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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第12章 アルタイルの大会
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逃走、そしてパン

 

 サナの言葉に打ちのめさせられ、落ち込んでしまった。開放しても大丈夫だろうかと思いながら、手を退ける。

 その心配は杞憂となり、体勢そのままで動こうとすらしない。

 加えて何かをぶつぶつ(つぶや)いている。時折「殺される」や「サナがそんな男の所に」などと聞こえて来たが無視するとしよう。

 さすがにこれ以上は彼に時間をかけていられないので、まだぶつぶつ呟いているハクの肩に手を置く。すると肩をビクッとさせてようやく顔を上げた。

 その顔は若干青くなっている。


「ひっ⁉︎ あああ、えっと、その、親父さんとニーナちゃんに......よろしく、なーあああぁぁあ」


 そう言ってハクは猛ダッシュで立ち去って行った。俺とサナはその光景に呆気に取られながら、彼が去って行くのを見送っていた。

 早く退いてくれって意味で肩に手をやったんだが、これは通じたのか?


「と、とりあえずキリの応援行くか」

「そうね......」


 俺たちはキリの応援へと向かった。その間にハクについて話してくれた。

 ハクとサナとニーナは幼馴染でよく遊んでいたそうだ。サナは昔から元気があり、一つか二つ年上の男でも勝てたそうだ。そんなサナの技相手がサナとほぼ同じ強さだったハクなのだとか。

 と言っても十歳頃にはもう腕試しは辞めたそうだ。サナの方が強くなったのもあるそうだが、一番の理由がサナたちの母親が他界したことが一番の理由だそうだ。

 ディグリーさん一人でお店と子どもの世話をするのは大変だった。なのでニーナが家事、サナがギルドで簡単な依頼を受けて資金確保をし始めたのだと。

 サナたちがハクとほとんど関わらなくなった理由はハクたちには言わなかったそうだ。

 そんなことが起こってから数年経って、店も安定して商売が出来、人員も増えてきた時に俺らと出会ったとのことだ。

 その話を聞き終えてから俺はサナを抱き締めた。


「ちょっ⁉︎ ちょっと、アズマ! ななな、何、いき、いき、なり⁉︎」


 突然抱きつかれ、動揺し始めたが俺は気にせず口を開いた。


「大変だったんだな......」


 その一言だけ。その一言は前にユキナが過去のことを話してくれた後にも言った言葉だった。

 しかしユキナと違い、彼女たちの苦労は俺も似た経験があるため一層理解出来た。

 サナは静かに「ありがとう」と言った。


「えー、ごほん」

「「⁉︎」」


 咳払いをされ慌てて振り返るとキリが笑っていない笑顔でこちらを見ていた。


「くっつくのは別に構わないわ。でも場所を考えてからにして、ね」


 そう言われると数人の人たちがこちらを観ているのに気がついた。

 サナの頰が一気に赤くなる。あ、多分俺もか。

 自分でも顔が赤くなったのを感じ、二人を連れて別の場所に早足で移動する。移動中にキリの応援に行けなかったのと行けなかった理由を話した。サナたちの母親の話は抜いて。


「そうだったの。そんな目に......二人とも大変だったのね」


 キリが俺たちに同情の言葉をかけてくれる。

 その後キリも勝ったことを聞いた。キリがいたブロックである第三ブロック。彼女の前にそこで行われた試合が、ほぼ一瞬で終わったらしくすぐにキリの番になったため予想以上に早く試合を終わったそうだ。

 キリの前に勝った人は俺が気になっていたうちの一人の仮面にフードを被ったローブの人、キリの話だと『アシュ』と審判が言っていたとのこと。


「第八試合が終わりましたので、三十分の休憩となります! 繰り返します......」


 その話を終えたところで司会者の声が聴こえて来た。


「何か食べるか?」

「! 前に東が作った『はんばあがあ(ハンバーガー)』が食べたい!」

「私は『さんどいっち(サンドイッチ)』? が良いわ」


 二人の注文の品を宝物庫から取り出す。遅めの昼食だ。太陽の位置的に十四時かな?

 この世界には麺やパスタ、揚げ物などはあるがパンがなかった。ホットケーキはあるのに。なので試しに食パンを作ってみた。

 材料は多少の違いはあれどほぼ同じな物が(そろ)っているのが不思議ではある。

 こっちの世界で剣などを振っていたおかげなのか、そんなに疲れることなくこね上げることが出来た。

 オーブンがなかったのが痛かったが石窯(いしがま)はあったのでローレアさんに使い方を教えてもらいながら焼き上げた。

 パンは昔近所のおばさんが作り方を教えてくれてもらい、本などで色々調べていくうちに自分でも時々作るようになったのだが、まさかここで役立つとは......

 そこから色々なパンを作っていったら作り過ぎてしまった。キリは喜んでいたけど。


「んんー......これ相変わらず美味しいー」

「本当......この肉みたいなのってなんの肉? 不思議な味だけど」

「ああ、それは肉は魚の身だよ。ツナサンドって言うんだ」


 ツナと言ってもマグロから取っていないのでそう言って良いのか分からないが、味が似ているので良しとしよう。

 不思議な味がするのはマヨネーズを意識したソースを使っているからだ。数時間かかったのが次からはまだ楽だ。

 そういえばサラダサンドに胡椒(こしょう)をかけているのだが胡椒がかなり良い値段だった。

 直径六、高さ十の小瓶くらいで金貨一六枚だった。

 俺もホットドッグを食べる。まだ少しパンが硬いな。柔らかくしないと。


「......」


 食事をしていて、ふと先ほどのハクとの試合を思い返す。

 サナのことを賞品扱いされ、自分の女だと言われた時に自分の中で怒りが湧いたのは分かった。

 誰だってそんな言い方をされれば嫌だし、不愉快だろう。

 しかしあそこまでムキになって相手をしたことには自分でも驚いている。


「(俺って独占欲が強いのかな......)」


 そんなことを思っていると手が止まっていた俺に疑問を持ったサナがどうしたのか問うてきた。

 それを慌てて誤魔化して、残りのホットドッグを頬張る。

 食事を終え、大会のことを話していたら第九試合が始まるっとアナウンスが流れたので舞台へ向かう。


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