二つのミノムシ、そして押収品室
「……え、何。どういう状況……?」
追い着いたまでは良かったのだが、何故かブライアンが二つのデカいミノムシを担いでいた。
しかも布で顔や服が分からないように覆われている。
経験のあるミノムシの正体は『魔眼』を通して刑法官たちだと分かる。
そんな彼らを担いだまま一つの部屋の前で佇んでいる。
刑法官の様も十分気になるのだが、先ほど視えた知らない霧がその部屋の中へと続いていることに気がつく。
なので視点を少し変え、扉の方を向けば壁に【管理局庁】と書かれた木札が取りつけられている。
「(さっきコランドさんが局庁長って呼ばれてたな。てことはここは押収品の管理部屋か?)」
それを裏づけるかのようにコランドさんと同色の霧が少しだけ薄くはあるが部屋へと続いている。
ブライアンを一瞥だけし、離れる気配がないため『天眼』を中へと進める。
看守部屋のような広さはないものの小学校の教室程の大きさはある。一辺七、八メートルくらいだろうか?
三十人前後がそれぞれ、自分のと思われるデスクで仕事をしている者や話し合いをしている者がいる者、どこかへ駆けて行く者などがいるのだが……
どうも全員の表情が緊迫している。
書類を棚や引き出しから引っ張り出して記載や確認をしているし、上司らしき人物が複数人にそれぞれ指示を出しながら書類処理をしている。
そんな彼らのいる空間を通り抜けている知らない霧を辿れば、【押収品室】と木札に書かれた部屋の中にいるらしい。
「(お邪魔しまーす)」
侵入すると十畳一間の造りの部屋。正面と右の壁に鉄で出来た棚とそれぞれの引き出しにはナンバーが記された紙が貼ってある。
恐らくそれぞれの牢のナンバーだろう。
そして左には六つの金庫がある。成人男性が両手でギリギリ腕を回せるかどうかの大きさの金庫が上下に三ずつ、壁に寄せて鎮座している。
その金庫の前にひと組の男女が立っていた。
どちらも看守服を着ているため刑法官ではない様子。
「(霧は女性の方のか)」
廊下から辿っていた霧の持ち主は険しい表情を浮かべた女性看守だった。
そんな彼女の雰囲気に気圧されてなのか男性の方は怯えながら金庫の錠を解き、重そうに扉を開けえう。
厚さ三センチはありそうな扉の先にはいくつかの品と紙が入っている。
その中にはいくつか私物が置かれているのに気がつくと、不意に男がその中からある物を取り出す。
「(あれはユキナの……)」
彼が手にしたのは、ユキナの幻術を見せる魔道具だった。そして押収されたはずのそれを背後で控えていた女性看守に渡した。
「何に使うつもりだ……?」
彼女はそれをひったくる様にして手にした。そしてもう用はないとばかりにスタスタと押収品室から出て行く。
そんな態度の看守に向けて一緒にいた男性看守が慌てて何かを呼びかけているが、彼女は振り返る所か返事をすることもなく歩みを進める。
その一部始終を部屋の全員が腫れ物を見る、しかし怖がっている様な目で見ている。
「(なんか首長と似た状況だな)」
似た光景から最初に首長を追っていた時にも看守部屋で彼女に向けられていた視線を思い返す。
「(ただ、あの時は腫れ物を見る感じじゃなくて純粋に怖がっていた人ばかりだった気がする)
などと考えていると、二つ目の扉を開けて出て来た女性看守にブライアンが声をかける。
すると先程まで険しい表情を浮かべていたのが嘘のように良い笑顔を浮かべて手にしたペンダントを見せている。




