ダンジョン 4階一角狼 〜 7階ヤマアラシネズミ
「さて、ソウチュウバナも倒したし多分石段が......あった!」
どうやら階ごとにいるボスのような魔獣を倒せば次の階への入り口が開くシステムらしい。
そう言えば勝つためとはいえソウチュウバナを灰にしたけど、もしかして何かの素材だったりしたのかな?
だとしたらちょっと惜しいことしたな。
「まぁ、過ぎたことだし、とっとと行きますか」
落胆した気持ちを切り替えて、見つけた石段を目指して歩き出す。
石段を慎重に降り、いつも通り上側の隙間から周りの様子を窺う。
上階まであった壊れた柱がなくなり、その代わりになのか前の階よりもさらに広くなっている。
おまけに足場が凸凹だ。
「ガルルルゥ......」
その真ん中で鋭くこちらを睨む青い目を持った、全長一メートルくらいで高さ七十センチくらいある犬、いや、狼か? が全身を覆う薄青色の毛が逆立っている。
お腹周りと手脚は白色の毛になっている。
というかハスキーって本当に狼に似ているだな。ただ姿は似ているが大きさは一回りか二回り程大きい。
そして何よりそいつの額には長さ二十センチくらいの角がある。爪も牙も長くて鋭い。
容姿は似ているけどそれだけだな。
『魔眼』の調整なんてまだ出来ないから適当に少しだけ目に力を入れる感じで、より『魔眼』の能力を発動させられないか試してみる。
そうすると自然と眉が上がるのを感じる。
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一角狼:威嚇
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発動に成功し名前が魔獣の上に表示される。
なるほど。あの魔獣は一角狼って言うのかー、てかまんまだな!
そのあまりの見た目通りの名前に思わずツッコミを入れてしまう。
名前の安直さに少し呆れつつ今の状況を考える。
「(えっと、あいつは俺に気がついているんだよな? 魔眼に威嚇って書いてあるからそう考えて良いと思うけど……)」
しかしどう攻めたものか。
ゴブリンの時は気がつかれていないことを活かして接近出来た。が、今回は何故か初っ端から気がつかれています。
この階段ってセーフゾーンじゃないのか? もしかして最初とその次の二階分限定?
だとしたらこの先はより気をつけて様子を見ないといけないな。
「(全く力のない者に優しくないな……いや、ダンジョンなんだからそれが当たり前か)」
最初の安全仕様に騙される所だったが、今いる場所は危険なダンジョンの中。アメばかりな訳がない。
そんなムチを受けている状況だけど、どうしするか……おっ! 良いこと思いついた!
甘え続けさせてくれないダンジョンにやや下唇を噛み締めていると小さな打開案を思いつく。
ただ多分この方法は剣の道に命をかけている人たちには好かれない。
まあ、最初から騎士道精神なんて抱いていられない状況と実力なのでどうしようもない。
『魔眼』を少し前の状態に戻すため、入れていた力を解いてみる。
すると文字の表記は消えるが、洞窟内は明るいままとなった。
「(さ。作戦開始だ)」
明るい状態なので石段上の様子がよく分かる。
まず小石をいくつか拾って奥の壁の松明を狙う。
「(あんまりコントロールは良くないけどね! っと)」
勢いよく投げた小石は狙いを外れて、松明の斜め下側へと飛んで行く。
ドォッン!
「ワウゥッ⁉︎」
小石が壁を少し砕いてヒビが伝わり、そこからボロボロと壁石が崩れ落ちる。
その音に一角狼が驚き、崩れる壁の方を向く。
うーん。キングゴブリンの時も様子見で壁に槍を投げてみたら壁を砕いて瓦礫を出したし、今も松明を落とすために手のひら程の小石だというのに砕けた。
それにキングゴブリンの時よりも壁の損傷や亀裂が大きい気がする……
どちらも偶然ヒビの入った壁に当たっただけだと思っていたけど……これも偶然か?
「(ま、偶然と思うことにしよう)」
作戦実行中なので今は考えても仕方がないことから思考を切り替える。
一角狼が壊れた壁に気を取られている隙に、石段を降りながら剣を構えて一気に近づく。
「バウ⁉︎」
石段を降り終えた所で一角狼は俺に視線を向けてきた。
石段から一角狼までの距離は3メートルくらいだが、流石に下の階にいる魔獣だ。
反応の速さがゴブリンより早い。
「ガァァッ!」
「くっ‼︎このっ!」
「ガァァァァッ⁉︎」
飛びかかって噛みついて来た狼の口に剣を咥えさせて、予めボクサーバッグの中から取り出していた剥ぎ取り用の小刀を使って一角狼の右目に刺した。
うん、剣を大切に使えだの、騎士道精神に反するとか言われそうだけど勘弁してください。
こちとら冒険者なので!
「ガルルルルッ!」
さて、これで右目が見えないはずだから死角が増えたな。次だ。
でも、狙い通りに来てくれるかな?
「ガァァッ!」
「え...?」
一角狼が再び俺に飛びかかって来た。
まさか狙い通りに来てくれるとは思わなかった。
ま、ありがたいし良いか。
「...よっと。んっ!」
「ガァァハッ⁉︎」
一角狼の攻撃をなるべく引きつけ、攻撃の当たるギリギリで後ろへ飛んでやや体勢を後ろ寄りにする。
こうすることで一角狼の攻撃が届くのがやや遅れ、こちらの攻撃する時間が得られる。
ギリギリ避けたことによりこいつの腹はガラ空きだ。そこにさらに身体を倒して、そこから無理矢理蹴りを喰らわせた。
ただ着地のことなんて考えていなかった。勢いからバク転のようになったが、俺はバク転なんてものは出来ない。はずだった....
...ドッ!
腹に一撃入れられた一角狼はそれによって空中で体勢が変わり、頭から地面に落ちた。
俺は自然と身体が動き、バク転で体勢を立て直すことが出来た。
自分でもなぜバク転が出来たのかが分からない。しかしそんなことを今考えている暇はない。頭の中をシフトして、相手が倒れている間に殺すことにする。
剣を振り下ろして首を斬る。
よし!奇跡的に作戦が成功?した。
本当は死角をついて倒す気だったんだがな。まあいいや。
角を額ギリギリで切り取ると、案外簡単に切り落とせた。
さて、多分後ろの方に...あ、やっぱり石段がある。
石段の方にはさっき俺が崩し落とした壁の瓦礫も落ちていた。
よし!とっとと次行きますか。
そう思い石段の方を目指して歩き出す。
「あ!ボクサーバッグ!」
また忘れてた。
さっき小刀取り出した後すぐに作戦を開始したから石段のところにある。
それを取りに行き、改めて新しく出た石段を降りる。
カチャ、カチャ、カチャ
石段を降りた途端に何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。
様子を見てみると、そこには1メートルの剣、刀身80センチくらいの剣を片手に持った身長一メートル半くらいの骸骨が3体、洞窟内を歩き回っていた。
分からないことがあったら『魔眼』の練習も兼ねて、目に力を入れる感じで例の文字を浮かび上がらせる。
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スケルトン(セイバー):散歩
スケルトン(セイバー):散歩
スケルトン(セイバー):散歩
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なるほどスケルトンか。
て言うか、散歩って。呑気だな。
「(うーん、スケルトンって倒せるのか?だってスケルトンってアンデッドだろ?よく漫画とかだと倒れて骨がバラバラになっても戻ったりしてたから)」
バラバラと言っても骨の関節が外れてって感じだったから粉々にしたら元に戻らないんじゃないか?
「(でもどうやって?....石...でもぶつけてみるか?もしあの破壊力が偶然ではなく本物ならイケるかな?最悪失敗したら...地面で叩き割ってみるか)」
小石じゃダメだろうから手のひらサイズの石が必要だな。
でもどこからそんなサイズの石を...って、さっき俺が壊した壁の瓦礫を使えば良いじゃん。
よし拾いに行こう。
石段を慎重に登って行き上に出て、瓦礫が積み重なっている場所から手のひらサイズの石を3つほど選んで、下へ戻る。
この作戦ばっかだな...まあ、命に関わることだし。相手も卑怯とは言うまい。魔獣だけどね。
よし、狙ってみるか。
「せぇぇぇの、ふっ!」
バキッ!ドォンッ!
スケルトンの頭蓋骨を狙ったつもりが少し下へズレて溝くらいに飛んでしまったが、まるで大砲を当てられたかのようにスケルトンが粉々になった。
....まぁ、いっか。
続けて2投、3投と残ったスケルトンを狙って石を投げる。
バキッ!ドォン!...バキッ!ドォンッ!
次々とスケルトンが粉々になった。
....俺っていつからこんな化け物になったんだ?てかコントロールもこんなに良かったっけ?
ステータスを開いてみたがレベルは上がっていなかった。多分スケルトンを石だけで倒してしまったので、経験値がもらえなかったのだろう。
「....よし。次からは普通に戦おう」
そう決意して次の階へ行くために石段を目指す。もちろんスケルトンの剣は無視する。
だってなんか倒した気になれないし。
いつも通り石段を慎重に降りて周りの様子見をするために石段を降りた途端だった。
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ
またしても何かが、っていうかさっきのスケルトンと同じ音だから多分スケルトンだろう。
「(とりあえず様子を見てみるか)」
そぉっと様子を窺うとそこには全部で4体のスケルトンが洞窟内を歩き回っている。
たださっきのスケルトンと違い今回のスケルトンは剣ではなく、手には1メートルくらいはある木製の弓、背中にはだいたい60センチくらいの筒を担いでいて、筒の中に数本の矢が入っていた。
それ以外は特に何も身に着けていない。
身長はさっきのスケルトンよりもやや高い気がする。1メートル半だったのが、俺と同じくらいの高さに見える。
魔眼は...使わなくて良いかな。
どうせ「スケルトン(アーチャー):散歩」って表示されるだけだろうし。
うぅん、でも弓はちょっと厄介だな。
物陰に隠れながら近づいて攻撃するか?
幸いなことにこの階の洞窟には最初と同じくらいの壊れた柱が4つある。
それにしてもこのダンジョン、何で壊れた柱とかがあるの?
...まっ!良いか。考えても分かる訳ないし、さっさと倒さないと進展もない。
無駄なことを考えるのを辞め、気づかれないように慎重に石段を降りて行く。
「カカッ?」
あらら、早速バレてしまったようだ。今回はヘマした覚えがないのに。
なら矢を射るまでの時間を見てから攻撃に移るか。
顔を少し出してわざと打ってもらおう。
すぐに避けられるくらいに顔を出す。
「カカッ!...カッ!」
「カカカッ!...カッ!」
「っと⁉︎」
ドゥス!ドゥス!
2体のスケルトンが俺に気づいて、弓を射って来たので慌てて避ける。
矢は片方は壁に刺さったたが、もう一本は弾かれて地面に落ちた。
うん。だいたい気づいてから構えて打つまでに6秒くらいかな?
それでも4体相手はかなりきつい...が、やるしかない。
「(多分片手剣だけだと長引くだろうし、一角狼の時と同じで二刀流で行ってみるか)」
そう思いボクサーバッグから小刀を取り出す。刃が下向きにくるように持って、一番近いスケルトンのところへ走る。
「カカッ!」
「っふ‼︎」
まずスケルトンの首ら辺の骨を狙って剣を上から斜めに振り下ろす。
バキッバキッ!カタカタ...
スケルトンの左鎖骨と肋骨数本を叩き切れば、そのスケルトンは崩れ落ちた。
「カカッ!...カッ!」
「っと、このっ!」
「カカッ⁉︎」
バキッ!カタン
次に近くにいたスケルトンが矢を射ってきたのをギリギリで避けて小刀でスケルトンの手を切り落とす。
「そんで持って!」
バキッ!バキッ!カランカラン
さらにスケルトンの手を切り落としたあとは、剣を下から上へ切り上げてスケルトンの左脚の骨と腹くらいにある背骨を切れば、このスケルトンもその場に崩れ落ちた。
「カカッ...」
「させるか!」
スパンッ!ガッ!
俺から1メートル弱くらい離れた位置にいたスケルトンが、弓の弦を引いて矢を射ろうとする前に小刀を投げて弦を切った。
その際放たれてしまった矢は俺ではなくあらぬ方向へと飛んで行った。
スケルトンが何も出来なくなった隙を突いて、そのスケルトンの元へと走る。
「...あと一体!」
バキッ!ガラガラカラン
剣の間合いに入ったので、横に真っ直ぐ斬ってスケルトンの上半身と下半身をさよならさせる。
「カカッ...カッ!」
「うぐぅっ⁉︎」
目の前のスケルトンに集中していたせいで、後ろのスケルトンの矢を避けられず背中側の右肩に刺さってしまった。
「カカッ...」
「んっ⁉︎...2度目は、ない!」
刺された矢を抜いてスケルトンに軽めに投げ返す。
ガッ!ヒュン、ガッ!
投げた矢がスケルトンの頭蓋骨に当たったおかげで、体勢がズレ、射った矢は俺から10センチくらい前の地面に突き刺さった。
軽く投げた理由はスケルトンを倒さないようにするためだ。
俺はスケルトンへ走って近づき下から剣を振り上げたが、避けられてしまった。
「だったら!」
「ガッ⁉︎」
バキッバキッ!...ドォンッ!
剣を避けられてしまったので空振りの勢いを使って蹴りを入れてやった。
スケルトンは吹っ飛んで行き、壁に激突して地面に落ちた。
ちょっと足が痛い。カルシウムが行き届いているようで。
そこら辺に転がっているスケルトンへ近づき、剣を振り下ろし頭蓋骨を真っ二つに割って行く。
最初の予想通りであり、こいつらは身体を切り離しただけではダメらしく、途中で一体動き出そうとした。
完全に身体がくっつく前に頭を割れば、その動きも止まったのは幸いだ。
「...さて、次行きますか」
っと、その前に傷を手当てしとかないとな。
ボクサーバッグからソシャルで買っておいた包帯と薬草で作られた傷などに効く塗り薬を取り出す。
服を脱いで塗り薬を塗って包帯を巻く。
絆創膏とかも欲しかったけど、この世界にはないようなので包帯と薬を大量に買っておいた。今回の場合は、怪我の具合的にはこっちが正解だろう。
グゥゥゥゥゥゥ!
洞窟内に腹の虫が鳴り響いた。
傷の手当てを終え、次の階へと続く石段へと向かう。残念ながら食べ物は少ししか持ち合わせていないので、今すぐ食べる訳にはいかない。
石段を降り、少しだけ顔を出して様子を窺うが何もいない。
あれ?
あっちこっち見てみるが何もいない。
どうしてだ?
とりあえず周りを警戒しながら石段を降り切り、中央へ行ってみる。
「...⁉︎」
...カキンッ!
何か来る!っと直感が言ったのでその場から後方へ飛んだ瞬間、金属に近い音が聞こえた。
「何だ⁉︎」
「チュゥゥゥウ...」
そこにはネズミがいた。
ただ普通のネズミではなく、全長2メートルくらいで、長さが7センチはありそうな出っ歯が上に2本ある。そんなデカいネズミが唸りながらこちらを睨みつけて来ている。
いやこいつ何処から現れた⁈
くそ!とりあえず作戦は一角狼と同じにしてみるか。
「チュウッ!」
「ッッ⁉︎」
は、速い!
驚くべき速さで突進してきたネズミ。それをギリギリで躱せたのは奇跡だろう。
「(どうする⁈この速さは予想外過ぎる!いやでも避けられたってことは見えるってことだから、何とかなるかもしれないな)」
剣術だけだと難しいかもな。
なら、剣術じゃなくて...
剣を鞘に収める。足を肩幅分広らいて、右足を前にして立つ。
右腕を前にし、軽く曲げた状態で左腕は胸ら辺に置き、どちらも拳を握る。腰を軽く落として構えを取る。
昔テレビで見た空手のオリンピック選手の構えを真似る。
「チュウッ!」
「...はぁっ‼︎」
「ぐぎゅっ⁉︎」
デカネズミの攻撃を少し体を横にズラして避ける。
空中でがら空きになっているデカネズミの下腹に目一杯の力でアッパーカットを喰らわした。
グチャッ!
生々しい音を出してデカネズミがまた空中へ舞い上がる。
ドンッ!グチャッ!
「ぐぎゃっ⁉︎」
地面に落ちたデカネズミから再び生々しい音が聞こえた。
デカネズミは口から紫色の血を流している。
多分地面に身体を強く打ってしまい、内臓がやられたのだろう。さすがに拳を一発でやられる訳ないだろうし。
まあ、ラッキーである。
ただ即死な訳ではないので、苦しまないようにトドメを刺してやることにした。
剣を振り下ろして首と胴体を切り離す。
「あ!魔眼まだ使ってないな」
そう思い、目に力を入れる感じで魔眼を使う。
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ヤマアラシネズミ:死
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っと表示された。
このデカネズミはヤマアラシネズミって言うのか。
ヤマ...アラシ?
その名前が引っかかるが、まあ良いか。
ヤマアラシネズミの特徴的な歯が素材かも知れないのでそれをギリギリで取ろうと思ったが、口から流れ出ていた血で既にベトベトなので辞めた。