ミルク
こうして<洸>と名付けられたウェアウルフの子は、アオとミハエルが預かることとなった。しかしそうなると、いろいろと準備が必要になる。
「取り敢えずまずこれだけ置いていきます」
そう言ってさくらは三万円を置いていった。
『別にいいのに』
とアオは思ったものの、まあさくらの気持ちも酌んで受け取っておいた。
さくらが帰った後、アオはペットキャリーの扉を開けたものの、洸は中から出てこようとしなかった。怯えて奥に引っ込んでしまっている。
「無理に構おうとしない方がいいよ。彼は今、すごく怯えてるから。僕たちが敵じゃない、危害を加えるつもりがないというのを彼が悟るまでそっとしておこう」
ミハエルが言うと、アオも、
「そうだね。とにかく部屋の温度は寒くならないようにしておくから、そんなに厳しいことにもならないと思う」
と応えた。
何か食べさせてあげたいところだったけど、
「たぶんまだ、ミルクしか飲めないだろうな」
とはミハエルの言葉。
「ミルクって、どんなミルクがいいのかな。犬用のミルクって今はある?」
と言いながら大手通販サイトで検索すると、ずらっと商品が並んだ。
「おおう! やっぱりあるんだ。こんなにか」
そんなアオにミハエルは、
「ウェアウルフなら人間用のミルクでも大丈夫だよ」
とも。
「あ、やっぱそうなんだ? その辺りのところどうなのかなって思ったこともあったんだけど、さすがにどっちの能力も持ってるってことなんだね」
「うん。食事だって、犬や狼と人間は別にしないといけないことも多いけど、ウェアウルフはその点ではあまり気を遣わなくていいよ。人間の食事でも大丈夫。そういう意味では育てやすいというのはあると思う。
ただ、だからこそ一度人間を敵と見做してしまうと難しいけどね。
まあそれでも、ダンピールが吸血鬼を憎んでるのに比べればまだ対処の仕方もあるかもだけど」
少し苦笑いを浮かべてそう言った彼に、アオも困ったように微笑み返す。
「でもそうなると、人間用のミルクをとりあえず買ってきた方がいいのかな」
「僕が今からディスカウントストアまで行ってくるよ。アオはこの子を見てて」
「分かった」
ミルクについてはミハエルに任せ、アオは敢えて洸には意識を向けないようにして、リビングに持ち込んだノートパソコンで仕事を始めた。
意識が向けられてると感じると、洸の方も気が休まらないだろうと思ったのだ。
それが功を奏したのか、洸はペットキャリーの奥に引っ込んだままではあったものの、少し落ち着いた様子で体を丸め、やがてすうすうと寝息を立てて眠ってしまったのだった。




