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愚痴

ミハエルとの時間は、本当に心地好いものだった。正直言って、実の家族と一緒にいることよりもずっと心地好かった。


両親は、決して悪い人間ではないのだが、自分の価値観に固執し、他人の話に耳を傾けないところがあって、しかも、アオが<ラノベ作家>という職業に就いていることも、


『恥ずかしくて他人に言えない』


と、顔を合わすたびに、


「もっとまともなモノは書けないのか!? なんだこの低俗なマンガは!?」


などと吐き捨てるように言うので、


「人の職業を馬鹿にするような下劣な人間に育てられた私の方が恥ずかしいわ!」


的に言い返してしまい、また一年くらい連絡も取らないというのがいつものパターンだった。


「ドラマや映画じゃ、親は口ではそんな風に言ってても子供のことを心配してて、最後は認めてくれる、なんてのが鉄板の展開なんだろうけど、現実ってそうじゃないんだよね。そうやって子供のことを認めようとしない親の殆どは、<愛情>からなんかじゃなくて、自分が気持ちいいかどうか、自分にとって都合がいいかどうかっていうのが大事なんだなあっていうのをすごく感じるんだ。


ドラマや映画で<感動的な親子の和解>なんてのがもてはやされるのは、それが現実にはそんなにあることじゃないからだよ。だからウケるんだ。自分がそうじゃないから、そうであってほしいと思ってるから、空想の中に夢を見るんだ。


でなきゃ、年老いた親が高齢者施設に預けられて、子供も孫もロクに会いに来ない、たまに会いに来たって余所余所しくて他人行儀だったり、上辺だけで話してるのが他人からはバレバレだったり、それかと思ったら遺産とか欲しさに表面だけを取り繕って仮面みたいなニコニコ顔で接するとかなんて話がこんなにある訳ないよね……」


日が暮れてから起きてきたミハエルと一緒に夕食の用意をしながら、アオは、寂しそうにそう言った。


そんな彼女にも、ミハエルは優しい。


「そうだね。たとえ親子でも、お互いをより深く理解するには、人間が持てる時間はあまりにも短い。僕達吸血鬼は、誤解があったとしてもそれを解く為にたっぷりと時間を掛けられる。もし感情的になってしまったら、お互いに頭を冷やす為に距離と時間を置くことも簡単だ。それができるというのは、長命であることの強みだと思う」


親に対する愚痴をこぼすアオを、ミハエルは決して責めようとはしなかった。多くの人間がこういう時には、


『親の気持ちを考えろ』


的な押し付けを行うものだろうが、ミハエルはそうではなかった。彼女に対して何も押し付けず、ただ彼女の話に耳を傾けてくれた。


それがアオにはとても心地好かったのだった。



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