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23 タンクデサント

23 タンクデサント


 その日、ティナ率いる皇立近衛師団は全速力で戦場を突っ走っていた。


 戦車部隊を中心とする敵主力が現れたという情報は皇立近衛師団にも伝わっており、師団長のティナは迎撃準備を整えるため即時に戦域の移動を命じたのだ。


 その先鋒を進むのは、他でもないティナの乗車する指揮戦車〝グスタフ〟だ。


「急ぎますわよ! 敵は目前ですわ!」


 揺れ動く車内で、ティナは部下に檄を飛ばす。


「し、師団長ぅ! また私達だけ敵と遭遇しちゃいますよぉ!」


 車長のセシリアは相変わらず弱気な声を出す。


「その時はその時ですわ。あっ、全車停止! 停止!」


 ティナの掛け声に応じ、〝グスタフ〟率いる戦車部隊は急停車する。

 すると、コツンという可愛らしい音が車内に響いた。


「いたたた、頭うっちゃいました……」


「しっ! 敵ですわ」


 そう告げたティナは双眼鏡を取り出し、木々の隙間から平原を覗き見る。


「あれが噂の敵主力ですわね。確かに、今までにない規模ですわ」


 ティナの視線の先には、戦車十数台が隊列を組み前進している様子が見て取れる。その後方には多数のトラックや装甲車も見受けられた。


 様子が気になったセシリアは砲手に席を換わってもらい、照準器から敵の様子を覗き見る。


「し、師団長……あの敵、なんかヘンですよ」


「ですわね」


 二人がよくよく目をこらして見ると、敵戦車部隊は奇妙な装いをしていた。

 どの車両にも、歩兵が蟻のように群がって車体にしがみついており、そして後部には大きなドラム缶や木箱が無数にくくりつけてある。

 その様子は、まるで曲芸団か旅一座のようだ。


 セシリアは敵の目的が理解できず問いかける。


「あれ、一体なんのつもりなんでしょうか」


「見ての通り、戦車で兵士と物資燃料を運んでいるんでしょう。むちゃくちゃですわね」


 ティナは敵の目的を即座に看破すると同時に、以前月代に聞かされた話を思い出した。


――戦車はちんたら歩く歩兵と並んでただ大砲を撃つだけの存在じゃありません。


 戦車の進撃速度を歩兵と合わせれば機動力が削がれる。

 だからこそ、月代は戦車部隊を歩兵と独立させて運用する方法を提案してきた。


 だが、敵が今やっていることは逆転の発想だ。

 歩兵が戦車に追いつけないならば、歩兵を戦車に乗せてしまえばいい。

 そして、補給物資や燃料も戦車とトラックに載せるだけ載せてしまえば、機動力の問題は解決してしまう。まさに荒技だ。


「ですが、あんな格好ではマトモな戦車戦はできませんでしょうね。各車、ちょっかいを出しますわよ。目標を戦車とトラックに分け、斉射後即離脱しますわ」


 ティナがそう告げると、各車両は撤甲弾と榴弾をそれぞれ装填し、敵の隊列に照準を合わせる。


「テッ!」


 ティナの掛け声と共に、6両のTm-3が45mm主砲を敵車列に向けて一斉に発射する。

 すると、先頭を進む戦車は着弾と同時に車体に満載する燃料を発火させ、歩兵もろとも一瞬にして爆散した。



 * * *



「先頭の小隊及び後方のトラックが攻撃を受けています! 数両が撃破された模様!」


 揺れ動く車内で、無線手はベッカーに状況を報告する。


「クソ、伏兵か! 第1小隊は歩兵を降車させて応戦だ! 残りの部隊は構わず前進を続けろ!」


 ベッカーの指示により、最前列を進む3両の戦車は方向転換し、側面の林に向けて射撃を開始する。

 同時に、歩兵達も蜘蛛の子を散らしたように戦車から飛び降り、林に向かって駆けだした。


 すると、ベッカーの乗る車両にしがみついていた歩兵の一人が車外で声を上げた。


「うひゃあ。見ましたか少尉サン。前の連中、一瞬で吹っ飛びましたぜ。むき出しの燃料弾薬積んだ戦車に乗っかって進むなんて無茶苦茶だぜまったく」


「文句があるなら貴様も飛び降りて戦え! おっと、そう言ってる間に貴様らの出番のようだな」


 そう告げたベッカーの視線の先には、道を塞ぐように設けられたラトムランド軍の歩兵陣地が見えた。


「よし、歩兵は全員降車して戦車の後ろに隠れろ! 各車は歩兵の速度に合わせて前進しつつ制圧射撃だ!」


「アイサー! てめぇら出番だ! 降りろ!」


 ベッカーの合図により、隊列はものの数十秒で戦車と歩兵による陣地突破体制を整える。

 不意の襲撃に驚いた歩兵陣地は機銃や小銃を用いて一斉に反撃を行う。

 だが、最前列を進む戦車は銃弾程度ではびくもとせず、お返しとばかりに主砲と機銃を乱射して銃座を沈黙させていった。

 

 そして、最後の仕上げとばかりに戦車に身を隠していた歩兵達が突撃をかける。


「よし、敵は怯んだ! 陣地の中に乗り込め! 突撃! 突撃!」


 怒号と共になだれ込む歩兵と戦車の襲来に、怖気づいたラトムランド軍は次々と両手を上げて陣地から顔を出す。

 もはや彼らに戦意はなく、大部分が投降の意思を示していた。


 陣地の制圧に満足したベッカーは意識を切り替え、先ほど側面から攻撃してきた敵戦車の状況を確認する。


「第1小隊の様子はどうだ」


「は、どうやら敵戦車は最初の斉射後に即離脱した模様です。現在、降車させた歩兵に林を警戒させています」


 無線手の報告にベッカーは力強く頷く。


「よし、上々だな。だが、こんなところで道草を食ってる場合でもねぇ。捕虜の処理は後続に任せるとして、敵戦車が追撃してくる前に前進再開だ。手のあいてる連中は全員戦車に乗せろ!」


 戦いを終えた兵士達は休む間もなくいそいそと戦車に飛び乗り、進軍の準備を整える。

 だが、その顔に疲労の色はなく、むしろ相次ぐ勝利に沸き士気を高めているようだった。


 進軍の準備が整うと、先ほど話しかけてきた兵士が再びハッチの脇を陣取ってベッカーに声をかける。


「いやぁ少尉サン。勝ち戦ってのはいいもんだねぇ。このままラトムランドの首都まで連れてってくだせぇや」


 その言葉に、ベッカーは口を歪めて応えた。


「言われなくとも、1週間後にはラトムランドの首都で凱旋させてやるさ」

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