陰謀論
「それにしても、大国の上層部が吸血鬼の存在を把握してるってなったら、フィクションだと吸血鬼の能力を利用しようとしてあれこれ実験とかが定番だと思うけど、そういうのはどうなの?」
「それについてはこれまでもう散々、試されてきたことらしい。二度の大戦の陰でもね。
僕の父さんは、そうやって人間に協力したんだ……」
突然の<告白>に、アオがハッとなる。
「そうなの…!?」
少し声が大きくなってしまったことで、前から歩いてきた仕事帰りと思しき女性が、ビクっと体を震わせる。『何事か?』とアオを見るが、スマホを手にしイヤホンをしていたことで、通話しているんだなと解釈したらしく、少し意識を向けながらもそのまますれ違った。
ミハエルはそれを確かめてから、話を続ける。
「僕達がいくら人間との関りを避けて隠れ住もうとしても、人間はそれを探し出して利用しようと考える。
そこで父さんは、だったらいっそ、人間が納得するまで徹底的に協力しようと思ったらしい。加えて、父さん自身が、ちょっと科学者的な気性の持ち主で、吸血鬼の能力の解明と科学的な利用ということについて、知的好奇心を刺激されてたらしいんだ」
「……へえ……だけど、ミハエルのお父さんの気持ち、ちょっとは想像できるかな。確かに興味はそそられるよね」
少し苦笑いを受かべながら話すミハエルを気遣うようにアオは言った。
そんな彼女に、彼の表情もまた柔らかくなる。ただまたすぐにやや険しい表情になったが。
「…まあでも、結局は上手くいかなかったそうだけど。
吸血鬼が直接眷属にする以上に<劣化>が酷くて、命令なんか聞かない、本当にただの<怪物>にしかならなかったって。何十年研究しても。
しかも、その実験で生み出された<怪物>を倒す為に大変な被害が何度も出て、結局、無理にそういうものを作ろうとするよりは必要な時に吸血鬼に協力を頼んだ方がいいってことにもなったみたい」
「そっか、そうかもしれないね」
そこまでで話を一旦切り、ミハエルは、
「あと、これはあくまで噂程度の話なんだけど……」
と前置きした上で、
「大戦時に、無条件降伏を受け入れられず、アメリカと徹底抗戦を考えた日本軍の一部の将校が、利害の一致ということでソ連軍の一部将校と結託して吸血鬼の軍事利用を図ったんだけど、それでまた怪物を作っちゃって、その怪物を始末するという口実でソ連軍が日本に侵攻したっていう話もあるんだよね」
などと口にした。するとアオは今度は、驚くというより呆れた感じで、
「なにその陰謀論みたいな話?」
と声を上げたのだった。




