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50 軍事同盟 ◆

50 軍事同盟


 イリスがレタリアとの軍事同盟を承認した3日後、ラトムランドはロレンツを再びレタリアに派遣し、同盟の締結に合意していた。


 その後のレタリアの動きは意外にも早く、いずれマルクシアに侵攻することとなるレタリア陸軍部隊は続々とラトムランド領内に進駐し、準備を進めていた。


 その日、総軍参謀局ではマルクシア侵攻作戦について議論が交わされていた。

 今回、ラトムランド側の侵攻作戦計画をまとめたのは総軍参謀局長レイラだ。

 戦間期の4年間を不在にしていた月代は、その計画についてレイラから説明を受ける。


「今回のマルクシア侵攻作戦にあたって、我が軍は皇立近衛師団を含む常備軍20個師団を主力として前線に展開する。国民感情を鑑み、動員は開戦後より実行され、3週間後には追加で30個師団が編成できる見込みだ」


 月代の本音としては、今から動員を始め開戦時の正面戦力を充実させたいところだったが、こればかりは国民感情を鑑みレイラの言い分に従わざるを得ない。

 月代は具体的な侵攻手順を確認する。


「侵攻における戦略目標は、どこまでを想定していますか」


「正直なところ、開戦直後は戦力の充実しているレタリア軍頼みになる。具体的には、レタリアが侵攻したルートの左翼を支える形になるだろう」


 その言葉に、月代はいささか不安を覚える。


「レタリア軍頼みか……そのレタリア軍の侵攻計画についてはどの程度把握してますか」


 レイラは軽く頷き、指し棒でマルクシアの南西部を指す。


「ラトムランド領内から進軍するレタリア軍は、マルクシア中部で南進し、前線に展開する敵野戦軍を包囲殲滅する方針だ。その後は、戦力的な優位を生かして戦果拡張を続け、降伏を打診することになっている。ちなみに、レタリア軍の戦力は攻勢正面となるラトムランド領内に約45個師団、レタリア領内の国境線に25個師団を展開し、全体で約140万人となる見込みだ」


挿絵(By みてみん)


 ラトムランドの最大動員力が100万人であることを考えると、両軍の正面兵力を足し合わせれば240万人――マルクシアの最大動員力200万人を凌駕することができる。

 これが無謀な戦争でないことを再確認した月代は議論を続ける。


「できれば、マルクシアの首都を攻略したいところですね。敵野戦軍の一部を殲滅しても、そこから中途半端なところで戦線が膠着すると戦況がどう推移するかわからなくなる」


 月代の言葉に、レイラは渋い表情を見せた。


「国境から300km以上離れているマルクシア首都まで、両軍合わせて240万の将兵を賄う補給が持つかどうか、微妙なところだな。敵野戦軍を完全に敗走させることができれば、不可能ではないだろうが」


 本音を言えば、月代は今回の侵攻作戦において第一戦略目標をマルクシアの首都に定めたいと考えいた。

 仮に、この戦争が〝無制限戦争〟になるならば、初戦でマルクシアを完膚無きまでに打ちのめす必要がある。

 首都への攻撃は、先のマルクシア―ラトムランド戦争でも実証された通り、敵国へ多大な精神的ダメージを与えることができる。逆に言えば、それを実現できない限りマルクシアが降伏するとは考えにくかった。


 しかし、レタリアの侵攻計画が理にかなっていないわけでもないことを、月代は理解していた。


「マルクシア首都への攻撃は補給に不安があるからこそ、まずは目先の敵野戦軍殲滅か……不確定要素は多いなりに、妥当な作戦ではありますね」


 レイラは月代の意見に首肯する。


「そうだな。しかし、包囲殲滅が失敗し、戦線が膠着すれば両軍の戦力比は同等のままだ。そうなれば、同盟国同士の連携を考える必要のないマルクシアが優位に立つ可能性は高い」


「それを踏まえると、ラトムランド軍も戦線左翼の防衛だけでなく、包囲殲滅戦に寄与できるよう、初戦でなるべく深くマルクシア領に食い込みたいですね」


 部隊運用に工夫の余地を感じた月代は、4年間の時間経過で変化したであろうラトムランド軍の内情を確認する。


「ちなみに、この4年間で戦車や航空機の量産は進みましたか?」


 レイラは資料を取り出して応える。


「国産戦車Tm-3の量産が軌道に乗り、現在は約500両を保有している。その他、先の対マルクシア戦争にて鹵獲及びコピー生産したBP-7を100両、1年前に正式化された新型国産戦車Tm-5が100両の計700両が主力戦車の内訳だ。更に、旧式化した軽戦車500両を足せば、全体で1200両となる。航空機もいくらか量産が進み、現在の作戦機は戦闘機500機、爆撃機400機、補助機300機の計1200機程だ」


 4年前に比べて兵器の保有数は約2倍だ。

 しかし、状況はマルクシアも似たようなものと考えられる。


 そこまで話が進むと、イリスが話に割って入った。


「兵器の質や配備状況は、また皇立近衛師団を訪ねて己の目で確認してくると良い。ティナも月代に会いたがっておったしのう」


 月代はイリスの提案に同意する。


「そうだね。とりあえず状況はわかったし、今日はこれから首都駐屯地に行ってみようかな」


 その言葉に、レイラが話を付け足す。


「確か、近衛師団は駐屯地を出撃し、侵攻準備も兼ねて南東部に進駐しているレタリア軍と接触していたはずだ。少し遠いが、どうせ尋ねるならそちらの方がいいだろう。共闘するレタリア軍の視察にもなる」


 レイラの提案にイリスが同意する。


「おお、そうじゃったな。少し遠出になるが、レタリア軍の様子は余も見ておきたと思っていたところじゃ。さっそく出発しよう」


 その言葉に従い、イリスと月代はさっそく出発の準備を始めた。

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