ダンジョン 2階キングゴブリン〜3階ソウチュウバナ
「……あー、美味かった! ごちそうさまっと」
ゴブリンを食べ終え、剥ぎ取った皮や爪をボクサーバッグに入れようとする。
しかしゴブリンの腰ひもで結び、持ち上げた所で血が垂れていたので諦める。
死体はどうしよう。持って行けないけど、放置しておくのはもったいない。
……よし、終わった後に回収出来そうなら回収しよう。
「それにしても二体目のゴブリンは一匹どこから現れたんだ? 最初に周囲を確かめた時には最初の一匹しかいなかったはずだけど……」
未だに不明な事柄に頭を悩ませ、何かヒントがないかと辺りを見回してみる。
「……?」
すると二体目のゴブリンが現れた辺りに、さっきまでは確実になかったはずの穴がある。
僅かににその穴から石段が見える。
穴の位置は最初に使った石段とはちょうど反対にある。
「ガァァァ」
「なっ⁉︎」
その奥の石段から新たなゴブリンが現れる。
「くっ!」
食事中に邪魔なので腰から外していた剣に手を伸ばし、慌てて鞘から剣を抜いて構える。
「ガァァァ!」
ゴブリンは迷わず俺の方へと突っ込んで来る。
「(あれ? やっぱり初めて出会った時のゴブリンよりも遅い気がする)」
「ガァァァ!」
「っと!」
ゴブリンの動きの変化について考えていると、迫って来たゴブリンが鳩尾のやや下辺りを槍で突いてくる。
それを余裕で躱す。
ゴブリンは身長差のせいなのか腹部や肩など胴体を狙ってくるから、動きが見えていれば回避が楽だ。
さてと。あまり芸がないけど、いつもの方法で終わらせるとするか。
「ガァァァ!」
「回避してからの、蹴りっ!」
横から大振りで左脇腹を刺そうとしてきたので、ステップを踏む様に後ろへ飛んで避ける。
そして槍が過ぎ去り、相手がよろけた所で腹に下から差し込む様に蹴り出す。
「ガァッ⁉」
「なっ⁉」
柔らかい肉の感触が足から伝わってきたが、それがなくなることはなかった。
蹴りをもろに喰らったのに、その脚を腕で挟んでしがみつきやがった。
「ガェァ」
驚いている俺の顔が余程面白いのか、涎と少しの吐瀉物を垂らしながら気色の悪い笑みを浮かべてくる。
その顔に背筋がゾワッとする。
そして槍の持つ手を上げる。
「……っ!」
上がり切った所でこいつが何をする気なのかを察し、慌てて振り払おうとゴブリンの乗る脚を振り回す。
が、蹴る際にやや屈んでいたのと片足軸、そしてゴブリンの重さによってバランスを崩し後ろへ倒れてしまう。
「んぐっ!」
「ガァッ⁉」
咄嗟に右手で支えるが勢いの方が強く、両肘でほとんどのダメージを受ける。
肘と尻を強く打ち、ジンジンと痛む。
衝撃で閉じてしまっていた目を開けると、先のない槍が右ふくらはぎから生えているのが映る。
「……え?」
刺された? いつ? え?
その状態に頭が追いつかない。
刺された部分から血が出ているらしく、ズボンが黒く滲み始めている。
その画を見て脳がようやく事態を理解したからなのか、鈍い痛みがやってくる。
「ガゥァ」
そこへさらに槍をぐるぐると回して、楽し気な笑みを浮かべるゴブリン。
その動きに合わせてグチュグチャと音を立てながら、槍の隙間から血飛沫が少量飛び出てくる。
「あがっ! ああぁあーっ!!」
突き刺すような痛みに熱せられた金属を当てられているような熱さ。少し槍が動かされる度に、鈍い痛みが脳へと駆け抜ける。
痛いイだいタイッ……⁉
悲痛の声を聴いてゴブリンの口角はさらに吊り上がる。
「はな、ぜぇっ!」
「ガァ──」
その醜悪な顔と垂れ流される体液、何より涙を流す程痛みから解放されたくて適当に剣を振るう。
それがゴブリンの口横から斜めに入る。
剣の切れ味が良いのか、それとも適当に振るった剣が思った以上に威力があったのか。
答えは不明だがゴブリンの上顎から上が地面に落ちる。
しかしそれが最悪を招く。
死ぬ直前まで槍を握っていたゴブリンの手。頭部がなくなり、そのまま身体が横に倒れる。
「ああぁあがぁー!!!」
体重任せの槍の移動。
その痛みはさっきまでの比ではない。
まだ穴のことが何も分かっていないというのに、痛みで声が出てしまう。
「がっ! あぐぁっ⁈」
幸いというかゴブリンの遺体が完全に倒れる前に途中で槍が半分に折れてくれた。柄の部分が木だから折れやすいのだろう。
そのお陰で脚を貫通されずに済んだ。が、それでも痛い。
膝と槍が刺さる場所との間を両手で強く挟む。
二割止血のため、八割痛みを堪えるため。それで今すぐ脚を切り落としたくなる痛みに耐える。
とりあえずこれ、抜かないと。痛くて仕方ない。
「……ん。さすがに何もなしにやるのは辞めとかないとダメか。危険だよな」
折れた柄に伸ばしかけた手を止める。
何もなしに抜けば血が大量に出て危険だ。でも痛いんだよな。
視界を邪魔している涙を手で拭って、何かないか辺りを見回す。
壊れた柱しかない階層には、さっきまでゴブリンを食べるために使っていた松明がパチパチと音を立てている。
その近くには小刀とボクサーバック。
「そうだ。水とタオル、それと少しの薬品なら持ってきてる。なんとかなるかも」
自分の所持品に希望を見出す。
「立つのは……っつー。無理か」
ボクサーバックまで行くために足を動かそうとするが、曲げるだけでも痛い。
それに少し体重をかけるだけで血飛沫が飛ぶ。
「腕だけで行くしかないか」
仕方がないので脚は動かさず、腕を使って移動する。
ただ脚を引きずることになるから服がダメになる。
替えは一つしか持ってきていなかったからダメになるのは避けたかったが、まさか初日でそうなるとは予想していなかった。
が、言っている場合でもない。
すぐにでも槍を抜きたいので、ズボンのことは一旦頭の隅に追いやる。
そして予定通り腕だけで移動する。
脚を引きずる際に砂や石なども一緒に移動するため、動く度に音が着いて回る。
歩けば一分もしない距離を数分かけて移動し終える。
ボクサーバックを漁り、タオル、水、止血軟膏、包帯を取り出す。
その中から止血軟膏が入る軟膏容器を手に取る。
「……止血、か。止血なんだよなー」
容器に書かれた止血の文字に落胆する。
確かにさっき血が大量に出る、と考えはした。それを止めてくれるのだから止血軟膏でも十分だろう。
しかしそれは今から撤退するのなら、の話だ。
正直迷っている。こんな怪我をしたのだから帰るべきなのだろうけど、なのだろうけど!
「初日なんだよなー」
しかもゴブリン相手に。魔獣の中でも弱い部類に。
それも余裕を見せてやられたという間抜けぶり。
だって一度、いや二度も勝った相手なんだからさ。余裕で勝てると思ったんだよ!
あー、その報いが痛い。
槍が刺さる脚から痛みが自分の失態を嘲笑っているように思える。
「だから帰りたくないけど、この脚だとしばらくは戦闘出来ない。だから止血じゃなくて、治せる物が必要なんだよな」
そんな物がある訳……いや、異世界なんだしもしかしたらあるのかも。
でも今欲しいのだから、ない物ねだりしていても仕方ない。
願望を諦め、チラリと小刀を見る。
「……焼いたらなんとかなるかな」
危険な発想を呟く。
戦争の映画で傷口を焼いて塞ぐシーンを見たことがある。あれをやれば怪我が治るのを待たなくて済むかもしれない。
小刀を熱して、熱い鉄を当てれば焼けて塞げる。
昔熱いフライパンを触った時よりも長く触る。
「っ⁉」
しかしその光景を想像して背筋が寒くなる。
「やっぱり辞めよう。素人がやっても失敗する可能性の方が高い」
結果、尻込みする。
危険だし、危ないし、危うい! うん、そう。怖いんじゃない! 危ないから辞めるんだ。
決して怖いからではないっ!
今は軟膏と包帯でなんとかして、ゆっくり進んで行けば……行けば……
「……」
ダンジョンに入る前に見た文字には『力ありし者は進め、なき者は上から進め』と書いてあった。
つまり下には強い魔獣がいるから、弱い者は力をつけてから行けってことだろう。
視線を二体目以降のゴブリンが現れた奥の石段に向ける。
ならあの階段の下にはゴブリンよりも強い魔獣がいる可能性が高い。
「危険が待ってる、か」
そんな相手に弱い者が負傷というハンデを背負った状態で勝てるのか?
万全の状態でゴブリンに負傷を負わされた、この俺が。
十中八九無理だ。
なら危険なことは辞めれば良い。このまま冒険者をやって行けば今より大怪我を負うかも、途中で死ぬかもしれない。
街に戻って大人しくしていれば生きていける。
勉強すれば読み書きだって出来るはずだから、若さもあるしどこかで雇ってもらえるだろう。
それで良い。誰も生きて出られなかったダンジョンで、今ならまだ生きて帰れる。
俺には無理だった。それを最初に知れたんだから、それで十分だ。
街に戻れば、やれることはいっぱいある。
初めての一人暮らしが出来た。久々にたくさん物が買えた。美味しいご飯をお腹いっぱい食べられた。
金だって宿泊費や商品の値段から考えて、まだかなり余裕がある。
帰れば贅沢が出来る。好きな物を買える。
我慢なんてしなくて良い。だから今すぐ帰──
「うるさい!」
自分で自分を諭すような考えに限界を迎え、無理矢理その思考を止める。
現状から逃げ出そうとする自分に怒りを覚え始めていた。その考えが嫌になった。
だから止めた。
「そりゃ、余裕こいてゴブリンに痛手を負わされたよ! バカだよ! そんな奴がこれからも冒険者を続けていくなんて無謀にも程があるよ!」
静かなダンジョン内で声を荒げて述べる自虐が小さく反響する。
それはまるで叱責を受けているような感じになる。
自虐をしているのに叱責となる。
「平和な日本で生きてきた人間が、命がけの戦闘をするなんて無理なんだよ! 諦めて帰ればそれで良いじゃん! って……」
それが逃げようとしていた自分が咎められているように感じられ、さらに声を荒げてヒートアップする。
一呼吸置いてから、折れた柄の部分を右手で掴む。
「そんなのはもう良いんだよ!」
そしてそれを力強く引っ張る。
「────っ!!!⁈」
激しい痛みに声にならない叫びが喉で詰まる。
刺された時よりも、弄ばれた時よりも、貫通されそうになった時よりも。
筆舌しがたい痛みが全身を駆け巡る。
この感覚に経験があるような気がする。
「──我慢しなくて良いなら、俺はやりたいことをやる! どうせ一回死んでるんだ、例え死ぬとしてもやりたいことを自由にやるっ!」
痛みに意識が持って行かれそうになるが、唇を噛み締めて引っ張る。
左手は再度膝と槍の間に置き、両手に今までで最大の力がこもる。
「ああぁあー……‼」
槍があと少しで抜ける所まできたので、雄叫びを上げながら一気に引き抜く。
グチュブチュヂュと生々しい音と増す血飛沫と共に槍が抜ける。
「はっ、はっ、はぁっ……それ、がっ……こっぢでの、生き方……はっ、だ。んぁ……」
肩で息をしながら自分に言い聞かせる。
これだけでも疲れたが、これで終わりではない。
手から抜いた槍の先を捨てる。
そして小刀を手に取り、軟膏を刃部分に塗ってから水で洗う。
本当は鍋とかで煮沸消毒しないといけないが鍋も似た入れ物もない。
だからせめて物足掻きとして軟膏を使い、水で洗うくらいしか出来ない。
薬品なのだから多少の殺菌効果はあるだろう。
そしてタオルでしっかりと拭き取る。
邪魔になるのでズボンを捲る。すると大きめの穴が空いている。
中の肉が引っ張られていて、穴から中の肉が顔を出している。
そして血がドバドバ出ている。
「はぁっ……念のためあっちに移動しておくか」
最初に使った石段。そこまでさっきと同じ方法で移動する。
今回は松明と小刀、そしてタオルを持ってなのでややし辛い。
もしまたゴブリンが現れた時、抜くのでさえかなりの疲労したのだ。
これからさらに疲労するのだから反撃も逃走も出来ない無防備状態になる。
となれば、まだ実証出来ていないが、ここがセーフゾーンならなんとかなるかもしれない。
結局全部が賭けだ。
階段に腰を据え、最後に拭き終えた小刀を松明の火で熱する。
刃に白い靄が伝わっていき、一部が赤黒くなっていく。
ここで火から離す。
火は近くに置かない方が良いな。
用が済んだ松明を中の方へと放る。
「ふぅー……」
口にタオルを咥え、深呼吸してから覚悟を決める。
そして刃を傷に当てる。
「んんんーっ!!!?」
痛みを越えた衝撃のようなものが全身を刺激する。
熱さが先にやってきて思わず離しそうになったが、腕に力を込めてそれを阻止する。
槍を抜く際の痛みが最高ランクの物だと思っていたがたった今更新された。
それに熱さも時間が経てば痛みとしてやって来るので、ずっと「痛み×痛み」が襲う。
その苦痛にさっきは耐えられたが、今回は無理だった。
あまりの苦痛に俺の意識は途切れてしまう。
_____
___
目が覚めると暗い部屋の中にいる。
身体を起こして辺りを見回す。左右には壁があり、下は床ではなく石段である。
そして身体中が痛い。特に脚が。
「そうだ。今ダンジョンんっ⁉」
自分の状況を思い出した所で脚から激痛が走る。
手で痛む場所を抑える。
「っ⁉」
その瞬間、支えを考えずに体勢を変えたため段板の先にあった尻が段差から落ちる。
そして階段から滑るようにして一番下まで落ちる。
幸いなのは下から四段目にいたから、そこまで連続して身体をぶつけずに済んだことだろう。
でも痛いものは痛い。
「痛ーっ」
踏んだり蹴ったりな出来事に嘆く。
「……ん?」
しかし一番下まで落ちたことで中の様子が見れるようになった。
階段近くに松明が転がっているはずなのに、どういう訳か一本も転がっていない。が、転がっていないだけだ。
奥の石段がある場所付近で松明の灯りが見える。
それも宙に浮いた灯りが。
その灯りが映すのは緑色の醜悪な顔。ゴブリンだ。
しかしその数はなんと三体。
まとめて相手にするのは無理だな。
少なくとも一匹は不意打ちで倒さないと数で押される。
ただ脚が動くかが問題だ。
音を立てないようにして立ち上がろうとするが、脚に力を込めただけで痛い。、
となるとリハビリが必要か。
「(しばらくは戦闘復帰が出来ないな。でもそれだとマズい気がする)」
気を失っている間に増えていたということは、階段下にはまだ何体かいるのかもしれない。
そうなると減らしていかないと上階の方の数が増えて余計に動けなくなってしまう。
だから今からするべきなのは、一匹を気づかれないように狩って、尚且つ二日以内にリハビリを終える。
うん、自分で言っていて無理だと思う。
でもやるしか今は方法がない。
「(あ、そういえばバック)」
ふと、ボクサーバックのことを思い出し、もう一度手すり下の壁から中を覗く。
ボクサーバックを置いておいたはずの場所を確認するが、そこにバックはない。
まさか持って行かれたのか? マジか……ズボンの替えも入っているのに。
ゴブリンによって持って行かれた可能性を想像して肩を落とす。
つまり使えるのは剣と小刀。この二つだけ。
そこへさらに怪我のハンデもある。
「(ハハ……本当に二日以内でやらないと勝てないな)」
心の中で乾いた笑いと共に崖っぷちの現状に天を仰ぎ見る。
暗いが床同様に石で出来ているのが分かる。
幸いなのはこの暗さか。上にあった松明が下に行き、さらにゴブリンたちを照らしている。
こっちからは場所を特定しやすく、相手からは照らして俺を見つけ出さなくてはいけなくなる。
だから闇討ちが一番ベスト。
それを出来るようにリハビリに時間を費やす。
もう一つの幸運はこの階段だ。
これがなければ気を失っている時にやられていただろう。
念のために移動しておいて正解だった。考えも当たっていたと考えて良いはずだ。
このセーフゾーンから上でなら案全にリハビリが出来る。
「よし、まずは立つことからだな」
_____
___
リハビリを始めてから一日が経過する。
確かに前日までは立って歩くのもしんどかった。
テレビで見た、事故に遭ってリハビリを頑張る人の番組。あれ程動かない訳ではなかったが、脚に力を入れると痛みが増す。
だから内の怪我が完全に治れば全然歩くことの出来る状態だった。
そこに至るまでは時間がかかるだろうけど、走ったりするなら痛みさえ我慢すれば良いと考えていた。
それで痛みに慣れるように脚の力を抜いたり込めたりを繰り返すリハビリをしていた。
それがどうだ。思ったよりも上手く歩行出来ず、疲れて昨日はすぐに眠った。
ダンジョンの頂上ならまだ広いからそこで眠ったんだ。
それで少し寒くてあまり眠れなかったから、リハビリを再開したんだ。早く復帰したいから。
「うん、ここまでは良い。ここまでは普通だった」
なのに今、どうして痛みを感じない?
脚に力を込めてみても、強く踏みしめても、足で地面をコンコンと叩いてみても。
昨日までは、それであったはずの痛みを今は感じない。
手で脚に触れてみたり、少し強めに叩いてみる。
すると触れられた感触もヒリヒリとした痛みも感じる。
だから別に感覚が消えた訳ではない。
しかし昨日まであった怪我の痛みは消えている。
もう意味が分からない。どんな奇跡が起これば一日で槍に刺された怪我の痛みが消えるというのか。
「何があったんだよ……」
理解の出来ない現象に脳が追いつかない。
ありがたい現象ではあるが理解は出来ない。
「マジでどんな奇跡が起こればこんなことが起こるんだよ…………ん?」
その現象のあり得なさに、しかしそのあり得ないことを起こせそうな人物に一人だけ心当たりがある。
神様だ。
死んだ人間を異世界に転生させることが出来る神様だ。負った痛みを消せる偉業なんてそんな人くらいしか起こせないだろう。
それに彼がやったのなら理解出来る。
しかしまさか地上にいる一市民の怪我を知っているとは……少し怖い。
「ま、まあ、困った人間を助けてくれるなら良い神様だな。どうせなら前世から……」
言いかけた言葉を飲み込む。
治ったことを素直に喜んで受け入れておく。今はそれが正しい。
最後の試しとして階段を駆け下りてみる。
実験も兼ねて走っても大丈夫かの確認だ。
治っているから最悪俺の存在がゴブリンにバレても、近寄って来たら一匹は狩れる可能性が高い。
だから音は中に聴こえるのかを試したい。
大義名分を建ててから一気に階段を駆け下りる。
一番下まで着いたが全然痛くない。昨日までの痛みが嘘のように感じない。
「(これなら戦闘をしても大丈夫だ。あとは──)」
壁から少しだけ顔を出して中の様子を窺う。
すると松明の火が一つ、こちら側近くでうろついている。
やっぱり音は聴こえるらしい。でも場所は分かっていないみたいだ。
となるとこの階段の場所自体を認識出来ていない、と考えて良さそうだ。
音のした方角は分かっているのだから石段があれば覗くなり、上がるなりするだろう。
もちろん警戒している可能性もあるから確実にそうするとは言えない。
ま、それでも認識出来ないという可能性の方が高いから、まだゴブリンに正確な場所と数を把握されていない。
だからこのゴブリンは確実にやれる。いや、やらないと勝てないからやる!
すでに剣は抜き身になっている。鞘も中に忘れてきたからね。
「(こっらに視線を向けていない時が狙い目だ)」
慎重に狙い時を定める。
そしてそのチャンスはすぐに訪れる。
辺りを一通り見回したゴブリンが仲間の元へ戻ろうとしたその瞬間、に石段から身体を出して一気にゴブリンに駆け寄る。
「ガァア?」
足音に反応してかゴブリンが振り返る。
しかしその時には剣を上段に掲げている。
「ガア──」
「(一匹目っ!)」
何かされる前に剣を頭上目がけて振り下ろす。
数日間毎日素振りをしていたお陰で勢い良く振り下ろせ、ゴブリンを真っ二つにする。
さすがに首よりも飛ぶ血が多い。服や顔に血飛沫が飛ぶ。
出来れば声を上げられる前にやりたかったが、まあ許容範囲としよう。
「(次!)」
「ガアァ?」
「ガアッ! ガアァ⁈」
予定通り一匹を素早く狩れたので、倒れ落ちるゴブリンに背を向け暗闇に揺らめく火を目印に地面を駆ける。
ゴブリンが挙げた声に反応したのか、それとも宙にあった松明の火が下に落ちたからなのか。
何かをしゃべっているゴブリンたち。
片方が松明を前に掲げて前方の様子を探ろうとしている。
もう片方は階段を下りたのか灯りが徐々に薄くなっていく。
下の階に何かいるのだろうか?
今までの傾向から考えて他のゴブリンがいる可能性が高い。そうなると応援を呼ばれるのはマズい。
本当なら手前から倒さないと危険だが、今回は仕方ない。
「(応援を呼ばれる前にあのゴブリンを狩る!)」
石段が始まる右回りから近づき、松明を掲げているゴブリンの左横へ小刀を投げる。
小刀が音を立て、自身の右側からした音にそのゴブリンが反応する。
もう一人誰かが近づいているのか、と錯覚させるためだ。音が前方からするよりも近ければ尚のことそっちに気を取られる。
そして案の定正体を確認するためにそっち側を松明で照らす。
この隙に階段にいる方に近づく。
視線と照明が別の方に向いている間、足音ですぐにバレたとしてもその見つかるまでの数秒。
「それで届く!」
広さにして十五メートル程の一階層。残り九メートル半からの全力ダッシュでなら、ゴブリンが動くよりも先に狩れる。
事実俺に気がついたゴブリンがこちらを見る時には、階段にいるゴブリンに向けての刺突の構えに入れている。
「ガアッ!」
「ガァ──」
「そこだー!」
先に気がついたゴブリンが威嚇か仲間への呼びかけかをすると、階段にいるゴブリンがこちらに振り返る。
が、その途中で下顎から首裏へまでを剣が貫く。
これでもう応援は呼ばれない。
「ガアアアッ!」
その光景に怒ったのか咆哮を上げ、槍を突き出してくる。
本来であれば胴体にくる攻撃。
しかし今は階段にいるゴブリンを刺すために少し屈んでいる状態。
そのためその軌道は下顎を辿っている。
視界の端に映っていたため間一髪でそれを避ける。
「っ⁈」
しかし直撃は回避出来たものの頬から顎にかけて掠ってしまう。
鋭い痛みが走る。
あんな大怪我を負って、さらにはそれを抜いた時に散々痛みを味わったが、痛みには慣れてくれないらしい。
突き刺した剣を抜き距離を取る。そして少し離れた所にある壊れた柱の陰に隠れる。
暗闇に紛れてしまえば、松明を持っている分ゴブリンの方が不利だ。
そう思っていたのだが、なんとゴブリンは灯りを右前方に放った。
「な⁉」
思わず声を出してしまう。
こちらの考えを読まれたのか? でもあんなことをすれば自分も俺を探せなくなる。
相手の考えが分からず困惑していると、階段で殺したゴブリンが持っていた松明を左前方に投げる。
……もしかしてさっきの攻められ方を警戒して前方を照らしている?
確かにそう考えると前に松明を置いているから手は空くし、確実な場所を把握されずに済む。
意外と頭が良い。魔獣はゴブリンしか逢ったことがないから、魔獣がどれ程頭が良いのかは知らないけど。
さて、どう近づくか。
前方に置かれた松明によって前からの接近は出来ない。
室内は然程広くないから壁際から行く手ならある。
しかし左側、さっきのゴブリンに小刀を投げた方には残してしまっていた松明が壁に刺さっている。
薄暗い中で正体を知るために、自分の持つ松明の灯りで確実にそれを把握しようとしたからさっきは上手くいった。
だから左側行けば薄暗い中でも俺の接近に気がつかれる。
行くなら暗い右側からだ。
……あ、いや。ゴブリン一匹だけなら真正面からでも相手は出来る。
今度は油断さえしなければ良いのだから。
意を決し、柱の陰から出て走り出す。
数歩前に出るだけで松明の灯りによって俺の存在がバレる。
「ガアアァッ!」
仲間の仇である俺を見て再度咆哮を上げる。
そしてこちらへと突っ込んで来る。
松明の件で頭が良いかと思ったが、怒りで冷静さを欠いている。
これなら簡単に立ち回れる。もちろん油断はしない。
接近して先に攻撃のモーションに入ったのはゴブリンの方だった。
「ガア!」
今までにない下から槍をスイングする様に振り上げる。
しかし振りが大きいため見てから回避が余裕で、走る足を止めて右側に身体を反らす。
右手で槍を持つゴブリンの左側に立つ。
一気に決めるために剣を下から斜めに振り上げる。が、それは空を切る。
直前の所でゴブリンは横に飛んで攻撃を避けられてしまう。
「ガァア!」
松明の近くに着地し、攻撃を避けられて不機嫌になったのか威嚇の様な声を上げる。
「そっちも避けただろ!」
そんな威嚇に答えつつゴブリンに近づく。
するとゴブリンは落ちている松明を左手に掴むとそれをこちらに投げてくる。
「うおっ!」
逆手で投げられた松明はほとんど俺から外れていたが、反射的にそれを避ける動作を取ってしまう。
それを狙っていたのかその隙に飛び込んで来る。
ゴブリンの身長は八十センチ前後なのにジャンプだけで俺の頭を越える。
どんなジャンプ力だよ⁉
「ガアァッ!!」
槍の先を下にして、上から差し下ろしてくる。
「くっ⁈」
松明に反応して体勢が悪い状態で振り下ろされたその攻撃を完全に避け切ることが出来ず、左脚の内太ももを強めに掠る。
その痛みを歯を噛み締めて耐える。
そして着地したゴブリンに向けて思いっきり剣を振りかぶる。
「こん、のっ!」
「ガア──」
刃の部分は斜めで、ほとんどが剣の腹でゴブリンを押す。
「ガアッ、アァッ⁈」
テニスのボールの様に吹っ飛ばされるゴブリン。
さすがに一メートルも飛ばなかったため壁まで届かない。
地面に一度だけ強くぶつかり、その後少しだけ転がって行く。
「うっ!」
トドメを差すために走り出すが先程の上からの一撃で掠った脚が痛み、思わず足を止めてしまう。
しかし槍で貫かれた時に比べればそんなのは屁でもない。
「大丈夫。この程度……行ける!」
自分に言い聞かせ鼓舞する。
痛む足で地を駆け、起き上がろうとしているゴブリンの元へ行く。
しかし痛みで起き上がれないのか中々起き上がろうとしない。
それを好機と考え、剣を下に構えて首と胴体をさよならさせる。
「ふぅー……終わった」
ゴブリンとの戦闘を終えて一息吐きながら肩の力を抜く。
しかしそこで太ももの痛みが自身の存在を訴えかける様に痛みが強くなる。
「っつー……でもバッグがないから手当ても出来ないんだよなー」
怪我の手当てをする方法がないことに嘆く。
「(ゴブリンの腰巻……)」
身近で使えそうな物に目線を向ける。
薄汚れボロボロの布切れ。それに土や血も着いている。
「これはなしだな」
その布切れから視線を外す。
掠った所を手でなぞが、そこまで血は出ていない。
貫かれた時よりも痛くはないし血も出ていない。
なら後回しにしても良いのではないだろうか?
出血や痛みが強くなったら対処すれば済むだろうし。
「うん、そうしよう」
脚のことは後回しにして、二体目から現れ始めた階段に顔を向ける。
「このゴブリンたちもあのの石段から登って来たってことか?」
俺の襲来の時に下へ応援を呼んでいたのが気になるし調べてみるか。
もしこの下にもゴブリンがいるのなら何匹いるかを確認しておきたい。
そう考えて鞘を取りに行き、納めてから石段を下りる。
最初のように石段を少し降りて下の様子を窺う。
多分二階だろう。
二階には三匹くらいのゴブリンがいるが、そのうちの二匹は今までのゴブリンとは少し違う。
一匹は赤色の服に襟から裾まで白色のフワフワのついた、昔話に出て来る王様の服みたいなファーを着て、頭に小さな王冠を乗せている。
その王冠持ちは普通のゴブリンの三倍くらい大きい。
筋肉も満遍なくついており逞しい。
「(餓鬼の様な見た目のゴブリンが成長したらああなるのか?)」
そのゴブリン、いや王冠を乗せているし“キングゴブリン”とでも呼ぶか。
そのキングゴブリンの腕にしがみついているゴブリン。
頭の上に小さなティアラを乗せてはいるが、今までのゴブリンと然程変わらない大きさ。しかし腰布一枚の今までのゴブリンと違い、胸の辺りにも布が巻かれている。
それにお腹がかなり大きい。
このゴブリンもなんとなく見た目から“クイーンゴブリン”とでも呼ぶことにしよう。キングの隣にいるし。
……メス、で合ってるよな?
「ガァ……ガァーッ……!!」
クイーンゴブリンが急に苦しそうな唸り声を上げだした。
「(な、何だ?)」
クイーンゴブリンはキングゴブリンから手を離してその場に仰向けになった状態で苦しんでいるけど、これってもしかして……
「ガァァァーッッ‼︎⁉︎」
お腹の下から……赤ちゃんゴブリンが二匹生まれた。
やっぱりか……
「ガァァアアァァ‼︎ガァァアアアァァ‼︎」
ダンジョンの狭い洞窟内に赤ちゃんゴブリンの鳴き声が響き渡る。
「(うぅぅん、これはちょっと狩り辛いなぁ……)」
そう思いながら、少し身を引こうとした時だった。
近くにあった小石に鞘が当たり音が鳴ってしまった。
ガタッ!
「ガガァァァ‼︎」
やば‼︎
キングゴブリンが俺に気付いたようで後ろに置いてあった長さ60センチくらいの木の棍棒を手に取り、こちら目指して走って来る。
キングゴブリンの声で反応したゴブリンたちがキングゴブリンよりも先に槍を持って走って来る。
俺は急いで石段を登り、剣を鞘から抜き、戦闘体勢で石段の横でゴブリンを待ち伏せる。
「ガァァァ!」
「このっ!」
俺を追って登って来たゴブリンめがけて剣を横から振った。
ゴブリンの上半身と下半身がさよならになった。
卑怯かも知れないがこれも生き残るためなのだから仕方のないことだと思いたい。
続くゴブリンたちも待ち伏せで倒したり、真っ正面から突いて来た槍を躱して槍の柄のところを剣で斬ってから倒したりした。
剣には紫色の血がついているし、壁や足元にも紫色の血が飛び散っている。
はっきり言って気持ち悪い、自分でやっといてなんだけど...
「(あれ?そう言えば最初に俺に気付いたキングゴブリンをまだ見てないな)」
そう思い、恐る恐る石段の上から下の様子を伺ってみると、キングゴブリンはそこら辺をキョロキョロしているだけでこちらにが上がって来ようとしていない。
試しにゴブリンが持っていた槍をキングゴブリンの横の壁めがけて投げてみる。
ドォンッ!
石壁に刺さった槍。そこを中心にバスケットボールの半球ほどの大きさで破損した。
嘘ぉ!軽く投げたはずなんだけど...
「ガガァァァ⁉︎ガガァァァ!」
キングゴブリンは俺に気付かずにキョロキョロしている。
まるで俺が見えていないかのように辺りを見回している。
今のうちにと思い石段を少し降りてみた。
ガタッ!
石段の上にあった小石を踏んでまた音が鳴った。なんでこうもやらかすかな!
「ガガァァァ!」
「うわっ⁉︎」
俺は慌てて石段を登って、すぐそばの横40センチ高さ80センチくらいの大きな石裏に隠れる。
....
一向にキングゴブリンが登って来ない。
再び石段の上から下の様子を窺うとそこにキングゴブリンの姿はなかった。
次は慎重に石段を降りて様子を窺う。
「⁉︎」
キングゴブリンが仲間のゴブリンを棍棒で殴っている瞬間を目撃する。
そのゴブリンは今までのゴブリンよりも痩せている。
今までのゴブリンは少し腹が出ているのだが、そのゴブリンは肋骨らしき物が浮き出るほどガリガリに痩せている。
「(何やっているんだ?あいつは...)」
あいつはって友達みたいな言い方だが、この際どうでも良い。
クイーンゴブリンに視線を移すと止めようとしないで、赤ちゃんゴブリンにその映像を見せないように身体で隠しながら、その様子を笑って見ているようだった。
視線をキングゴブリンに戻せば、辞めることなくさっきのゴブリンを棍棒で殴り続けいる。
一発目の打撃でガリガリのゴブリンは地面に倒れるが、キングゴブリンは殴るのを辞めない。
グシャッ!グシャッ!
生々しい音が響き渡る。
地面から紫色の血がドバドバ流れ始めた頃にキングゴブリンは殴るのを辞めたが、殴られていたゴブリンは一向に動かない。
「(もしかして死んだ⁉︎)」
しかしキングゴブリンが仲間を殺したからと言って、あのゴブリンの敵を討つのはおかしな話だ。
そうおかしな話だ...いくら胸くそ悪いその光景を生んだとはいえ...
でも、ゴブリンの敵討ちとは関係なくあのゴブリンたちを狩ることは俺には出来る。なぜならあいつらは魔獣なのだから。
これならおかしな話ではなく、普通の話である。
俺は覚悟を決めて石段を降りる。
「ガガァァァ⁉︎」
キングゴブリンが俺に気付いて走って来る。
だいたい2メートルくらい離れている。それを迎え撃つために剣を構える。
「ガガァァァ!」
「くっ‼︎」
キングゴブリンが棍棒を上から振り下ろしてきた。
キングゴブリンの大きさは1メートルはあるので、俺の溝くらいに棍棒が迫って来た。
俺はそれを剣で受け止める。
無茶なのは分かっているが、どうしたら良いのか分からなかったので剣を使って何とか止めている。
そこから剣で棍棒を流しながらキングゴブリンから一旦離れる。
今のでだいたい分かったが、キングゴブリンの攻撃力はあまり高くないようだ。
多分今の俺なら普通に首を斬ることが出来るだろうが、それだとなんか納得がいかない。
今だってキングゴブリンが俺めがけて棍棒を上から振り下ろしたり、薙ぎ払うように横へ振ったりしているが、余裕で避けられる。
「(お!良いこと思いついた)」
「ガガァァァ!」
「よっと!」
俺はキングゴブリンの攻撃を躱してある方へと走り出す。
「ガァァァ⁉︎ガァァ!ガァァ!」
向かった先にいたクイーンゴブリンが大慌てで逃げたが、俺の目的はその近くで死んでいるゴブリンだ。
1メートルくらいしか離れていないのですぐに着いた。
「ちょっと借りるぜ」
そう小声で言い、死んだゴブリンから槍を拝借する。
「ガガァァァ!」
俺を追って走って来たキングゴブリンが棍棒を振り下ろして来た。
それをあえて避けずに剣で流すようにして受け流した。
だって避けたら後ろのゴブリンに当たるじゃん。
受け流した直後に素早く剣を構えて、キングゴブリンの右脚に突き刺す。
「グガガァァァ⁉︎」
剣から手を離し、痛みで叫んでいるキングゴブリンの後ろへと周り込み、拝借した槍で王冠ごと真上からそれを突き刺した。
「ガガァ...」
バタっとうつ伏せに倒れそうになるのを顔面を蹴って仰向けの状態に変える。
そうしないと血が剣に流れ、汚れてしまうからである。あと剣を抜くのも面倒になるから。
剣と槍を抜き、剣の血はキングゴブリンの服で拭き取り、槍は拝借したゴブリンのところへと持って行き側に置いてから手を合わせた。
なぜかこのゴブリンが可哀想に思えたので。
...さてと、キングゴブリンは倒したし、この王冠は貰って行っても良いよね?俺が倒したんだし。
倒れるキングゴブリンから外れた王冠を回収する。不思議なことにこいつに殺されたゴブリンの近くにまで転がっていた。
ふと後ろを振り向くと、クイーンゴブリンが我が子を抱いて尻もちをつきながらガタガタ震えている。
「(うぅぅぅん、子供もいるし止めといた方が良いかな?)」
はっきり言って魔獣にこんな気を起こすのは変かも知れないが、何となく気が引けるのだ。
他に何かないか周りを見回してみると壁に穴が空いていてその中に石段が見えた。
さっさと離れるために王冠を持って立ち上がり、石段の方へと歩き出す。
....あ!バッグを上に置いたままだった!
俺は慌ててさっき降りて来た石段を登りボクサーバッグを持ってまた降りようとしたが、少し疲れたので一旦頂上に出て一寝入りすることにした。
外に出てみるともう夜だった。
早くないか?
外に出ると今までのピリピリした感じが消えた。
俺はボクサーバッグを枕に仰向けで寝っ転がる。
夜空にはいくつもの星が輝いていた。
こっちの世界の星もすごく綺麗だ。
俺はそんなことを考えながらステータスがどれくらい上がっているかが気になったので開いてみる。
___________
ステータス
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
名前:桐崎東
ステータス番号:57764
性別:男
Lv.17
攻撃:460
防御:630
体力:2150/2150
魔力:1700/1750
「固有能力」
魔眼Lv.3
能力: 対象の情報がレベルに応じて把握できる
千里眼Lv.1
能力:眼で遠くの景色を見ることができる
Lv.1:100メートルまで調整可能
言語解析
能力:本人の半径100メートル圏内のありとあらゆる言葉が本人の語で統一される
相手には違和感なし
言語読解
能力:ありとあらゆる言葉が本人の語で読める
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おお!
結構上がっているな!
でもこの『魔眼』とか『千里眼』とかはレベルがついているのに何で上がらないんだ?
特殊な上げ方とか?
と言うか、まずどうやって使うかも分かっていないんだよなー。
ステータスみたいに頭の中で念じたら使えるとか?
よし、試してみよう。
ステータスを閉じ目を閉じて意識を集中させる。
「(すぅぅ、魔眼...)」
ゆっくり目を開けて周りを見る。
やっぱり何も...ってあれ?
さっきよりも周りが明るく見えるような?
試しに石段の下を覗こうと地面を見ると、
___________
石壁...硬い/石
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そんな文字が地面から浮かび上がって来た。
何だこれ⁉︎
下を向いたまま一旦目を閉じて魔眼を閉じるように意識を集中する。
目を開けると先ほどのような文字は浮かんで来なかった。
恐る恐る洞窟の中を見れば、今度は今までと違いかなり薄暗くなっていた。
「これってもしかして...」
試しに目を閉じて魔眼を発動するように意識を集中して、目を開けてみる。
すると先ほどかなり薄暗くなっていた洞窟ではなく、つい先ほど見た時のように明るい洞窟が広がっていた。
それに加えて石段や壁から先ほどのように文字が出ていた。
二階に続く石段のところに倒れているゴブリンを見てみる。
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ゴブリン...死
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っと文字が表示された。
どうやらこれはステータスに書いてあるように対象の情報が分かるらしい。
壁の材料や材質、魔獣の名前など。
「これはかなり使えるかもな」
そう言いながらも睡魔が襲って来たので、上へ戻って仰向けになり目を閉じた。
そしてどのくらい寝たか分からないが空はやや白ばんでいる。眠気を覚ましてから、ボクサーバッグを持って石段を降りる。
キングゴブリンを倒したところで一旦魔眼を発動させて倒れているキングゴブリンを見る。
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キングゴブリン...死
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「(あ、適当に名前付けたけど合ってたんだ、キングゴブリンで)」
魔眼を閉じて、クイーンゴブリンの方を見てからもう一度魔眼を発動させる。
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クイーンゴブリン:恐怖
ベビーゴブリン:就寝
ベビーゴブリン:就寝
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「(あらら、クイーンゴブリンも合ってたんだ)」
なんか嬉しい。
魔眼を閉じて新しく見つけた石段を目指そうするが、急に周りが暗くなった。
「(何だ⁉︎どうした⁉︎)」
辺りを見渡すが、上の方にある数本の松明による灯しかないので周りが薄っすらとしか見えない。
え!何で急に...いや、昨日も魔眼を閉じてから洞窟を見たときに同じことになった。
もしかしてと思い魔眼を発動させる。
辺りが一瞬にして明るくなった。
「(やっぱりだ!この魔眼の力で今まで明るかったのか)」
でも最初のときはこんな文字は浮かんで来なかった。
つまり、この文字を消しながら魔眼を発動させることができるってことだ...けど、どうやるんだ?
意識しない?いや無理だ。
一点ではなく全体を見ようとしても文字が表示されてしまう。
そう言えば昨日ステータスを見た時に魔力の欄の数値が左だけ減っていたから、よくゲームとかだと左が今の自分の状態で、右が自分の現在の最大値ってのがあるからこの魔眼も魔力を消費して発動していたりして。
魔力をどう操作するか分からないから、なるべく最初にこのダンジョンの洞窟に入った時みたいにしてみるか。
目を閉じて、最初の感覚を何となくで思い出しながらやってみる。
........ゆっくり目を開けてみると明るいだけで文字が表示されない。
「しゃぁぁぁ‼︎成功‼︎」
「ガァァ⁉︎」
あ!いたの忘れてた。
とりあえず、魔眼のことは解決したと思うから新しく見つけた石段を降りることにする。
レベル上げはそれからだ。
石段を慎重に降りて行き、最初と同じように周りの様子を窺う。
しかし特目立ったものは何もなかった。
一つを除いて。
洞窟の真ん中に明らかに不自然な花が咲いてるのだ。
ピンク色の花びらが中心から回っているように付いている。
あれだ、乙女椿のような花が咲いているのだ。
「(よし、魔眼を使おう)」
そう思い、魔眼を発動させる。
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ソウチュウバナ:待機
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ああ、やっぱり魔獣...だよな?花が待機っておかしいし。
「(まずどんな攻撃をしてくるんだ?石で試してみるか)」
小石を手探りで探して拾い、花もといソウチュウバナの手前めがけて転がすように投げる。
カタカタカタ...ガッ!
ソウチュウバナの手前まで小石が転がり止まると、花びらの中心に穴が空き小さな牙が見えたかと思うと、小石めがけて倒れる。そして小石を飲み込んでしまった。
小石を飲み込んだソウチュウバナはそのあと何事もなかったかのように一輪の花に化けた。
おお!怖っ!
「(うーん、剣で茎ごと切っても良いけど何か別の攻撃手段があるかもしれないしなぁ...お!そうだ!松明の火でも食わせてみるか!相手は花だし)」
アイデアを思いつくと慎重に石段を登り、クイーンゴブリンのいる洞窟へと戻る。そして上の壁に刺してあった松明を一本もらう。
もちろん普通では届かないので、石を投げて落とす。
少し狙いが外れたが、壁に石がめり込んで自然と松明が落ちてきた。
まあ、そのせいでクイーンゴブリンにはまたしてもガタガタ震えられたけど気にしない、気にしない。
松明を持って石段を慎重に降りて、ゆっくりとソウチュウバナに近付く。
あまり近付き過ぎると攻撃されそうなので、松明の火がソウチュウバナの目の前に来るように置いた途端、ソウチュウバナの中心の花びらが開き牙が見えた。
そしてすぐに松明の火の方へと倒れてくる。慌てて後方に飛んで逃げる。
「グギャァァァアアァァァ⁉︎」
当然ながらソウチュウバナは体内から燃えた。
.....そして1分も経たないうちにソウチュウバナは跡形もなく燃え尽きた。
自分でやっておいてなんだが、少し酷かったかな?