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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第12章 アルタイルの大会
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不満、そして涙

 

 第九試合からの対戦相手が司会者によって発表される。

 といってもトーナメントの紙がそれぞれの舞台端に貼られているので、それを見ても分かる。

 俺らは司会者が発表している方を聞いて、相手の名前を確認する。


「それじゃ、また後で」

「ああ」

「頑張って」


 別れの言葉を交わしてから、それぞれ最初に自分が戦ったブロックへと向かった。


 ______________


「テリュス選手場外! 勝者、アズマ選手!」


 審判が宣言する。それと同時に俺らのブロックが見える観客エリアから上がっていた歓声、ではなく不満の声がさらに威勢を増した。

 テリュスという選手は......女せ......い、だよな?

 身長は二メートル弱でボルグさん並の筋肉。ここまでだと完全に男、漢だろ。

 といっても声を除けば、だ。声は普通の女性よりやや高い。ヘリウムガスを吸ったら近いかもしれない。

 熊の獣人で、攻撃の力強さは一発防いだだけで理解出来た。明らかにさっきまで俺に向かって来た獣人たちよりも重く、威力のある攻撃を繰り出してきた。

 そんな攻撃をまともに喰らえば大抵の男は骨を折られるだろう。相手が獣人であってもほとんど似たことになっただろう。

 だから俺も苦戦した。

 相手は失礼だが一応女性なのだから顔や胸部、出来ることなら腹部も攻撃しない方が良い。

 だから鉢巻を取ることに専念することにしたが、身長差で手が届く前に狙いがバレて防がれた。

 何度かフェイントも混ぜてはみたが、一点狙いのため避けられた。

 仕方がないので計画変更である。

 彼女から攻撃をある程度避けつつ、適当なタイミングで対処出来る攻撃を受け払う。こうすることで相手に「自分の攻撃が俺には通じない」みたいなことを思ってもらうためだ。

 すると行動が二通りぐらいに分かれてくる。

 “攻撃手段を変えて来る”相手と“諦め始める”相手。

 彼女は後者だった。

 しばらく攻撃をし続けるがその数が徐々に減りそして攻撃を辞め、防御へと変えた。

 これを前者としても捉えることは出来るのだが、俺が自分で作った隙を突かずに身構えていた所を見て、これは後者の方だと判断したのだ。

 そしてそのことを理解すると地面を強く蹴り彼女の()を突っ切った。

 そのまま真っ直ぐ自分に来ると思っていたはずが、自分の上げている腕の横を突っ切るという予想外のことに驚き、振り返るのが遅れた。

 彼女が振り返るタイミングで彼女の飛び込む様にして接近する。そして彼女の右手首を掴み、地を蹴る。

 彼女の右肩に置いていた左手を軸にして、ぐるりっと一回転して再び彼女の背後へと降りた。

 彼女の首横に肘があり、上を向いている。無理矢理の体勢なためかなり痛いはずだ。

 それを力尽くで戻そうとするが俺の方が力が上なようで戻せない。

 空いている左腕で肘打ちしてこうとしたが見えていないためちゃんと狙うことが出来ず、少し身体を横にやるだけでそれは当たらなくなった。

 次に鉄槌打ちで攻撃してきたが、その手首を捕まえて止める。真正面から受けた拳よりも威力が出ないため、取りやすかった。

 腕がダメなら足で、と考えたらしく足で攻撃して来るが脚を上げる前にこちらも足でそれを阻止(そし)して無駄ということを伝えた。

 そしてもうこれ以上暴れられないように右腕を掴んでいる手を少し下へ下げてより痛くする。すると大人しくなった。

 ここで自分のミスに気がついた。腕を押さえたまでは良いのだが、これでは鉢巻を取ることが出来ない、と。

 さすがに口で取るわけにもいかないし、そもそも届かない。

 仕方がないのでそのまま前へ進むように言い、自らの足で場外に出てもらった。

 しかし観客はそれを良く思わなかったようで、さっきから不満の声がよく聴こえて来る。しかしこれも覚悟の上だ。

 俺はまだ不満の声を上げる観客たちを背に舞台を降り、まだ試合が始まっていないキリと一緒にサナの応援へ行く。

 向かう際にキリが「気にしないで」と優しく言ってくれる。

 サナの試合は着いた時にはもう終わっていた。もちろん彼女が勝利した。

 そんな彼女から「さすがにベスト八まで残っている相手だけあって、試合中何度かピンチになった」っと言われた。

 それでも早く試合が終わっているということは技量と経験で突破し、勝利を収めたのだろう。

 そしてそれは後のキリにも言えた。

 相手の動きにはほぼ無駄がなく、突き入る隙が全くなかった。

 しかしそれはキリも同じで、剣士として鍛え上げられた彼女にも無駄な動きや隙は全くない。故に互いに攻めるタイミングを図る。

 攻撃をしつつ防御をし、さらに相手よりも一枚上手(うわて)の攻撃を組み上げ、実行しなければならない。

 それを数回、数十回と繰り返し相手が勝った。

 相手はキリの動きの把握が早く、そこから次の動きを予想しているようだった。それはキリも当然行ってはいただろうが、キャリアの違いに見えた。

 事実最後の相手の攻撃を全て予想することが出来なかったらしく、フェイントから体勢を僅かに崩された。そこを突かれたことでキリは負けた。

 ちなみにキリの対戦相手はあの仮面を被ったローブの相手だ。

 仮面で見辛いはずなのにしっかりと動きを把握出来ており、ローブ姿だというのに動きは素早く、全く邪魔になっていないようだった。

 明らかに強者だ。

 俺はそう相手、審判には“アシュ”と呼ばれていた。を警戒する。

 舞台から降りたキリに慰めの言葉ではなく「お疲れ様」と言うだけだった。今はそちらの方が良いと判断した。

 サナも同じ考えだったようで俺と同じことを言った。

 するとキリは気持ちを殺して笑顔で「ありがとう」と言った。

 舞台付近には選手以外はいられないのでキリは俺たちに笑顔で別れと応援の言葉を告げて去って行った。

 彼女が顔をこちらから逸らした際に表情が崩れ、涙が浮かんでいたことに気がついた。



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