居ない、そして態度
再び森へと戻って来た訳なのだが……
「何してるんだ?」
てっきりドライアドと話し込んでいると思っていたのに、目の前では辺りに散らばっている紙を集める首長とブライアンの姿があった。
想定外の状態に疑問を溢しながら事情を知っていそうなドライアドがいた方を向く。
しかしそこにドライアドの姿がなかった。それ所か辺りを見回してみてもどこにもいない。
「(強制解除になったしちょうど良いな)」
置いてきた『天眼』はゲートを潜って数秒、恐らく十秒程度で強制解除されたので捜索のために再び『魔眼』に魔力を流す。
理由は不明だが、いなくなったとしても氷のドームがある以上脱出は難しいはず。
ただ突貫工事だから厚さは四十センチとない。
だから逃げようと思えばそこまで苦労せず出られる。
案の定眼に映るドライアドから出ていた霧が森の奥の方へと向かっているので、『千里眼』で追跡する。
「(いた、けど……ドームの壁の前で何をしてるんだ?)」
『千里眼』の有効距離ギリギリの所でドライアドは立っていた。
壁に手をやり、何かしら考えているのか一向に動こうとしない。
「──坊主、どぉした? 何かあったか?」
そんなドライアドの様子を窺っているとブライアンに声をかけられる。能力を維持したまま片目で彼の方を向く。
あらかた拾い終わったらしく手には教科書くらいの厚さの紙束を持っている。
「(どうせ遠いし、あとで訊くか)」
『千里眼』をいつもの状態に戻し、神妙な面持ちに普段の頼りない笑みを浮かべているブライアンの質問に答える。
「緊急招集らしい。俺の罪名が変更されるから首長に来て欲しいとのことだ」
「……何やらかしたんだ?」
「何もしてな──くもない、か……」
脱獄とそれに伴って檻の破壊。弁明が完全に出来ていない医官への暴行、殺人未遂。
そしてブライアンに連れられて二回目の脱獄と看守二名への暴行、食料品の強奪。いや、この二回目の脱獄と看守への暴行は俺じゃないけど。
しかしそんなことを他の看守が判別出来る訳もないので、十中八九俺のせいになっている。
「そんな増やさんでも良いだろ……まあ、分かったわ。首長呼んで来るから待っといてくれ」
「? 俺も行けば良いだろ?」
「良いから、大丈夫や!」
手で制しながら声を張って頑なに拒んでくる。その様に言葉を詰まらせている間に首長の元へと向かって行ったブライアンを訝しんでしまう。
彼の言動はイマイチ理解出来ない物が出てくる。
それこそ俺を脱獄させてまで何をしたかったのか、彼らを信用する代わりに首長と話したいと言ったのにその要求を無視してどこへ行っていたのか。
「(ただ、俺に対して悪意を感じないんだよなぁ……)」
上手く隠されているのならそれまでだが、今まで悪意や敵意を向けてくるやつと対峙することが何度かあったから少しは感じ取れるようになった。
警戒こそされているが、それ以外は特に感じない。
むしろ知り合いとしゃべっている様な軽い態度の方が感じられる。だからこそ余計に、頭を悩まされている。




