念
「そいつが何故、そんな実験をしたのかは今も分かっていない。分かっているのは、そいつはそうやって生まれた子供の何人かを連れて突然、村から姿を消したってことだけだ。
で、主を失って途方に暮れた眷属共は、しばらくは大人しく村で暮らしてたそうだが吸血衝動を抑え切れずに、眷属にされずに残ってた女共も襲い、それでも飽き足らずに数十キロ離れていた隣の村をも襲った。
だが、そこにはいたんだ。バンパイアハンターが。
そのバンパイアハンターは襲ってきた眷属共を返り討ちにし、さらには吸血鬼の巣窟と化した村をも掃除した。オレの母親だった女もこの時に始末された。
後に残されたのは、<実験>で生み出された子供数人だけだった。吸血鬼との混血、<ダンピール>として生まれながらもさほど目立った能力も発揮してなかった出来損ないとして捨て置かれた、な。
眷属共を始末したバンパイアハンターもダンピールで、オレはそいつに引き取られた。残っていた子供のうちで一番、使い物になりそうだったからだろう。他の子供らのことは知らん。ほとんど人間と変わらなかったからってことで人間の子供としてバラバラに引き取られて、その後は行方知れずだ。
バンパイアハンターに引き取られたオレは、吸血鬼を狩るのに必要な技術を徹底的に叩き込まれつつ、村を離れていた眷属と、事の発端となった吸血鬼を追う為に旅に出て、今に至るという訳だ」
「……」
「オレを引き取って後継者に育て上げたバンパイアハンターは、その途中で死んだ。年老いて力が衰えていたところで、交通事故で呆気なくな。
それ以来、オレは一人でバンパイアハンターとして吸血鬼共を始末してきた。もっとも、ほとんどが眷属として生まれた奴だったがな。<本物>は二人。どちらも人間の中に紛れて隠れ住んでいた奴だった。
人間と事を構える気はないと言ってたが、誰がそんな言葉を信じるものか。奴らはただの<怪物>だ。人間を餌や玩具としか思ってない。気まぐれに人間の友人のふりをすることもあるだけだ。
オレは吸血鬼を憎む。吸血鬼に与する人間も憎む。
オレは、決して連中を赦さない。最後の一人までも根絶やしにしてやる……!」
そこまで語ったところで、エンディミオンはまたあの金属製の定規を手にしてそれを睨み付けた。
まるで、吸血鬼を屠る為の念を込めるかのように。
「……」
さくらは、言葉もなかった。朝から聞かされるには重すぎる話に、仕事をする前からへとへとに疲れ切ったかのように気分が沈んでいた。
だが同時に、重すぎる彼の背景に、少しだけ同情してもいいような気持ちにもなっていたのだった。




