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ヒドイ人

「その、宗十郎っていう人はその後どうなったの?」


「彼は…十年くらいしたら病気で呆気なく死んじゃった」


「…眷属にはしなかったの?」


「うん。彼は僕とママが吸血鬼だって知らなかったから」


「バレなかったんだ?」


「バレないよ。彼には僕は病気で成長しないって言ってあったし……


……ううん…本当は彼も薄々気付いてたのかもしれない。だけど何も訊いてこなかったんだ。それに、彼自身、戦争中にあったこととか話さなかったし、きっと訊かれたくないこととかがあったんだろうね」


「そっか…戦争だもんね」


「僕とママも、人間の戦争に関わりたくなかったから、シベリアの、人がぜんぜん住んでないところに隠れるように住んでたんだ。普通の人間にだととても住んでられないかもしれないけど、僕達にはどうってことなかったし」


「なるほどぉ……


宗十郎さんは日本に帰りたがったりしなかった?」


「ううん。『帰れない』とは言ってたけど……


大事な友達が何人も死んだのに自分だけ帰るなんてできないとは言ってたかな。日本に許嫁を残してきた人に、『絶対に生かして帰してやる』って約束したのに守れなかったからって」


「重いなあ……」


などとしんみりした空気になってしまったことで少し落ち込んでしまったが、そんな霧雨に気付いて、ミハエルは、


「お姉さんは、優しいね。そんな見ず知らずの人のことで悲しめるなんて……」


と、ふわりとした柔らかい笑顔を浮かべながら労わってくれた。その姿があまりにも眩しくて、


「いえいえ私なんてとんでもない! 担当編集からは『この人でなし!』ってしょっちゅう言われてますから…!」


などと両手と首ををぶんぶんと振りながら言ってしまった。


するとミハエルはちょっと悲しそうな表情になって言う。


「お姉さんのことを『人でなし』だなんて、ヒドイ人がいるんだね……」


それに霧雨はまた焦ってしまって、


「あ! いやいや、彼女はそんなヒドイ人じゃないです! 真面目で熱心で、私の小説のことをすごく考えてくれてるんです。ただ時々、創作に対するスタンスの違いで意見がぶつかっちゃって、売り言葉に買い言葉って言うか、私の方もキツイこと言っちゃってそれで……!」


と、殆ど罵り合いのように言い合っていた担当編集・月城さくらのことを擁護してみせた。それが本心だった。


創作については蒼井霧雨自身に強い拘りがあることからそれにそぐわないことを言われたりするとつい反発してしまうものの、『凡百な作品に満足できない層の為に書いている』というのも事実であるものの、その拘りと同じくらい、月城さくらには感謝もしていたのだった。



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