けもけもの章 捨て犬?
いつものようにアオの家での打ち合わせに向かうために、さくらは駅に向かって歩いていた。しかしその前に、夕食をとろうと思い、
「今日は何にする?」
とエンディミオンに尋ねると、
「焼き鳥だな。今日はそういう気分だ」
とのことだった。
血が滴るような肉々しい肉が特に好きだが、甘辛いタレがたっぷりとかかった焼き鳥も、時折、無性に食べたくなるのだという。
「分かった。いつもの店でいい?」
重ねて訊くと、
「ああ、構わん」
エンディミオンが吐き捨てるように言う。そこでさくらは、駅近くの焼き鳥屋の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。今日も綺麗だね、お姉さん」
少々品のない笑みを浮かべつつ、店主が、さくらの顔を見るなりそう言って出迎える。しかしさくらは動じることなく、
「いつものお願いします」
と応え、
「はいよ」
で通じるほど、馴染みの店だった。
さくらにはねぎまとご飯、エンディミオンは胸肉の櫛が十本、すぐに出てくる。
「しっかし、えらいねえ、お姉さん。そんな小さな甥っ子さんの面倒見てるなんてさ」
店主がただの世間話として話しかけてきた。
<甥っ子>ということにはしているが、それが<訳アリ>であることは店主も察している。こういう店にはそれこそいろんな人生を抱えた人間が来るので、店主もあまり詮索はしない。『甥っ子だ』と言われれば、そういうことにしておいてくれるのだ。
だからさくらも、
「でも、すごくいい子なんですよ」
と愛想笑いで返した。それでこの話題は終わりだ。
後はエンディミオンががつがつと肉を貪り食うのを見ながら、さくらもねぎまをゆっくりと口にしたのだった。
食事を終えて店を出て、再び駅に向かって、狭い路地裏を歩く。あまり遅い時間だと、女性の一人歩きには少々の不安もある場所だが、今はエンディミオンがいるのでまったく心配はない。
だが、その時、さくらは妙な違和感を覚えた。
「?」
進行方向、何かの店の裏口と思われる扉の脇に置かれた段ボール箱が動いたように見えたのだ。
まさかと思ってよく見ると、段ポール箱そのものが動いてるのではなくて、その中に入っているものが動いてるのだと分かった。
「なに…?」
思わず小さく声を上げたさくらに、エンディミオンが言う。
「そいつ、ウェアウルフだぞ」
あまりにさらりと事もなげに言われたので、
「え…?」
と、一瞬、唖然としてしまったが、すぐに意味が頭に入ってきて、
「ウェアウルフって、まさか……?」
と訊き返してしまった。するとエンディミオンもさらりと返す。
「ああ、狼人間のことだ」
「!? でも、そんな……」
「あのな。吸血鬼やダンピールがいるのに狼人間がいるはずないというのはおかしいだろう?」
「そ…そうか。言われてみればそうだよね……」




