入浴
『訳が分からんぞ!!』
そう言って抵抗したエンディミオンだったが、さくらがまるで引く様子を見せなかったことで、渋々ではありながら彼女の提案を受け入れることにした。
『そうだ。たかが風呂に入るだけだ。どうということはない。下水の中を歩き回ることに比べたらな』
などと意味不明な理屈で自身を納得させつつ、服を脱いだ。
『へえ…』
声には出さず、さくらはエンディミオンの体を見て感心していた。傷一つない、綺麗な肌をした少年のすらりとした体がそこにはあった。
服を着ていた時からも感じていたが、どことなくネコ科の動物、さすがにライオンやトラと言った特に大型のそれに比べると見た目の迫力では及ばないものの、ヤマネコ辺りのそれに通じる力強さのようなものも感じさせる体だと思った。
だが、違和感もある。
『綺麗すぎる』のだ。
過酷な戦いを乗り越えてきた筈なのに本当にかすり傷一つ見当たらない。日本で平和に暮らしている少女の肌よりも美しいとさえ思えた。
「怪我とかないんだね」
ついそんな感想が口を吐いて出てしまった。
するとエンディミオンは憮然とした顔で、
「まあな。ダンピールとしての能力のおかげだな。どんな傷を負っても、数日で完全に治る。傷跡も残らん」
拗ねたように口を尖がらせた感じで彼が応えると、
「ああ、そうか。ですよね」
と、さすがに恐縮したように頭を掻いた。
しかし同時に、
「でも、綺麗……」
とも呟いてしまう。
不思議と照れくささのようなものはなかった。それはたぶん、彼女が昔、幼い弟をお風呂に入れてあげていた経験があるからだろう。だから、<男の子>の体など見慣れているのだ。
さくらが『一緒にお風呂に入りましょう』と誘えたのも、おそらくそれが影響している。彼女にとっては至極普通のことだったというわけだ。
それもあって、彼女はとても落ち着いていた。
『……澄ましたツラしやがって……!』
内心ではそう悪態を吐きながらも、エンディミオンとしても、さくらが変に意識していないことは助かっていたと言えるかもしれない。おかげで彼の方も必要以上に意識しなくても済んだのだから。
観念したように大人しく浴室に入った彼の体を、さくらがシャワーで流す。
「自分で洗える……」
彼がそう抗議しても、気にしない。
ざっと全身にお湯を掛けると、手慣れた感じで石鹸の泡を立て、素手で彼の体を洗いだした。
弟の体も洗ってあげていたから、心得たものなのだ。
ちなみに彼女の家では、体を洗う時にはタオルの類は使わない。あくまでたっぷりと泡をつけた素手で全身を洗っていくのである。




