24 作戦機動群
24 作戦機動群
マルクシア軍の第二次攻勢が開始されてから丸1日が経ち、ラトラムンド軍作戦総司令部は相次ぐ攻撃の対応に追われ慌ただしさを増していた。
「第12師団より報告! 敵の攻勢により反撃能力をほぼ喪失、現在陣地を放棄し第19師団との合流を試みて後退中!」
「第28師団より、空挺部隊及び敵戦車部隊の挟撃により後退しつつあり、救援を乞うとのことです!」
部下から告げられる相次ぐ敗走の報告に、参謀局長のレイラは苛立ちを隠せない様子で状況の確認に努めていた。
「第15、19師団の応援はまだか!」
「は、第15師団は敵の爆撃により橋を破壊され立ち往生している模様です。第19師団は間もなく第12師団と合流できる頃かと」
「しかし、今さら第12師団を支援しても敵の進出線に追いつかないか……近衛師団は何をやっている」
「皇立近衛師団は相次ぐ戦闘により燃料弾薬が欠乏している模様です。現在、補給待ちのようですがこの状況下ですので……」
その言葉に、レイラはぎりと歯を鳴らす。
「クソ、後手後手ではないか!」
マルクシア軍の展開する縦深攻撃とは、前線への集中攻撃だけでなく爆撃や空挺、機動戦を用いて戦線後方にもまんべんなく攻撃を加え、戦域全体を縦深く麻痺させて防御の体制が整わないようにする作戦だ。
その術中にはまったラトムランド軍は部隊の連携や展開が上手く機能せず、マルクシア軍の迅速な突破を許してしまった。
「落ちつくのじゃレイラ。いかに敵の進軍が早かろうと、前進を続ければそれだけ消耗するハズじゃ。敵の進軍速度が鈍るのを待っておれば……」
イリスがそこまで言いかけると、一人の兵士がレイラに駆け寄り声をかける。
「局長、前線のブラルト中将よりご連絡です。何でも、直接ご報告したいことがあるとのことで、無線を繋いでおりますが」
ブラルトはレイラのセカンドネームでもあるが、中将の階級を持つのは妹のティナの方だ。
直接通信が入ったと聞いたレイラは苛立たしげに応じる。
「あの馬鹿者。直接交信は盗聴の可能性があるから避けろと言ってあるはずだ」
その言葉に月代が割って入る。
「盗聴されるリスクを負ってでも伝えたいことがあるのかもしれません。話を聞いてみましょう」
月代の言葉に促され、一同は無線機の近くに赴き耳を傾ける。
すると、ティナのよく通る声がスピーカーから放たれた。
『お姉さま、ご機嫌麗しゅうございます。この度は、ご期待に添えるような活躍ができず申し訳ありませんわ』
マイクを手に取ったレイラは挨拶もせず、急かすように返事をした。
「盗聴の危険がある。話なら手短にしろ」
『ふふ、相変わらずですわね。とにかく、ご報告というのは敵がとっている戦術についてですわ』
そう話を切り出したティナは、今まで前線で見てきた敵の動きについて語った。
『マルクシア軍の進軍速度が前回の攻勢に比べて驚くほど速くなっていることは既にご存じかと思いますが、その理由は敵部隊の編成にあります。敵の主力は戦車を中心に歩兵も完全自動車化されており、一部歩兵は戦車の上に跨って移動しています』
戦車に直接跨る歩兵〝戦車跨乗兵〟――月代は、旧ソ連軍の採用していたその戦術をこの世界で披露されるとは思いもよらなかった。
そして、ティナは更に敵の進軍速度の核心に迫る。
『そして、こちらの方がお伝えしたかった情報なのですが、恐らく敵主力は兵站に依存しておりませんわ。つまり、補給線を持っておりません』
レイラはティナの言葉がにわかに信じられず問い返す。
「補給線を持たないとはどういうことだ。敵は補給せずに進軍を継続しているということか」
『お姉さまのおっしゃる通りですわ。敵は、戦車やトラックに携行燃料と弾薬を積めるだけ積み、時には我が軍の物資を奪い、自給自足で進軍しています。わたくしたちが計画的に後退していることを利用し、燃料弾薬を節約しているんですの。もし、皆さまが敵の燃料切れを期待しているのなら、その期待は捨てた方がいいですわ』
そこで一息ついたティナは、話の核心を告げる。
『敵は、わたくし達の首都を狙っています。それをご忠告申し上げたくて直接ご連絡をとらせていただいた次第です』
その言葉にレイラは絶句する。
だが、その沈黙が無駄な時間であることを察したレイラは、狼狽をひた隠すかのように淡々と応えた。
「連絡感謝する。後のことを考えるのは我々の仕事だ。お前は自分の仕事に集中しろ。健闘を祈る」
『信頼しておりますわ。お姉さま』
ティナがそう告げると、無線の交信は途切れる。
そして、静かにマイクを置いたレイラは、不意に激昂して机を叩いた。
「補給に依存しない自動車化部隊がこの首都に向かっているだと!? むちゃくちゃだ!」
レイラはむちゃくちゃだと言い捨てたが、月代はマルクシアのとる一連の方法論に心当たりがあった。
「作戦機動群か……」
月代は周りに聞こえない声で呟く。
作戦機動群とは、冷戦時代に旧ソ連軍の採用した部隊運用法だ。
核戦争の生起する可能性のある冷戦下で、ソ連軍は核兵器を使用される前にヨーロッパに展開する西側諸国NATOの戦力を撃滅せしめる必要性にかられた。
そこで、補給負荷を極限まで軽減させ、無停止で進撃し続けることのできる機械化部隊を編成した。それが作戦機動群――通称〝OMG〟だ。
ここにきて月代は確信した。
マルクシア側には、この時代を超越した軍事知識を持っている者がいる。
それは、月代と同じくA.W.Wのプレイヤーに他ならない。
「ツキヨ、どうかしたか?」
考え込む月代に対し、イリスが心配そうな面持ちで声をかける。
月代は他のプレイヤーという存在について話すわけにはいかなかったため、態度をはぐらかした。
「いや、何でもない。ちょっと考え事をね」
「そうか……ツキヨ、余はこれからどうすればよい」
そう告げるイリスの表情は、必死に不安を悟られるまいと強がる一人の少女にしか見えなかった。




