無茶な解決方法
「ストーカーするような奴はこっぴどく痛めつけてやればいい。
などと世間は思うかもしれないが、私はそういうのには賛同できない。そんな風に考える輩も、所詮、ストーカーと同類だとしか思わんのだ」
事件の幕が下ろされ、あの女性がアゼルバイジャンに渡航してしまったことが分かって数日、やはり打ち合わせの為に新しい部屋を訪れたさくらの前でアオは憮然とした表情でそう言った。
そんな彼女に、さくらも頷く。頷きながらも、
「私もそれは同感です。『他人を傷付けてでも自分がいい気分になりたい』って考える人は危険です。
だけど、今回の一件をもし<作品>にされても、私は編集としてたぶんOKは出せませんね」
ときっぱりと言い放った。
「ああ、分かってる。こんな展開や結末、ほとんどの読者からは『バカにしてんのか!?』って言われるだろう。だが、私は嫌いじゃない。こういうのはな」
苦笑いを浮かべながらアオが言う。するとさくらも、
「私も、現実問題としては、ベストではなくてもベターだったと思います。誰も決定的には傷付かなかったんですから。
ストーカーとの直接対決とかがあった方が話は盛り上がりますけど、現実はそんな簡単にはいかない。そんなことをしたら余計に話が拗れてしまうのが普通だと思います。実際、そうやって大きな事件になった事例だってあると思うんです。フィクションと現実は違う。
フィクションとして面白い解決方法と、現実として効果的な解決方法とは違うんです。
だけどフィクションのそれを有効だと考える人も少なくない。
私はフィクションを提供する側として、それがすごく残念です……」
と応えた。
またアオも、
「まったくだ。
アニメとかの表現について規制を訴える声が出るとそれに対して、『アニメと現実をごっちゃにするな!』と言う奴もいるが、そういう奴も、アニメとかで出てくる<無茶な解決方法>を現実でも取り入れるべきみたいなことを言っていたりする。
本当に、フィクションと現実とを混同してるのはどっちだというんだ。
って話だな」
などと拳を握り締めて言う。
「そうですね」
「ま、そうは言っても、今回のは、あくまでミハエルだったからこそできた解決方法で、普通の人間にはこれはムリだ。気配を消していないように見せかけるのもそうだし、空港でのことも人間にはできない。
決して<吸血鬼らしい解決方法>ではなかったかもしれないしカタストロフィもなかったかもしれないが、人外だからこそであるのも事実だ」
「はい。ミハエルくんならではですよね」




