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合理的

「お前はどうしてそんなにお人好しなんだ?」


痴漢騒ぎについては、男が動揺さえしなかったことでなんとなく、


『思い違いか?』


という空気が広まり、何とも言えない気まずさはあったもののそのまま何事もなく終わった。


しかしエンディミオンはそれでは納得できなかったのだろう。電車から降りた時、そんな風に話しかけてきた。


それに対してさくらは、スマホを手にしてイヤホンを耳に挿し、いかにも電話で話してる風を装って、


「私は別に自分がお人好しだとは思ってません」


と応えていた。咄嗟にそのような偽装ができるくらいだから、頼りなさそうに見えても彼女は頭はそれなりに切れるのだ。


「オレにはとてもそうは思えないがな」


思いがけぬ返答に、エンディミオンは深く被ったフードの奥で憮然とした表情になっていた。


「私は合理的にものを考えるようにしてるだけですよ」


対してさくらは、決して刺々しさはないものの、それまでとは違ってはっきりとものを言うようになってきたようだ。何となく、この<バンパイアハンター>との距離感を掴みつつあるのだろう。


そんな彼女にエンディミオンはさらに話しかける。


「合理的とはなんだ? オレにしてみればあんな輩は腕の一本もへし折ってやって、くだらない真似をしたら痛い目を見るというのを思い知らせてやるのが合理的だとしか思えん」


「……そうですね。短期的に見ればそういうやり方もあるのかもしれません。だけど私は、『その先』のことも考えてしまうんです」


「その先?」


「はい。そうやって痛い思いをすればその場では『もう二度とやらない』って思うかもしれません。だけど人間ってそんなに単純な生き物じゃないんですよ。


だって、それでやめるくらいなら、死刑という制度があるのに殺人がなくならない理由が説明できません」


「なんだと…?」


「だってそうじゃないですか? 人を殺したら自分も死刑になるかもしれないんですよ? 確かに今の日本じゃ一人くらい殺したって死刑にはならないかもしれません。だけど二人三人となってくれば死刑になる確率がぐっと上がります。なのに、どうして何人も殺す人が出てくるんですか?」


「それは……そいつがバカだからだろう」


「かもしれません。でも、だったらあなたもその<バカ>なんですか? だから何人も殺してきたんですか?」


「……貴様……!」


さくらの言葉に、エンディミオンの中でピリッと硬いものが励起する。


しかし、さくらは続けたのだった。


「私は、あなたのことを<バカ>だとは思いません。だってあなたは自分が逆に吸血鬼に殺されるかもしれないのを分かっててやってるんでしょう?」



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