クラウン
「あ~、なるほど。『ブリキのクラウンを被った少年が落ちぶれて』って流れがマズい感じか」
「はい、<ブリキのクラウン>は、<クラウン・パヴァネリアス>のキービジュアルですから」
「私としては、<ブリキの少年、異世界を歩く>のifルートのつもりだったんだが……」
「ええ、私もそれはすぐにピンときたんですけど、世間的にはアニメ化によって知名度もさらに高くなった<クラウン・パヴァネリアス>がまず連想されるでしょうね」
「確かに……」
そう言ってアオは深く頷いた。
ちなみに、<クラウン・パヴァネリアス>とは、前クールに放送され人気も博した漫画原作のアニメである。その主人公の少女が、<ブリキのクラウン>を被っているのだ。
対して、<ブリキの少年、異世界を歩く>とは、アオの商業デビュー三作目の、『記憶を失ったブリキの少年が異世界を旅しながら様々な女性と出逢い、数々の成功を収めると共に人間へと変じていく』という内容の小説だった。こちらも、挿絵において、主人公の少年の頭にはクラウンを模した意匠が施されていたのだ。
で、アオは、その自作のキャラクターのifルートとも言うべき劇中劇を次作として発表予定の小説の中に記述していたのである。
発表時期としては<ブリキの少年、異世界を歩く>の方が、<クラウン・パヴァネリアス>の原作者が漫画の基となったイラストを無料イラスト投稿サイトに掲載するよりも一年以上前だったのだが、知名度としては確実に<クラウン・パヴァネリアス>の方が上なので、どうしても、
『<クラウン・パヴァネリアス>を揶揄してる』
と受け取られる可能性を想定しなければならなかった。
なお、
『少女が被っているならクラウンではなくてティアラでは?』
という指摘もあるかもしれないが、作中では<少女の父親が作ったオモチャのクラウン>として描かれているので、まぎれもなく<クラウン>である。
「しかし、出版社も大変だな。今はここまで気を遣わなきゃいかんのか」
さくらに指摘された部分を読み返し、『さて、どう差し替えようか』と思案しつつ、アオは呟くように言った。
「はい。盗作疑惑などを招いたりしても会社にとってはダメージですので、他の作品と似た部分がないかというのは厳重にチェックするように言われてるんです」
「盗作なあ……しかしこれだけ創作物が世の中に溢れていたら、むしろ他に似ている部分が全くない作品を探す方が至難の業だと思うが?」
「それは私も思いますけど、実際、うちが契約していた作家さんでも、Web小説から盗用したっていう事例はありましたから、今は特に神経質になってます」
「あ~、あったな。盗用した作家の方が、本来の権利者を名誉棄損で訴えてってやつ。で、結局、魚拓が証拠になって全面敗訴したんだっけ?」
「はい、あれは本当に大変でした……」




