くじ引き、そして地震
中央に集められてから少しして五人の男女がやって来た。
箱を持った女性と小さな板を持った八の字白髭の男が前に出て来た。そしてその彼らの背後には大きめの紙を持った若い男女、そして筆持ちの女性。
もちろんだが全員獣人。
「それではこれより対戦相手となる方同士を決めます! 一人ずつ前に出て箱の中の板を隣にいる男に見せ、名前を伝えて下さい! その板に書かれた数字が同じ方同士が最初の対戦相手となります!」
司会の人が相変わらず塔のようなところから叫ぶ。
つまりくじ引きってことだ。
そんなことを思っている間に周りは慣れているようでどんどんくじを引きに行っている。俺も適当なタイミングで引きに行ったが、終わりギリギリで箱の中には四枚しかないのが分かった。
板を取り出すと『一』と書かれていた。それを隣の男に見せ、名前を告げる。木板の番号を確認した男が自分の持っている板に筆を走らせる。
ところで見せたはいいけど、この木板はどうしたら良いんだ?
しかしすでに俺の背後にはまだくじを引いていない人が残っているので、考えている暇はない。仕方がないので木板を箱持ちのお姉さんに渡してさっさと元の位置に戻った。
木板を渡されたお姉さんが少し困っていると隣の男が木板をお姉さんから受け取り、後ろの筆持ちの女性に渡し、元の位置へ戻った。
木板を受け取った女性はすぐに番号を確認してそれを紙に書いた。
あ、そっちなのね。
俺は小声で「すいません」と言うとそれが聞こえたらしく、筆持ちの男性がこちらににっこりと笑顔を浮かべて頷いてくれた。
ちゃんとどうしていたのか見ておけば、いらない恥をかかなかったと反省する。
そんなこんなでくじ引きが終わり、紙に書かれた番号の下の名前が呼ばれ始めた。
『一』を引いた俺は当然第一試合となった。対戦相手の名前は“ハク”というそうだが、誰だか分かるはずもないので試合での楽しみとして捉えた。
ルールはさっきと変わらないそうだが、舞台が少し変わるそうだ。さすがに一試合ずつ行っていくのは時間がかかり過ぎるため、舞台を四つに区分するそうだ。
二、三メートルほどの塀で分けるそうなので、観客席では四つ全ての対戦は観えるそうだ。
「でも今から塀作るって、時間かかりそうだな」
「そうでもないわよ」
くじを引き終え、戻る際にサナたちの隣にお邪魔していた。それで気になった疑問を口にしたのだが、サナは普通だと言わんばかりの口調でそう答えた。
「......それでは舞台を分けますので恐れ入りますが、皆様、舞台中央から少々離れて下さい!」
司会がそう言い終わる前にみんな中央から退き始めていた。訳が分からないままサナたち一緒に指示通りに移動する。
「準備は良いですか?」
司会がそう尋ねる。
だいたいの目星をつけて司会が向いている方へと『千里眼』を使って見ると武装したおっさんが持っている刀を掲げていた。
その刀は黒の太刀よりやや短く、刀身の平らな部分、『腹』と呼ばれる部分の中央に白い線のような模様が浮き出ている。
刻まれているのではなく、浮き出ているのだ。
「それでは、始めて下さいっ!」
司会が今までよりも少し大きな声で指示を出す。
それを受け、剣を持った武装男が勢い良く刀を振り降ろした。
おいっ! そんなことしたら刀が⁉︎
そう思った時には遅く、刀は硬い舞台に当たる。ガンッと地面に刀がぶつかった音が、静まり返っていた会場に響き、消えて行った。
しかし刀は折れておらず、『千里眼』で見える距離を伸ばして刀の刃の部分を見るが、刃こぼれすらしていない。
「どうして......⁉︎」
そのことを不思議に思っていると身体が揺れ始めた。地震である。
予想していなかったことが立て続けに起こり、少しパニックになりながら隣にいるサナに目をやれば全く慌てていなかった。
他の人にも目を向けるが、誰も騒いでも慌ててもいない。
地震の振動が大きくなってくると舞台が隆起し始めた。隆起しているのは舞台の一部だけ、それも綺麗に舞台を四等分するように隆起しているのだ。
それに騒いでいるのは観客席でこちらを観ている子供くらいだった。
地震が止んでからサナにどういうことなのか聞いた。
だいたいをまとめると、武装男が持っていたあの刀は魔道具らしい。効果は『刀で触れた土砂を所有者の思うがままに形を変化させる』とのこと。
ただ変化させる時に魔力の量が少ないとスムーズに形が変化しないため地震が起きたそうだ。サナも初めての時は驚いたと笑って教えてくれた。
しかし刀が折れなかった理由は不明とのこと。




