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手際

『……♡』


ペットキャリーの中で丸まって眠るあきらに意識を向けると、アオはふわっと胸があたたかくなるのを感じた。


あまりの可愛らしさについ興奮してしまいそうになるけれど、せっかく落ち着いて寝てるのだから余計なことはしない方がいいと思い、自分を抑える。


と、そこへミハエルが帰ってきた。


さくらが置いていったお金を使って、新生児用の粉ミルクと哺乳瓶と乳首を買って。


「ドラッグストアがまだ開いてたから、そっちで買ってきた」


とのことだった。確かに、粉ミルク等を買うのであればそちらの方が確実だろう。


ちなみに、以前のストーカーの件のこともあり、二駅分、離れたところのドラッグストアまで、走って、と言うか跳んでである。


エンディミオンにできることは、当然、ミハエルにもできる。


それはさて置き、ミハエルはさっそく湯を沸かし始め、同時に哺乳瓶と乳首を煮沸消毒し、手際よくミルクを用意してみせた。


「はにゃ~、ホントに赤ちゃんの世話をしてたことがあるんだね」


ミハエルがこういうことで見栄を張って嘘を吐くとは思っていなかったものの、実際に慣れた手つきで用意をする姿には素直に感心してしまった。


すると、匂いに気付いたのか洸が目を覚まし、ふんふんと鼻をひくつかせた。それでも、まだ不安なのか、ペットキャリーの中からは出てこようとしない。


でも、ミハエルの方も、哺乳瓶を近付けはするものの、無理矢理引っ張り出してミルクを与えようとはしなかった。


ここで焦って怯えさせては元も子もないからだ。


せっかく作ったミルクが無駄になることも承知の上で、ミハエルはただ待った。


「……今回は無理かな…」


そう言って諦めかけた時、洸がおずおずと、躊躇いがちながらもペットキャリーの奥から扉の辺りまで出てきた。


そこでそっと哺乳瓶を近付けると、それをペロッと舐めてみせる。


『カ、カァワイイ~っ♡』


そんな様子に全身を血が駆け巡るような感覚を覚えながらも、アオは両手で自分の口を押えて自重した。洸を脅かさないように。


『いや~、これはタマりませんな~♡』


なんてことを思いつつ、黙って成り行きを見守る。


洸は何度も哺乳瓶の乳首をペロペロと舐め、ミハエルはゆっくりとそれを手前に引き寄せた。それに誘われるように洸もペットキャリーから出てくる。


そしてミハエルは洸に哺乳瓶の乳首を舐めさせたまま、そっと体の下に手を差し入れ、急がず慌てずそろそろとその体を持ち上げた。


そうして自分の胸に抱きかかえ、哺乳瓶を構えると、洸は乳首をしっかりと口に咥え、んぐんぐとミルクを飲み始めたのだった。



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