


「あ…ま、待って……!」


エンディミオンを追って立ち上がろうとしたさくらは、しかし腰から下に力が入らず、かくん、と膝が崩れた。


が、玄関の方へと歩いて行った筈のエンディミオンがさくらの体を支えながら、


「しっかりしろ、この程度でだらしない奴だ……!」


などと悪態を吐いたのだった。



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