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プロローグ
─構うな、じゃない。そんなに怪我してて、何言っているんだよ。
新緑の光の中、まっすぐな眼差しをした子は、そう言って怒った。
シンプルだが、高価であろうハンカチを躊躇いもなく、真紅の傷口にあてる。
癒しの魔法があるらしいそのハンカチは、受けた傷を徐々に癒していく。
傷が全て癒えた頃には、ハンカチはもう使い物にはならなくなっていた。
─いいよ、あげる。魔力はもうないだろうけど、傷口が開いたら、止血するもの必要だし。
申し訳ない、と言うと、その子は何でもないことのようにそう言った。
誰かが、誰かを呼ぶ声がする。
ラシャン。
声は、確かにそう言った。
すると、女の子は慌てたように立ち上がった。
─ごめん。私、呼ばれてるから、行くよ。もう無理するなよ、少年!
女の子は、声に応えて走り去っていった。
申し訳ない。
もう一度、口に出してみる。
申し訳ない。
我は、あなた達「ヒト」の最大の敵、忌むべき魔王の末裔だ……。