もったいないよ
ついつい仕事をサボってしまいそうになるだらしない一面や、お風呂上がりのミハエルをついつい邪な目で見てしまうみっともない一面や、彼を育成してそれを小説のネタにしようとしていた浅ましい一面まで受け止められてしまい、アオは、
『うう…恥ずかし~~~~~』
と、またまたいたたまれない気分になった。
『なんだかすごく掌で踊らされてる気がする……』
とも思う。しかし…
『でも、彼を見てたらそんなこともどうでもいいって気分になってくるな~…♡』
なんてことを考えながらふと時計を見ると、
「ありゃ、もう四時か。そろそろ寝なくちゃね」
夜明け前だった。いつもはもう少し早く寝るのだが、ミハエルのおかげで集中できたのか、いつも以上に原稿が捗ったのだ。おかげで没になった原稿の代わりが、予定よりは早く仕上がりそうだった。
『さて、また好き勝手に描いたからこの原稿もボツかもしれないけど、楽しかったからいいや』
不思議な満足感を味わいつつ、
「じゃあ、私はもう寝るね。ミハエルはどうするの?」
問い掛けるアオにミハエルは、
「僕は日が出るまでは起きてるよ」
そう言って手を振った。そんな姿も可愛くて、アオは自然と頬が緩むのを止めることができなかった。
『くぅ~~! いいなあ♡』
そうして寝室へと入っていったアオを見送った後、ミハエルは一人、パソコンを眺めていた。
画面にはSNSのページが映されている。
『日本語の読み書きもできるようにならなくちゃね…』
そう思い、チラシの余白に見た文字を書き込んでいく。
『今日見た超絶ブス、特別天然記念物レベルwwwww』
だの、
『今日の合コン、マジハズレ。ゴミしかいなかった』
だの、罵詈雑言のオンパレードだったが、特に気にする様子もなく見たままを書き取っていく。
『日本人でもやっぱりこんな汚い言葉を使うんだな……』
まだ十分とは言えないものの、それでも多少は分かるだけに、他人を罵倒するような文言であることは実は理解できていた。
それでも、彼は平然としている。
彼が見てきた現実に比べれば、この程度はまだ『カワイイ』レベルだったからだ。
『人間にはいろんな面があるからね。こんな言葉を使ってる人達だって、自分の大切な人にはこんないい方しないんじゃないかな。
だけどこんなことをしてたら相手からも言い返されて、結局、自分も嫌な思いをすることになるのを早く気付いてほしいな……
人間の人生は短いよ。他人と罵り合ってストレスを抱えて生きていくなんて、もったいないよ』
パソコンの画面に映し出されている修羅場のような光景とはまったくそぐわないほどに、それを眺めるミハエル表情は穏やかなのだった。