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下着をバラバラに切り裂く程度のことは大したことないように思うかもしれない。だが、しっかりと固定せずただ吊るしてあるだけの下着をカッターや包丁で切り刻もうとしてみれば分かるだろうが、実際にはそんなに容易なことではないのだ。


もちろん、さくらもそんなことを試した経験はないものの、目の前で実際に目で捕らえることもできない動きでそれをやって見せられては、その動きそのものの<切れ味>に戦慄するしかできなかった。


だが、それでも……


『こんな危ない人を先生のところにとか連れていけない……!』


と、考えずにはいられなかった。


さりとてこの、<エンディミオン>と名乗る少年の殺気や技量は本物だ。このままでは自分は殺されてしまうかもしれない。


『考えろ…考えろ……! どうすればこの状況を脱することができる……?』


折れそうな心で、どうにかしてこの状況を脱する方法はないかと考えた。


けれど、それすら少年には見透かされていた。


「この国には、『下手の考え休むに似たり』という言葉があるそうだな? 実によくできた言葉だ。お前程度の奴がどれほど考えを巡らせようとも何も覆せはしない」


「……!?」


何とかしようと思案を巡らせていることさえ見抜かれて、さくらの顔は蝋のように血の気を失っていった。それでもなお、諦めない。


「……」


そんな彼女に、少年は言う。


「お前、今時珍しいくらいの忠義を見せるな。いったい、何がお前をそうさせる?」


それは、ついさっきまでの彼とは、ほんの僅かだが、それこそ髪の毛ほどの差しかないかもしれないが、確かに違っていた。


さらに、


「吸血鬼に心酔してる、というのとも違うようだな。それにお前は眷属でもない。にも拘らずどうしてそこまで意地を張る?」


とも。


すると彼女は、からからに乾いた口から、押し出すように言葉を紡いだ。


「先生は……私が初めて担当した人です……自分勝手で我が強くて捻くれてて、自分がプロだという自覚さえ持ち合わせてるかどうか怪しい困った人です……


でも、私は先生の作品が好きなんです…先生の作品を一番最初に読むことができるのが私の誇りです……


その先生に、私が迷惑を掛ける訳にはいかない……!」


かすれながらも、震えながらも、さくらは必死で自分の<想い>を口にした。これだけは言葉にしなければと思ったものを吐き出した。それさえちゃんと言えれば、もう、死んでもよかった。


……


……


いや…死にたくはなかった。普通はここで『死んでも先生は守る!』と本気で思えればきっと格好いいと思った。


でも、それでも、


『怖いよぉ……死にたくない……』


そう思わすにはいられなかった。


だから涙が溢れてしまったのだ。



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