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54 ブロッコ

54 ブロッコ


 マルクシア西部の広大な草原では、そこかしこで黒煙が上がっていた。

 そんな光景を見下ろすかのように、一機の航空機が晴れ渡る空の上を舞っている。


「お、下ではよろしくやってるみたいなだ」


 小型の偵察機に搭乗し、翼下の様子を眺めていたのは他でもないブロッコ中尉だった。


 開戦にあたり、レタリア軍の偵察機乗りである彼は後退するマルクシア軍の状況を観測するために戦場の上を飛んでいた。

 地上では砲爆撃に逃げまどうマルクシア軍が蜘蛛の子を散らしたように後退しており、戦線は完全に崩壊している。

 ブロッコはその様子を友軍に伝えるべく、後部座席に乗る無線手に声をかけた。


「よし、友軍に伝えてくれ。抵抗する敵戦力なし。進撃を続行せよ、だ」


「了解。打電します」


 命令を受けた無線手は、手早く無線機を操作し、情報を味方へ打電する。

 こうして、戦場を俯瞰的に見降ろして敵の情勢をいち早く把握し、地上部隊へ報告するのが彼ら偵察機乗りの役目だ。

 彼らの活躍のお陰で、レタリア軍は順調に初動の快進撃を続けることができた。


 一仕事終えたブロッコは一息おいて旋回飛行を続ける。


「さて、進撃はえらく順調だな。というより、国境に展開するマルクシア軍が少なすぎる気もするが……」


 その言葉に、無線手が応じる。


「動員が済んでいないマルクシアは国境周辺の領土を放棄するつもりなんでしょう。本格的な抵抗は、もう少し進撃してからでしょうね」


 無線手の主張にブロッコも同意する。


 何度かマルクシア領の偵察飛行を行っていたブロッコは、マルクシア軍の主要防衛線を大よそ把握していた。

 マルクシアは、南西部の国境線に最低限の部隊しか配置せず、主要な戦力は河川沿いや大都市周辺に集中させ、なるべく守りやすい綺麗な防衛線を構築していた。

 しかし、レタリア軍の目的は敵野戦軍の包囲殲滅だ。今後は、その主力防衛線を食い破り、敵の後方に進出する必要がある。

 それを知るブロッコは、今後の戦いにいささか苦難が伴うであろうことを覚悟した。


「ここ最近、戦争続きだっただけにマルクシアも戦い慣れしてるな。今後は敵の弱点を探ろう」


 ブロッコがそう呟くと、不意に無線主が叫んだ。


「中尉! 2時方向に機影! 1、2、3……4機はいます!」


「おっと、無駄口叩いてたら敵のお出ましか。このまま友軍機と合流するぜ。味方に接敵を伝えてくれ」


 操縦桿を切ったブロッコは、敵に尻を向けて友軍の制空隊と合流する。

 そして、無線手は合流した友軍機に敵襲来の一報を告げた。

 

 ブロッコは状況を確認するかのように呟く。


「味方が4機で敵が4機か……対等の勝負じゃ面白くない。僕達も少し遊んでいくとするか」


 その言葉に、無線手は慌てて声を上げる。


「中尉、我々の任務は偵察です! 制空は友軍に任せましょう」


「下でも上でも味方は戦ってるんだ。逃げてばかりもいられないだろ。さて、舌を噛まないよう少し黙ってな!」


 そう告げたブロッコは、強引に舵を切って敵機入り乱れる空域へと引き返す。


 ブロッコの操縦する偵察機は〝Mo-16R〟といい、通称〝モランデル〟と言われるレタリア軍主力戦闘機を二人乗りの偵察機に改造したものだった。

 元々戦闘機なだけあって、低翼単葉のモランデルは飛行性能が高く武装も充実している。

 後はパイロットの腕の見せ所だった。


 敵と味方は2機ずつの編隊を組み、互いの尻を追いかけ回している。

 空中戦でよく見られる〝ドッグファイト〟と呼ばれる状況だ。


 しかし、編隊を組まないブロッコのモランデルR型は単機で行動ができる。

 それを生かし、高度をとったブロッコは味方の追撃に夢中になるマルクシア軍機に上空から襲いかかった。


 ブロッコが射撃レバーを握ると4門の12ミリ機関銃が同時に火を噴き、曳光弾が綺麗な直線を描く。

 そして、その直線と交わった敵機は瞬く間に火を吹いて地上へ堕ちていった。


「よし、一機目!」


 ブロッコが戦果に歓喜していると、無線手が叫ぶ。


「中尉! 後方から2機追ってきます!」


「知ってらぁ!」


 そう叫んだブロッコは、操縦桿を一気に倒し、フットペダルを踏み込んで機体をロールさせる。

 大きな横機動によって空気抵抗を受けた機体は急減速し、まるで舞い落ちる花びらのように空中でひらりと舞う。

 すると、速度の出過ぎている敵機は何もない空間に機銃をばら撒いてモランデルR型の横を通り過ぎていった。


 その瞬間、ブロッコは敵のパイロットと目が合った気がした。


「甘い。甘いねぇ! そんなんじゃ女の子一人落せないぜ!」


 そう叫んだブロッコは通り過ぎた敵を照準器に捉える。

 だが、射撃レバーを握るまでもなく、残りの2機は追いついてきた友軍機によって次々と撃墜されていった。


「あれま、横取りされちゃったよ」


 機体の態勢を立て直したブロッコが周囲を見回すと、残りの1機は尻尾を巻いて逃げだしていた。

 その様子を見届けた無線手は、味方から入った通信をブロッコに伝える。


「友軍機より入電です。余計なことをするな、だそうですが」


 その言葉に、ブロッコは声を上げて笑いだした。


「やれやれ、助けてやったのにその言い草か。とにかく、俺達の初戦果だ。今晩はどっかで女の子でも捕まえて祝勝会といこうぜ」


 その言葉に、無線手は苦笑いで応じた。

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