大人、そして不憫
「(──っと、コランドさん呼んで来ないと)」
ブライアンと話していて危うく忘れる所だった。決して今思い出したとかではなく、タイミングが今だと思っただけで!
「(誰に言い訳しているんだか……)」
自分のおかしな行動に呆れつつ踵を返し、ゲートから顔を出す。
抜けた先でコランドが腕組みをして待っていた。が、その表情は浮かない。
しかし俺の存在に気がついた彼の目には怒りの火を宿したまま、どこかほっとしたような、そんな矛盾が混じり合っている。
「無事でしたか……」
普段の声音よりも低い。
様子を見てすぐに戻って来るつもりだったが、想定より遅くなってしまった。
恐らく五分と経ってはいないが、既に安全と分かっている場所からの帰還にしては時間がかかってしまった。
だから多少は文句を言われる覚悟をしていたために彼から向けられるその優しさが胸に刺さる。
「ああ、うん……誠に申し訳ございません……」
「全く。あと少し遅ければ門を閉じていましたよ? 運が良いですねー」
「はい。ありがとうございます……」
怒っている様な表情を浮かべているが、声も戻っていて特に咎める言葉もない。
それが余計に申し訳なさを駆り立てられた。
目的地であり、安全と分かったコランドさんも今度こそゲートを潜る。
「コランド。話は聞いた。こちらをお前に任せる。ドライアド殿は席を外しているが、いずれ戻るとのことだ」
「承知いたしました」
そして着いて早々に首長から命じられた。
「(俺が話したから話は早いけどさぁ……)」
色々とゲートについて訊いて、意を決して来てくれたコランドさんの扱いがさっきのも含めて不憫でならない。
しかし自分がその原因の一つなので申し訳なさが強まる。
「キリサキは転移の魔道具をコランドに返しておけ」
「もう押収して仔細の性能を聴取してあります」
「そうか。仕事は早いな」
「ええ、仕事ですので」
首長の言葉を受けても彼は特に意に返していない。
そうして伝えることだけ伝えると首長は先にゲートを潜って戻って行った。
そのやり取りの早さに面喰らっているとブライアンが頭に手を置いてくる。
「あの二人は馬が合わんからな。あれがいつもだ」
「大人って大変だな」
「そんなもんや。坊主も働き出したら分かるよぉになる」
それだけ言って彼もゲートを潜った。
「(バイトとはいえ多少は社会を知ってたつもりだったけど全然だったな)」
大人と社会人の凄さに感嘆しつつコランドさんを見る。
首長から言われた仕事を全うするためにドライアドの帰りを待つしかない。
その時間を活かしてゲートリングをじっくり観察し、何か考え込んでいる。
ドライアドがいつ戻るのか分からない以上一緒にいた方が良いよな? ドライアドが事情聴取に協力してくれないかもしれないし。
「私はドライアド殿が戻って来るのを待つので、あなたは戻って早く牢にいてください。罪状が変わる罪人がさらに罪を重ねていることが発覚するのは避けたいんです」
「あ、はい」
と思っていたのに要らないらしい。
ただ、大丈夫と言われたがさすがに心配だから氷の蛇に【協力求む】と文字を入れて置いておくか。




