順応性
定食屋での夕食を終えたさくらは、会社に戻って仕事の続きを始めた。エンディミオンもまた、オフィスの隅に陣取ってさくらの仕事ぶりを眺めている。
そして終電間近になってようやく仕事を終え、
「お疲れ様でした」
と声を掛けながらオフィスを後にした、残っている者はほぼ会社に泊まり込むつもりの者達である。中には既に自身の机が置かれた床に毛布にくるまって寝ている者さえいる。
「なんだあれは…? あれが日本の企業なのか? 話には聞いていたが不気味すぎるな」
エンディミオンが、さくらの後に続きながら呆れたように言ってくる。
「いろいろ問題はあるのかもしれませんが、慣習的にああなっちゃってるんですよね。それでも昔に比べるとマシになってたりもするらしいですよ。最近はいろいろ煩いから」
「あれでか? 先の大戦後の日本の急成長がああいう働き方の結果だとしたら、日本人の見方を少し改めなければならんかも知れんな」
「…どういう風にです?」
「日本人とは、今でも、目的の為なら手段を選ばん好戦的な人種だということだ」
『日本人は好戦的』と表現したエンディミオンの言葉の意図をさくらは察していた。
「…そうかもしれませんね。<戦闘>はしてませんが、あれも一種の<戦い>ですから。自分達の目的の為には犠牲を厭わない精神性はあると思います。それを<好戦的>と言うんだったら、なるほどそうなんでしょう」
「ふん…よく察したな。てっきり、『日本人がいまだに帝国主義を振りかざす侵略者だとでも言うんですか!?』とかオレの言葉におかしな解釈を加えて攻撃してくるかと思ったが」
「ああ…そういう人もいますよね。そんな風にすぐに食ってかかる人もきっと<好戦的>なんでしょうね」
「そうだな。平和だの友愛だのを掲げる奴にも、自分の思い通りにならなきゃ感情をむき出しにして罵ってくるのがいる。それのどこが<平和的>なんだ?と鼻で笑ってやりたくなる奴がな」
「あはは……迂闊なことを言うと総攻撃を食らいそうだからこれ以上はノーコメントで」
やはりスマホを手にして電話で話しているように装って、さくらはエンディミオンと話しながら駅へと向かって歩いた。エンディミオンの声が聞こえてる可能性があるということでイヤホンはしないようにした。こうすれば彼の声が聞こえても、ハンドフリーで話している電話の声が聞こえるのだと周囲の人間は勝手に解釈してくれるだろうという読みからのものだった。
などと、いつの間にかさくらは、エンディミオンと普通に会話をしていた。昨日の今日で大変な変化ではあるが、順応性の高さも彼女の特徴の一つなのかもしれない。




