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浅ましくてヤだなあ

『うひひ♡ よ~し、来た来たぁ……♡』


新作候補となる原稿をしたためていると、アオは自分がノッてくるのを感じていた。それは、彼女にとって『面白い』ものが書けている時の特徴だった。


こちらは、人里離れた場所で一人で暮らしていた吸血鬼の女性の下に、森の中で親に捨てられて彷徨っていた少年が転がり込んでくるという話だった。


女性は少年に(吸血鬼として)手を出さないように四苦八苦しながらも、彼の為に<母親>となっていくという流れである。


大まかな展開そのものは実はこれまでにも何度も描いたものだったが、アオはそういう話が好きなので、この流れになるとすごく調子が出てくるというのもあった。


が、同時に、


『あ~、こりゃ今回もボツかな~』


という予感もある。


あまりにもパターン化した展開だったからだ。


アオ自身は、その種の<お約束>も実は嫌いではなかった。あくまで好みのそれとそうでないものがあるというだけだ。


単に、理由もなく都合よくお互いが惹かれ合うようになったり、少年の親が現れて『本当はあなたのことが大事だった』とかムシのいいことを言ってお涙頂戴のまま少年に対して行った仕打ちをなかったことにするという展開が好きではないだけである。


自分が両親や兄のことを、一生、許せることはないだろうなと思っているが故に。


許せはしないが、別に攻撃するつもりも復讐するつもりも今はない。


……いや、年老いてアオのことを頼ろうとした時には突き放そうと今でも思っていることが<復讐>に当たるならそうなのかもしれないが……


それでも直接こちらから何かしようとは、少なくとも思っていなかった。


ちなみに、アオの兄は今、何を思ったか国家公務員のエリートコースを捨てていわゆる<ブラック企業>と呼ばれるような会社に役員待遇で迎えられ、労働法規を無視した勤務を部下に強いて、根を上げようとした部下については、


「甘ったれんな!」


と罵って、


「お前が勝手なことをして会社の損害を与えたら、裁判を起こしてやる! 一生、その償いをして生きることになるようにな!」


などと脅迫じみたパワハラで、僅か数ヶ月の間に何人もを精神疾患に追い込み、中には自殺未遂を図った者さえいる傍若無人ぶりをいかんなく発揮しているところだった。


これについては、『本性が出たな』としか思っていない。なのでもしかすると、今の仕事の方が彼にとっては楽しいのかもしれない。だから転職したのかもと感じた。


それがいつまで続くか分からないが、遠からず逆に訴えられることになるだろうとは、アオは思っている。


もっとも、訴えられたところで、


『飼い犬に噛まれた。この恩知らずが!!』


とか言い出すだろうというのは目に見えているとも思っていたが。


実は、現在、そんな兄とアオの年収はほぼ同等だった。そうやって他人を虐げている兄と自分の年収が大して変わらないということに、彼女は内心、


『はっはっは~! 愉快愉快!』


と思っていたりもしたのだが、正直、そんな自分も、


『浅ましくてヤだなあ…』


とも感じていたのだった。



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