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おうち

『う~む…普通過ぎてなんか面白味がないな。とは言え、風呂場が明らかに、庭の一部を潰して後付けで付け足したものが丸分かりな間取りが変と言えば変だけど、それくらいだとなあ……』


アオは再び一階に下りてきて念の為にと思って覗いてみた裏庭を見ながら思った。


しかしやはり、手入れがされてないことで雑草が生い茂ってるだけで特に怪しいところもない、三畳ほどの小さな庭で、家に沿うように洗濯機置き場が設えられているだけだった。


『今時、屋外で洗濯かっても、ちょっと前まではこれも普通だし』


と、見るべきものは何もない。


『これで相場の半額以下なら、普通にお買い得だよね……


頭金として半分支払えば、後は三十年ローンでも、賃貸マンションの家賃より安く済むな。ただまあ、そうなると結局は立て替えが必要になるかな……


いや、今の建物の土台と柱だけ再利用して大規模リフォームなら、改築と違って狭くはならないのか。


いっそのこと、さくらと一緒に住むということで、私好みの面白ハウスに劇的ビフォーアフターする?』


などと思ってしまう。そして実際、購入の算段まで始めてしまった。


ただ、さくらの方はまだ冷静で、


「ありがとうございます。今日のところは帰ってゆっくり検討してみます」


と担当者に告げて、帰ろうとした。


なのに、家を出た時、それまですごくおとなしくしていたあきらが、


「おうち…! おうち……!!」


と急に声を上げて、家の方に手を伸ばした。


「どうしたの? 洸」


突然のことに、さくらが驚いた様子で問い掛ける。けれど洸はやっぱり、


「おうち、おうち……!」


と声を上げながらまるでそこが自分の家だと言わんばかりに、そこに帰りたいとばかりに、身を乗り出して手を伸ばす。


『おうち』という言葉も、この時、初めて口にしたのだ。


「まさか、洸はここを自分の家だと認識した…?」


「やっぱり、そういうことでしょうか……?」


そんな様子を見ていた担当者は、『我が意を得たり』と言わんばかりの笑顔で、


「お子さんの方はすごく気に入ってくださったみたいですね…!」


などと口にする。


それからも洸は、「おうち、おうち」と騒ぐので、一旦、家の中へと戻った。すると途端に落ち着いて、安心したようにおとなしくなる。


仕方ないので、念の為にと持ってきていた保温ポットのお湯でミルクを作り、その場で飲ませた。


そしてミルクを飲み終えると、洸はそのまま眠ってしまったのだった。


その隙に家を出て、ニヤニヤ笑顔が止まらない担当者に見送られながら物件を後にして、アオのマンションへと帰ることにしたのである。



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