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語り

『オレは決して吸血鬼を逃がさない。それだけは忘れるな』


エンディミオンはそう告げたものの、だからと言って特に急いでいる様子もなく、朝食をとるさくらの姿を視界の端に捉えながらもただ黙ってソファーに腰を掛けているだけだった。


とは言えさすがに寛げるような空気感でもなく、かといって気安く話しかけられるような状況でもなく、重苦しい沈黙が続いた。


するとエンディミオンが口を開く。


「…オレが何故、バンパイアハンターなどやってるか、教えてやる」


などと言われても、およそロクでもない話だろうということは容易に想像できてしまい、


『どうせ重い内容だろうなあ……』


と、あまり進んで聞きたいとも思えなかった。


かといって下手に断って機嫌を損ねられても困るしで、彼が勝手に話すのは止められないと、仕方なく黙って耳を傾けることにする。


「オレが生まれたのは、今はアゼルバイジャンの僻地に当たる、小さな農村だった。と言っても、オレが生まれた時には見る影もなく荒れ果ててたがな。


そこのただの農民の小娘だった俺の母親を、俺の父親に当たる吸血鬼は戯れに弄んだんだ。そして生まれたのがオレということだな」


『うわあ……』


どうせロクでもないだろうと思っていたものの案の定な話に、さくらは耳を塞ぎたくなるのをなんとか堪え、黙ってそこに佇んでいた。


エンディミオンは続ける。


「その村は他の集落とは離れてたから、吸血鬼が潜むにはちょうど良かったんだろう。はじめは気のいい青年を装って村の連中に近付いたらしい。そいつは作物に関する知識が豊富で、しかも的確だったそうだ。そいつの言うことに従って畑を耕すと面白いように作物が実ると、村人はそいつに感謝した。


吸血鬼は長命だからな。人間が五十年分くらいの知識しか身に付けられないところを、何百年分もだから知識が豊富なのは当然だ。


そいつはそうやって村人を信用させ、村に居着いた。


だがそれがそいつの狙いだったんだ。


村人がそいつを信頼し始めると徐々に本性を現し、一人、また一人と眷属にしていった。眷属になった村人はそれこそそいつの奴隷だった。眷属はさらに眷属を生み、村が完全に支配されるには一年もかからなかったぞうだよ。


にも拘らず、そいつは若い女だけは眷属にしなかった。


なぜか分かるか?」


「……!?」


いきなり問い掛けられ、さくらは困惑しつつ首を横に振った。


そんな彼女に、エンディミオンはまるでナイフのように冷たく鋭い視線を向けつつ、忌々しげに言ったのだった。


「人間との間に子供を作る実験の為だ……」



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