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15 反撃

15 反撃


 開戦から1週間から経過すると、マルクシア軍の快進撃にも陰りが見えてきた。

 1日また1日と進軍を続ければ続けるほどマルクシア軍の主力は陣地帯に囲まれ先細りになり、連日続く後方への散発的な反撃と砲爆撃に今や進撃速度はゼロに近くなっていた。


「うむうむ、戦況はツキヨの思惑通り推移しとるようじゃな」


 イリスは満足げに作戦図の前で呟く。


 月代、イリス、レイラ含む総軍参謀局の人員は、開戦の翌日から総軍参謀局の地下に作戦総司令部を設営し、その場で寝泊まりしながら戦況を見守っていた。


 というのも、開戦日より数に物を言わせたマルクシア空軍はラトムランドへの都市爆撃を開始しており、首都も被害に遭っていたのだ。

 総軍参謀局や皇室宮廷も当然ながら爆撃の標的に含まれるため、コンクリートに囲まれた地下を作戦総司令部に選んだという経緯だ。


 時より発せられる空襲警報に気を揉みつつも、月代は現状の戦況をまとめる。


「マルクシア軍の最大進出線は国境から25kmか……ようやく足を止められましたね」


「これもツキヨの考案した縦深防御のお陰じゃな。それに加えて連日連夜の砲爆撃じゃ。敵も物資不足と寝不足で参っておるころじゃろうて」


 対してレイラが呟く。


「だが、いい加減反撃の手を打ちたいところだな。時間が経てば、それだけ敵の野戦軍も拡充していく」


 月代もその意見に同意だった。

 

「そうですね。そろそろ温存していた独立戦車旅団と近衛師団を投入して包囲殲滅を始めてもいい頃合いでしょう」


「我が愚妹の出番というか……調子に乗って失敗しなければいいが」


 その言葉に、イリスが口を挟む。


「妹の身が心配か? 案ずるでない。ティナはああ見えて有能な指揮官じゃ。これから立派に戦果を挙げてくるじゃろうて」


「戦果なら既に挙げているようですがね。こっちの指示も聞かずに何度も反撃をしおって……帰ってきたら少し懲らしめる必要がある」


 ティナの話になるとどことなく場がなごむ。

 戦況が落ちついたこともあり、一同は開戦時より心に余裕が出てきていた。


 しかし、戦争の行方はこれから始まる反撃の成否にかかっている。

 いかに順調と言えども、それを自覚しているイリスは力強く言葉を放った。


「さて、これからが本番じゃ。全軍全力をもって本当の反撃を開始するぞ! 〝太陽作戦〟の始動じゃ!」



 * * *



 日が昇って間もない頃、ティナは最前線に展開する師団司令部の中で硬いパンを食べながらモーニングコーヒーを啜っていた。


 開戦以来、皇立近衛師団は幾度か敵部隊を補足し攻撃を加えていたが、その目的はあくまで威力偵察と進撃阻害だ。

 ティナは、今日まで自分自身にできることを最低限の範囲内で遂行してきたにすぎない。

 未だ本格的な反撃の時期ではないことは重々承知していた。


 朝食のパンを食べ終えたティナは、今日は敵にどんな嫌がらせをしようか思案する。

 すると、師団所属の将校が駆け寄ってきた。


「師団長殿、ご報告します。作戦総司令部より、遂に〝太陽作戦〟始動の伝令が入りました!」


 それは、ティナにとって待ちに待った命令に他ならない


「いよいよですわね……それにしても、作戦名が〝月と太陽〟というのはなかなか洒落ていると思いません?」


 対マクルシア戦争にあたって、ラトムランド軍は初動の防衛及び撤退作戦を〝月作戦〟とし、第二段階の攻勢を〝太陽作戦〟と命名していた。

 〝月作戦〟の〝月〟は月代の名前からとってイリスが命名したものだ。それに対応する形で夜明けと一転攻勢をかけて〝太陽作戦〟が命名されたという経緯だ。

 

 文字通り、ラトムランドの夜明けをかけた攻勢がついに始動する。

 コーヒーを飲み終えたティナは気持ちを一瞬で切り替え、その場にいる将校達に向かって声を張り上げた。


「これより、皇立近衛師団は敵第6軍団の包囲を目標とした進撃を開始いたします! 全戦車大隊は30分後に出撃。友軍第7歩兵師団と連携し、包囲環を完成させましょう! 皇国の興廃、この一戦にありですわ!」


「いよいよ攻勢だ!」


「目に物見せてやるぞ!」

 

「やつらを祖国から追い出してやろう!」


 師団司令部のメンバーはティナの宣言に沸き立つ。

 士気は十分だ。


 攻勢作戦についてあらかたの命令を出し終えたティナは、身支度を整えて愛車〝グスタフ〟に乗り込む。

 すると、そわそわした様子の車長セシリアが車内で話しかけてきた。


「あの、師団長……攻撃って、もしかして私達も参加するんですか?」


「当然じゃありませんか。指揮官が戦況を把握するには最前線に行くのが一番ですわ。わたくしたちも第1戦車大隊に合流して前進しましょ。〝グスタフ〟も貴重な戦車戦力の一部ですわ」


「ふええ、やっぱりですか……師団長は少しご自分の身を案じた方が……」


「ごたごた言わずに行きますわよ。ほらほら戦車前進!」


 ティナの掛け声と共に、〝グスタフ〟は軽快なエンジン音を鳴らして最前線へ向けて前進を始めた。

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