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22 縦深攻撃

22 縦深攻撃


 マルクシア軍が攻勢を再開したという情報は、ラトムランド軍内の作戦総司令部内にも一報が入っていた。

 具体的には、全戦域で準備砲撃及び歩兵部隊の前進が確認されたといったもので、開戦初期に見られたような戦車部隊による強行突撃は未だ報告されていない。


 その情報に、総軍参謀本部の面々は様々な憶測を巡らせて軍議を進めている。

 その中心に佇む月代は、敵の不穏な動きに頭を悩ませていた。


「歩兵と砲兵による平押しか……敵の機動戦力である戦車部隊の動向が掴めていないのが不安要素ですね。航空偵察してみるというのはどうですか?」


 月代の問いにレイラが応える。


「開戦以来、制空権は敵の手中にある。やれと言われれば強行することもできるが、あまり成果は挙がらないだろう。それに、航空機と言えばマルクシアは今回の攻勢にあまり航空戦力を投入していないそうだ。意図があってのことなのか……」


 頭を捻る月代ではあるが、敵の意図はなんとなく察しがついていた。


「恐らく、敵は攻撃重心を悟られないよう戦車と航空機の投入を控えているんでしょう。今行われている広い範囲での攻勢もその一環だと思います。とすると、敵の狙いは一点突破なのか……」


 その言葉にイリスが反応する。


「しかし、きゃつらが出てくる場所がわからずとも、我が軍の縦深陣地はどの戦域に攻撃が集中しても対応できる形になっておるのではないか?」


「まあ、それはそうなんだけど……」


 イリスは、月代は煮え切らない態度が気になるようだった。


「なんじゃ。今日は珍しくはっきりせんのう」


「ごめん、敵の出方がわからないのがちょっと気になってね。確かに、敵がどこで一点突破を試みてもやることは一緒なんだ。例え、前回より深く進撃されたとしても、こっちは敵が進撃を手間取っているうちに予備を抽出して後方陣地を固めてやれば同じ結果になる……と思う」


 それを聞いたレイラは月代が語尾を濁らせたことに目ざとく反応する。


「思う、とはなんだ。何か問題があるというのか」


「正直、敵の出方がわからない以上は手の打ちようがないんです。最初のマルクシアの攻勢は事前情報が多かったから対策を練って撃退できる自信はありましたけど、今回はどうしても後手に回らざるを得ない。だから何が起きても大丈夫とは言い切れないんです」


 その言葉に、イリスは「なんじゃそんなことか」と胸を撫で下ろす。


「それは誰でも同じじゃろうて。ツキヨは軍師であっても予知能力者ではないからのう。備えが足りんと思うのなら、敵が動き出してから新たな策を練るという方法もあろう。心配せずともツキヨは余の認めた男じゃ。今は堂々としておれば良い」


 月代は似たような言葉を以前にも聞いた気がした。

 自分を担保にして相手を励ますというのはなかなの豪胆だが、月代はそんなイリスの自信が少しは励みになった気がした。


 そんな調子で軍議は堂々巡りの様相を見せつつ進行する。

 すると、一人の将校が司令部に駆け込み、全員が待ちわびていた続報を告げた。


「ご報告します。敵戦車部隊を主力とする新戦力が第12師団正面に現れたとのことです。敵は前回と同様、最前線の防御陣地を避けつつ領内へ浸透している模様です」


 レイラは司令部中央の作戦図に置かれた駒を動かし、状況を確認する。


「第12師団か、国境線のほぼ中心だな。他に敵戦車部隊の攻勢を確認した師団はあるか?」


「いえ、今のところはありません。また、別報ですが敵戦車部隊の攻撃と同時に大規模な空襲も行われているらしく、第12師団を始め第28師団、第49予備師団に被害が出ているそうです」


 レイラは再び作戦図の上で飛行機をかたどられた駒を動かす。

 すると、敵の航空部隊と戦車部隊は縦深陣地を跨ぐかのように東西へ直線に並んだ。


「第12師団はわかるが、他2師団は妙だな。なぜ後方に控える部隊を爆撃している」


 その言葉に月代は息を飲んだ。

 そして発言をしようとしたその瞬間、先ほど報告を告げた将校の部下と思しき士官が入室し、慌ただしく声を上げた。


「少佐殿! このような場で失礼致します。前線部隊より続報が入りまして、第28師団及び第49予備師団が敵地上部隊と交戦しているとの報告です!」


 すると、その場にいる全員どよめき始める。

 それもそのはずだ。最前線を守る第12師団はともかく、他の2師団は後方に控える部隊であり、物理的に考えて敵歩兵や戦車部隊が到達しようもない地点に展開していたからだ。


 レイラはその士官に対し、あくまで冷静に発言を聞き返した。


「それは間違いないのか。空襲だけでなく、地上部隊と交戦しているのだな」


「は、肯定です局長」


「しかし、それは一体どういうことだ。敵はものの数時間で20km以上進軍したというのか」


「空挺だ……」


 どよめく司令部の中心でそう告げたのは、他でもない月代だった。


「敵は爆撃と同時に空挺部隊を後方へ降下させたんだ。じゃなきゃ、そんな場所に地上部隊が現れるハズはない」


 空挺とは、パラシュートやグライダーを用いて航空機から歩兵を降下させる作戦のことだ。基本的に、航空機の通過できる場所ならどこにでも歩兵を展開できるため、奇襲として用いられることが多い。

 

 ただし、状況がはっきりしない以上、月代は他の可能性についても確認する。

 

「ゲリラや友軍の反乱という可能性はありませんよね」


 その問いにレイラが応える。


「その可能性は極めて低いだろう。あの地域は我が国の領土だ。ゲリラになりうる人間はいない。それに、第28及び49師団もれっきとした正規軍だ。反乱を起こすような兆候は知らされていない」


「じゃあ答えはほぼ決まりですね」


 イリスは驚きと動揺を隠せない様子で口を開く。


「我が軍のど真ん中に空挺じゃと!? 無謀にも程がある……敵は血迷ったか!」


 空挺は便利な作戦だが、展開できる歩兵の数や装備に限りがある。

 当然ながら、無暗に敵地のど真ん中に少数の歩兵を降下させても包囲殲滅されてしまうだけだ。


 しかし、敵が行っている攻撃は空挺だけではない。

 今しがた報告を受けた一連の動き――つまり戦車部隊の一点突破と後方への爆撃、そして空挺を複合させた作戦に月代は思い当たる節がある。


「縦深攻撃だ……空挺だけなら数日で鎮圧は可能かもしれない。だから、敵はその数日間で防御線を突破する気なんだ」


 月代の導き出した答えに、一同は固唾を飲んだ。

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