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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第12章 アルタイルの大会
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降参、そして成長

 

 地面を蹴りゲノムの手前へまで行き、軽めに飛んで顔面横目がけて右裏回し蹴りを放つ。が、残念ながらギリギリで避けられてしまった。

 ゲノムは俺の攻撃を避けてからすぐに距離を取ろうとする。

 早く終わらせたいので追うが、追えば逃げ、逃げられれば追うを繰り返す。彼がジャンプして俺の背後を取ろうとすれば空中戦のようになり、ついに足場が残り僅かの端まで追い込んだ。


「くっ、何故だ! 何故動ける⁉︎」

「は? 動けるに決まってるだろ。それとも何か動けなくなるようなことでもしたのか?」

「そんな訳が、っ......」


 ゲノムが何かを言いかけたが辞めた。下手なことを言えば不正がバレる可能性が高いからだろう。

 と言っても何故動けるっと言っている時点で何かしてますっと言っているのと同じだけどな。


「まだやるか?」

「クソが......」


 ゲノムは俺に背を向け舞台から降りた。その行動に観客席から再び不満の声や疑問の声などが聴こえて来た。

 観客の気持ちも分かるがこのまま続けていても片手、下手したら両手の骨が砕けているだろうから、まともな試合は不可能だろう。

 舞台から降り、外へ繋がる通路を出てどこかへ去ろうとしているゲノムを追いかける。


「待てよ」

「......まだ何か用か、ぐっ⁉︎」


 懐から何かあった時用に隠しておいた三ミリほどの治癒核を取り出し、ゲノムの右手を強引に掴んで治癒核に魔力を流す。治癒核はこの程度の大きさでも骨折を治すのに十分な力がある。

 手を取られて痛みが走ったようだが我慢してもらおう。


「離せ!」


 治しきったところで手を抜かれた。

 睨んでくるゲノムだったが、痛みがなくなった右手に怪訝そうな表情をしている。しばらく手を握ったり開いたりを繰り返して余計に不思議がっている。


「これをやる」

「!」


 治癒核をゲノムに放り投げると、彼はそれを驚いた顔でキャッチした。


「被害者に謝ってから自分で治してくれ」


 それだけ伝えて俺は立ち去る。

 背後でゲノムが何か言っているが無視で良いか。何か見覚えのあるかけらが飛んで来た気もするが投げ返したから気にしないでおこう。

 サナの応援のためにさっき通った通路を渡っている時に思ったのだが、試合中に固有能力をつい使ってしまったが良かったのだろうか?

 これで俺が不正行為で失格になったらと思うと何とも言えない感じだ。ここは神頼みでもしておいた方が良いのだろうか? そもそも不正をどう判断するのだろうか?

 そんなことを考えながらサナが戦っているブロックへと向かう。


 ______________


 サナのフェイントありの攻撃や勢いのある攻撃などを避けや払いなどで躱していくアシュ。

 サナも相手の攻撃をギリギリとはいえ躱している。

 しかしそんなサナはかなり疲労しているようで、肩で息をしている。それに対してアシュは全く疲れていないように見える。

 アシュの動きは無駄がなく、また攻撃後もほとんど構えを取っていないにも関わらず突き入る隙がない。

 そのためサナもなかなか攻めに入れていない。


「......はあっ!」

「......」


 サナが一息を置いてから一気にアシュへと近づき、勢いのある左回し蹴りをするが、アシュは肩辺りまで迫った蹴りを右腕で軽々と止めた。


「これならど──」

「はあっ!」

「ぐふっ⁉︎」


 だがサナはそれで諦めず軽くジャンプし身体を回転させ右回し蹴りを繰り出そうとした。

 しかしその蹴りが届く前にアシュは身体を少しだけ屈み、サナの鳩尾辺りを左手のひらで押したように見えた。だが何か違和感がある。

 その攻撃をまともに受けてしまったサナは平行に数十メートルも吹っ飛ばされた。しかし空中で何とか体勢を立て直し、地面を滑りながらなんとか着地する。

 しかし立ち上がった彼女は少しフラついている。

 今のサナのレベルなら一人でも赤ランクの魔獣とも戦えるだろう。

 いくら疲労しているとはいえ、そのサナに一撃であそこまでのダメージを与えたということは、さっきの一撃は余程の威力だったようだ。

 だが一番重視しなくてはいけないのはその威力ではなく相手がその攻撃を繰り出した際の動きだ。

 サナの次の攻撃が完全に放たれるよりも速くあの一撃を繰り出した。

 自分が攻撃をする際は状況判断、攻撃技の選択、選択した攻撃を実行するための体勢移動が瞬時に行われている。

 武術でなくてもそうだが、素人とプロでは当然プロの方が上だ。

 そしてプロは一部を除けば経験などを多く積んでいる。

 それと同じで攻撃する際に瞬時に行われる行動は経験を積んでいる者ほどより速く、より正確に実行することが出来る。

 まあ、何が言いたいかというとアシュはかなりの手練(てだ)れだということだ。

 サナもそれは拳を交えて理解しているだろう。そして、今自分の目の前にいる相手は自分よりも“強い”と痛感させられているだろう。

 だが、サナは......


「はあああっ!」

「......」


 諦めずに向かって行った。

 『戦いの中で学び、成長する。それもまた、術なり』という言葉を昔、本で読んだことがある。

 サナは相手が自分よりも強いからと言って諦めず、逆にその相手で強くなろうとしている。

 実に彼女らしいと思える。

 そしてそれからさらに数十分か、それ以上経ったくらいにサナは帯を取られて負けた。

 諦めずに挑み続け、サナは格段に強くなった。動きのキレ、速さ、攻撃の方法。それら全てが上がり彼女は強くなっていった。

 しかしそれでも相手の方がさらに上だった。


「そこまで! 勝者、アシュ選手!」


 審判がそう叫ぶと静まり返っていた観客席から一気に歓声が湧き上がった。

 サナは相手に一礼してから俺の元へと来た。

 サナの表情は悲しさはあれどスッキリとした顔をしている。彼女もこの結果に満足しているようだ。

 なので俺から言う言葉は「お疲れ」だけである。

 サナは頷き、少し間を置いてから「決勝頑張りなさいよ」と言って去って行った。


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