ポーズ
『もしかしてこの人って……』
そう思った時にさくらの頭をよぎったのは、自分が担当している作家、蒼井霧雨の姿だった。尊大な態度で好き勝手なことを言い放つ<厄介な作家先生>と通ずるものを感じ取ってしまったのである。
と言っても、蒼井霧雨のその振る舞いはある種のポーズであることは、さくらにも分かっていた。普通にしていては自分の言いたいことを上手く言えないので、わざと尊大なポーズを演じているのだと知っていたのだ。
それに比べればこの少年の振る舞いは決してポーズなどではなく、これ自体が本来の彼の姿なのだろうとは分かるものの、それも結局はそうしないと自分を保てないのが基になっているのではないかと感じてしまったということだった。
『もしかしたら不器用な人なのかな……』
単なる<不器用>で済ますにはあまりにも危険な相手だが、しかし彼女はこの少年?に対して、ほんの少しだけ親近感を覚えてしまったのも事実だった。
だから、
「本当に守ってもらえるんですか……?」
などと訊けてしまった。それまでは迂闊に口をきいただけでも命の危険に曝されそうな気がしていたのに。
そんな彼女に、
「応ともよ。何者が相手でもお前を守り切ってやる。それによってお前の信頼を勝ち取ることにしよう」
本当に信頼してもらいたいならそもそも殺すだ何だと言わないでほしいとも思ったが、今はまだそこまでは言わない方がいいと思った。
「それじゃ、スカートが乾いたら家に帰ります……」
とだけ告げて、スカートが渇くのをただ待つことにした。このままホテルに泊まっていってもとも思ったが、着替えもないのにそれでは困るので、終電も既に過ぎたものの、タクシーを使ってでもとにかく家には帰りたかった。
すると待ってるだけなのが退屈なのか、彼が話しかけてくる。
「ところでお前、歳は?」
「…二十六です」
「なんだ、思ったよりはいってるんだな。てっきり十代かと思ったぞ」
「よく言われます……」
「日本人は実年齢より若く見られるとは言うが、お前はその日本人の中でも若く見られる方だということか」
「たまに中学生に間違われることもあります……」
「ははは! なるほど。確かにジュニアハイスクールの生徒でもお前より年上に見えるな」
「はあ……」
などというやり取りをしている間に、まだ少し湿っているものの穿けなくもない程度には乾いてきたので、さくらはそれを穿き直し、バスローブを脱いだ。
ストッキングと下着はもう使い物にならないので仕方なく捨てていくことにする。
『うう……すーすーして心許ない……』
タイトスカートなので風でめくれ上がる心配はないものの、さすがに下着を穿いてないというのは恥ずかしさもありつつ、仕方なくホテルをチェックアウトし、タクシーを拾って家に帰ったのだった。