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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第12章 アルタイルの大会
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決勝戦、そして敗北

 

 準決勝が終わり十五分の休憩がもらえた。

 日はもう時期暮れかけている。そのためか兵の人たちが大量の松明を持って来て、周りに設置し始めた。

 多少は明るくなったがそれでもしっかり見えるという訳ではない。

 これだと観客も苦労するんじゃ......そういえば獣人って人間よりも眼が良いんだっけ? 夜行性の動物は暗闇でもだいたいは観えるそうだから、もしかしてちゃんと観えているのか?

 俺は悪いとは思いつつも『魔眼』を常時発動させてもらおう。これ以外は使わないので許して欲しい。

 うん、よく見える。

 そんなことを考えていると松明の設置と舞台の沈下が終わり、休憩時間の十五分も経過した。

 隔てる壁がなくなり、舞台は最初に比べて半分くらいに削られた。

 休憩終了の一、二分前に準備をするように司会者が叫んだので舞台に上がっておく。

 開始前に少しだけ準備体操をしているとアシュが舞台に上がり、それとほぼ同時に司会者が叫んだ。


「それではこれより決勝戦を行います! アズマ選手対アシュ選手! ......始め!」


 審判がそう叫ぶ。

 開始の合図がかかったがアシュは動こうとしない。だがやはり隙はない。

 さて、どうするか。キリやサナたちのおかげでアシュがどれだけ強いのかはだいたい分かった。

 あの二人に勝った相手なのだから、一筋縄で行くとは思えない。

 本気で挑まないと負ける可能性が高い。そういう訳で縛りはあれど全力で行く!

 そう決めて強く地面を蹴る。その際、地面に少しヒビが入った。


 ______________


 観客、アルタイルの王、王の護衛役の兵士、司会者、審判、警備兵、何かあった場合に警備兵と動く雇われていた冒険者、それらが今()の当たりにしていることに困惑と驚愕の表情を隠すことが出来ずにいた。

 彼らの大半はこの大会を幾度となく観て来た者ばかりである。しかし今、そんな彼らの目の前に起こっていることは今まで彼らが観たことのない現実だった。


「ふっ」

「......」


 こちらが放った右ストレートを顔を横に反らして躱される。続いてフェイントを数回入り混ぜてから右裏回し蹴りも右手で簡単に払い受けられた。


「なら、これで!」

「っ」


 弾かれた脚を身体を右へ捻り、無理矢理(かかと)落としに変えて叩き込むが腕をクロスにしてガードされた。

 ガードの上からの踵落としの威力が強かったため、アシュの足元が少し砕けたが、アシュ自身には大したダメージは与えられていないようだ。


「まだまだあぁっ!」

「!」


 すぐに脚を退けて相手の後頭部を左回し蹴りで狙うが、それを右肘によって受けられる。

 骨に突き刺さるように打たれ、めちゃくちゃ痛い。

 一旦距離を取ろうと後方へ逃げるがすぐに詰め寄られる。片足では逃げ難いな。

 距離を詰めたアシュが俺の顔に向けて左手を広げて伸ばしてくる。それとほど同時に下から右手による抜き手が差し迫っているが、視界の端でギリギリ捉える。

 目隠しか!

 反応が遅れたため脇腹を掠る。掠っただけでまるで拳で横から殴られたみたいな重い痛みが走る。

 そこから攻めたり、攻められたり。防いだり、防がれたりを繰り返する。多少のダメージはあれど、決め手に欠ける戦いが続く。

 例えば数回ほど地面を蹴り、勢いよく殴りかかったがそれも躱されたり、払い流され威力を減少されたりもした。対処が的確故に滅多に攻撃が入らない。

 そんな一回の攻撃や避けの速さ、間合いの詰めなどが今までの大会参加者たちより何倍も速いな。まさに別格だ。

 しかしそう動く相手が攻め切れていないというのは、東もまたアシュの攻撃を的確に捌けているということである。

 そしてそんな二人の攻防を目の当たりにしている観客が驚愕するのも当然と言えるだろう。

 観客の中には「あり得ない......」、「今、何した? 速過ぎて見えなかったぞ」、「え......?」などと独り言を呟く者たちも現れ出した。

 そんなことはお構いなしに舞台の上に立つ二人は自分の持てる技を繰り出していた。


「……」

「……」


 ジャンプからの二段蹴りを打つが片足を払われ、もう片足を掴まれかけたが身体を捻ってそれを回避する。

 着地したと同時に相手の拳が俺の目の前まで来ていた。それを下から上へ掌底(しょうてい)打ちの応用で左手で払い上げる。

 そして払い上げてからすぐに一歩踏み込んで右アッパーを仕掛けるが蹴り先に打ち込まれた。

 ギリギリ左腕でガード出来た。おかげでジンジン痛むけど折れてはいないだろう。

 蹴りの威力が強かったため四メートルほど吹っ飛ばされたが、距離を取らなくて済んだな。

 しっかし強いなぁ、今まで会って来た誰よりも強い。俺の攻撃も数発当ててるがほとんどが効いていないようだし、勝てる見込みが全くない。

 本気で行ってもこのザマか。異世界に来て魔獣とか結構狩れていたから、本気で行けば勝てるかもって思ってたんだけど甘過ぎたな。

 試合開始からどのくらい経ったのか分からない。既に日は沈んでいるから多分周りはかなり暗くなっているだろう。

 今日に限ってなのか空は曇っているため夜空は見えない。そのためより真っ暗なはずだ。

 相手が獣人とかならだいたいは見えているのだろうが、普通の人間なら全くのはず。

 あの仮面とローブの下には普通の人間の顔か、それとも夜目が利いた獣人の顔なのか、少し興味がある。

 しかし仮面を着けるのは顔を知られたくないからかそういう趣味か。何にせよ他人が隠していることを無理矢理引っぺがすのは気が引ける。

 だからやらない。ま、悪人とかなら別だけど。


「!」

「ぐっ⁉︎」


 考えを巡らせていると相手が一気に間合いを詰めて来て、左足による回し蹴りを振るってきたのでそれを肘と膝で挟もうとした。

 まずは捕えないと攻め難いからだ。

 しかしもう片足の軸をズラして回し蹴りの距離とタイミングを変えられた。

 無防備になっていた横腹に強い衝撃が走った。これは効く!

 相手に流れがある、もう一度距離を取ろう。

 ジャンプして後方へ下がる。追って来るかと思ったが追って来ない。

 残念ながら気づかれたようだ。

 だいたいの相手なら自分が優勢の状態で相手が後方へ逃げれば追ってトドメを刺しに来るやつが多いだろう。

 俺だってそうする。

 だがそれはあくまで相手が何の反撃策もなく後退した場合だけだ。

 もし今相手が追って来たのなら即迎え撃つつもりだった。しかもこちらは万歳の体勢でだ。

 この距離を追って来るには走ってから、飛んでだ。その際相手は動きやすい体勢ではあるが一時的に身体を動かすスピードが万全の体勢より遅れる。

 そこを突こうと反撃しやすいように一気に飛んで距離を取るのではなく、数回のジャンプにしたのだけどな。

 多分これで感づかれたのだろう。さっきまで一気に飛んでの逃げばかりだったから、急に変えて怪しまれたか。

 いやはや、本当に強い。勝てる自信など皆無だ。

 しかしなぜだろうか。自分では勝てる見込みがない相手が今、目の前にいる思うとなぜか……楽しくなって来た!

 口角も吊り上がっているのが分かる。

 よく漫画とかでも秘策などを持っている者が笑っているシーンがあるけどそれとは違う。秘策なんてものを俺は持っていない。

 となるとなぜ楽しいのか検討もつかない。だから気にしないでおこう。今はその考えは邪魔になる。

 それに勝てないからって諦めるのも悔しい……いや、もったいないんでね。やれる所までやり切りたい!

 そう決めて地面を蹴り、一気に詰め寄る。

 慎重に、大胆に、速く、遅く、強く、弱く攻める。

 的確に、大雑把に、固く、しなやかに防ぐ。

 相手の攻撃を避け、払い、喰らう。こちらの攻撃を避けられ、払われ、喰らわせて。その間も楽しくて仕方がなかった。

 そして俺は避けた手刀で帯を切られて負けた。


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