拷問開始、そして気分
そして当然だが、刑法官たちは何もしゃべろうとしない。
それでも諦めずにブライアンがしばらくの間二人の様子を見ながら話をしていたが、彼らに答える気がないらしい。
二人の表情はずっと固まっている。
すると痺れを切らしたのかブライアンは未だにユキナのペンダントを下げたままの男の背後に回る。
そして後ろで拘束されている左手の小指を関節とは逆の方へと曲げた。
「(──やった……!)」
また声が漏れそうになるが、寸前で言葉を呑み込む。
しかしこの先に待っているであろう面倒や混乱を思うと、胸の内がざわついて仕方がない。特に首長のことを考えるとそれが一層増す。
やり遂げた本人が何を考えているのかは分からないが、厄介ごとを招くことだけは彼自身痛い程分かっているはずだ。
押収品であるユキナのペンダントを持ち出したこともそうだ。
何を思ってそこまで厄介ごとに燃料を注ぐのか理解出来ない。
「(……ん?)」
困惑しながらも彼らの様子を見ていると、その雰囲気の変化に気がつく。
どういう訳か指を折られたはずの刑法官本人は痛がっている様子がない。そんな彼の状態にブライアンも怪訝な表情を浮かべている。
『天眼』で遠くから映像だけを見ている俺にもその場の空気が凍りついているのが伝わってくる。
「(指は、確実に折れてる。なのになんで無反応なん…………そうだった。俺が麻痺で動けないようにしてあるんだった)」
刑法官の態度に能力か魔道具を疑ったが、すぐに『麻痺』によって身体を動けないようにしておいたのを思い出す。
「(呼吸は出来るようにするために弱めにしたとはいえ、神経系を麻痺させているから今は痛みも感じていないのはずだ)」
原因の予測がつき、改めて刑法官を観察する。
するとよく見れば散瞳しているのに気がつく。
瞳孔が開いているのは暗闇の他に痛みによる興奮や緊張の時にも反応すると授業で習った記憶がある。
ただ、それが身体が麻痺していても働くのは知らなかった。
人間で能力を試した回数がほとんどなかったため驚いていると、ブライアンも先程の俺と同じ見解らしく、彼の身体検査を始めた。
しかし特に怪しげな物を所持していなかったために余計に眉根を寄せている。
「(ここで諦めてくれれば良いんだけど……)」
言葉を発することも、拷問による痛みによって屈服することもない状態。ブライアンも時期にそれが分かるだろう。
時と場合によるけど、拷問なんて非人道的行為は誰にもやって欲しくないし、見たくもない。
ただ、彼はまだ続けるらしく、次は人差し指の爪をなんと手で毟り取った。
「(ブライアンがなんの情報を聞き出したいのかは分からないけど、これ以上は見たくないな)」
見ているだけで気分が悪くなってきたため一度『天眼』を解除する。
そして目頭を押さえながら深く息を吐く。
「ふぅー……回復出来る魔道具があると拷問も多いのかな……嫌だな……」
地球でも戦争時はよくあり得たであろう光景に辟易しつつも気持ちを切り替える。
まだブライアンの方は続くと考え、次は首長の方を覗きに行くべく再度『天眼』を使う。




