表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/72

51 皇立近衛師団2

51 皇立近衛師団2


 イリス共に専用車に乗り込んだ月代は、3時間ほどかけてラトムランド南東部へ移動した。

 広大な穀倉地である南東部は、平原と麦畑の広がる片田舎だ。

 しかし、そんな長閑な景色とは裏腹に、街道はマルクシア国境線へ展開移動を行うレタリア軍で溢れており、いささかキナ臭い空気を作りだしていた。


 小さな町はずれの野営地に到着した月代とイリスは、専用車を降りて目的の人物を探す。

 そのままテント作りの師団司令部を訪ねると、彼女をすぐに見つけることができた。


「イリス殿下に、ツキヨさん! お元気そうでなによりですわ!」


 そう告げて駆け寄ってきたのは、皇立近衛師団の師団長ことティナだ。

 相変わらず姉のレイラとは大違いのテンションだが、4年経ってもその印象はいささかも変化していなかった。

 イリスの方もティナとは久しぶりの再会だったらしく、軽く挨拶を交わす。


「久しぶりじゃのうティナ。よろしくやってるようじゃな。そちには、そろそろ軍団長か方面軍指揮官クラスの地位を与えたいところじゃが、まだ近衛師団に拘っておるのか」


 ティナは胸を張って応える。


「当然ですわ。皇立近衛師団はわたくしが丹精込めて育て上げた部隊です。私が老い果てるまで、その座をゆずる気はありませんわ」


 ティナは先の対マルクシア戦争で見事な師団指揮を見せた勝利の立役者だ。

 4年も経てば昇進していてもおかしくないが、どうやら自ら進んで今の地位に留まっているらしい。

 頑固なところはイリスやレイラと同じくラトムランド皇家の血筋あってのことだろうと月代は思った。

 

 イリスとティナの話に耳を傾けていた月代は、ふと近くに見たことのない戦車が鎮座しているのを見つけた。

 二人の会話がひと段落したところで、月代はその戦車についてティナに問う。


「あそこに置いてある戦車は新型ですか?」


 その言葉に、ティナは目を輝かせて前のめりで応える。


「よくぞお聞きくださいました! あの戦車こそ、我が国の誇る最新鋭戦車Tm-5の指揮戦車仕様〝グスタフ2世〟ですわ! 主砲は長砲身60ミリ砲を搭載し、正面装甲は60ミリ! 最高速度は時速40キロ! そして無線機も電波の強い物を搭載! まさに世界最先端! わが愛馬に相応しい一品ですわ!」


 相変わらず戦車のこととなるとティナは口数が多くなる。

 しかし、お陰で仕様はよく理解できた。

 つまるところ、対戦車戦闘も十分にこなせる標準的な中戦車といったスペックを持っているらしい。


 月代はティナのテンションに若干引きつつも質問を続ける。


「なかなかよさそうな戦車ですね。戦車以外の装備も新しくなったんですか?」


「ええ、旧式化した軽戦車を改造して作った野砲牽引車や装甲輸送車もそこそこ揃えていますわ。ツキヨさんのアドバイス通り、皇立近衛師団は迅速な展開と敵線突破が可能なよう、機械化を推し進めているところですの。ウチの師団だけでなく、今や独立戦車旅団の他にも3個ほど機甲師団を編成できるようになりましたの! やはり戦争の主役は戦車ですわ!」

 

 月代にとっても、機械化戦力が拡充したのは非常に助かるところだった。

 機動力の高い強力な師団が複数あれば、それだけ戦略の幅は広がる。

 ラトムランド軍の機甲師団は、まさに切り札といってもよかった。


 イリスはティナの言葉に「うんうん」と頷いて誇らしげに口を開く。


「これも我が国の重工業が躍進した成果じゃな。歩兵や物資を運ぶトラックの量産は元より、機関銃や野砲も新型を続々と配備しておる。しかし、いかんせん数が足りんのは昔と同じじゃな。常備軍を賄うには十分じゃが、新たに動員する部隊は旧式装備で戦うことになるじゃろう」


 ラトムランド軍の現状がわかったところで、月代は話題を変える。


「だけど、この戦争で侵攻の矢先に立つのはレタリア軍だ。彼らの装備や練度はどんな感じですか?」


 その問いに、ティナが応える。


「そうですわねぇ。装備のレベルは我が軍と同等くらいでしょうけど、少し気の抜けてる感じがしますわね。せっかくですから、当人と話してみてはいかがでしょうか」


 そう告げたティナは後ろを向き、〝グスタフ2世〟の脇でラトムランド軍の女戦車兵士と話していた一人のレタリア軍人に声をかけた。


「ブロッコ中尉! いつまでウチのセシリアを口説いてますの! ちょっとこっちに来ていただけます!」


 ブロッコと呼ばれたレタリア軍将校は、女戦車兵との会話を中断し、やれやれといったポーズをとって3人の下へ近づいてくる。


「僕も引く手あまただな。ブロッコ中尉、ただいま美しきブラルト中将閣下の下に参上いたしました」


 そう呟いたブロッコは、軍人にも関わらず癖のある長めのブロンド髪を靡かせ、

派手な軍服を着崩している。

 タイプで言えば、控えめな月代とは対照的な、いささか癖のありそうな男だった。


 ティナは手短にブロッコのことを紹介する。


「こちら、レタリア空軍で偵察機パイロットをしているブロッコ中尉ですわ。暇を持て余してるみたいで、ウチの師団司令部を勝手にウロウロしてましたの。ほら、ブロッコ中尉。アナタの目の前にいるのが、我がラトムランドの現皇女イリス殿下ですのよ。ご挨拶しなさい」


 そう告げられたブロッコはオーバーに驚いてみせ、イリスに向けて深くお辞儀をした。


「おお、あなたがかの有名なイリス殿下ですか……なんとお美しい。僕のような下賤な者にお会いしてくださるとは、誠に光栄です」


 対するイリスはいつものように堂々と応じる。


「うむ、余がイリスじゃ。レタリアとの同盟によって、そちに会えたのも何かの縁じゃ。国籍という垣根を超え、我が軍と手を取り合ってくれ」


「は、言われるまでもございません。仕える君主は違えど、盟友として殿下に忠誠をお誓します」


 そう告げたブロッコは、イリスの手をとり顔の前に掲げる。

 すると、ティナが彼の頭に軽くチョップを下した。


「アナタのような男が殿下にお触れするなんて100年早いですわ。申し訳ありません殿下。どうも調子に乗りやすい男でして……それと、殿下の隣にいるのが皇室付けの軍事顧問ツキヨ・ヤルネフェルトさんですわ。アナタを呼んだのは、何も殿下と謁見させるためではなく、二人にレタリア軍のことを話してもらうためですのよ」


「そういうことでしたか。ブロッコです。よろしく」


 イリスの時とは打って変わって、月代に対するブロッコの挨拶はいささかぶっきらぼうだった。

 月代はなんとなくブロッコがどういう男かわかり始めてきたが、細かいことは気にせず聞きたいことだけを聞くことにした。


「初めまして。俺は軍人じゃないのでツキヨと呼んでもらって結構です。レタリアは空軍が優秀だと聞いていますが、ブロッコさんの任務は空中偵察なんですか」


 ブロッコはツキヨ相手に気さくに応じる。


「ええ、まあ。前線偵察と砲撃観測、それに空中哨戒が主な任務かな。レタリアは作戦機3000機を有する空軍大国だ。実を言うと、僕みたいに前線に派遣されてる連中は二線級で、主力は本国の空港から直接マルクシアを攻撃することになってる。本国の空軍基地は壮観だよ」


「本国から直接ってことは、戦略爆撃がメインなんですか?」


「そうなるかな。僕ら空軍の主任務は、マルクシアの国土を火の海にすることにある。元々、陸軍と空軍の仲が悪いのもあって、空軍は陸軍の支援にあまり興味を示してない」

 

 つまり、レタリアの空軍は〝戦略空軍〟に近い組織らしい。

 戦略空軍とは、前線への支援爆撃のような戦術的な作戦を行うのではく、敵国の工場、インフラなどを破壊して戦争遂行能力を奪い、同時に国民の士気を下げることを目的とした戦略的な任務を負う部隊だ。

 月代の住む現代では、弾道ミサイルや核兵器を運用する場合が多い。


 月代はその効果にいささか懐疑的だったが、それを口に出すかどうか考え込んでいると先にイリスが口を挟んだ。


「マルクシアを火の海にするというのは、民間人を直接攻撃するということか?」


 ブロッコは肩をすくめて応える。


「お上がどこまで考えてるかわかりませんが、少なくとも都市爆撃を行えば民間人にも被害が出るでしょう。僕もあまり快くは思わないが、まあ戦争ですので」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ