方法、そして変更
「転移は行き先を──」
素直にゲートの使い方を説明し始めようとタイミングで廊下が騒がしいことに気がつく。
そして俺が言葉を止めてすぐに扉がノックされる。
「首長! いられますかっ?」
男性にしてはやや高めの聞き憶えのある声が扉の奥からかけられる。
『千里眼』で扉の先の人物を確認すると、ミノムシ連行をされた時にいた出稼ぎの看守が強張った表情で立っていた。
「首長は今離席しています。要件はなんです?」
「あ、コランド管理局庁長! お疲れ様です!」
「発音良くなりましたね。それで、要件は?」
「ああ、すみません! えっと、キリサキの罪名前が変更になるとのことで至急会議をするそうです。ですので、首長を呼んで帰れるよう言われまして……」
「なんと……」
彼から告げられた内容にコランドが訝しんだ目をこちらに向けてきた。
「(そんな顔されても俺は何もしてないって)」
罪名前。恐らく罪名か罪状だろうけど、それを牢屋に居ながら変更するなんてそう簡単に出来る訳がない。
だから俺が何かしたのかと疑われても困る。
しかし刑法官たちもそれは知らなかったのか驚いている。多分。
彼らに関しては『麻痺』のせいで表情が動かし難くなっているせいで判別が難しい。声を出さないためだから仕方がない。
「(それにしても罪状が変わる。脱獄のことだろうか? こっちは甘んじて受けるが、事態が良くなる未来が見えなくなってきたな)」
絶望的な現状を打破するには、ドライアドから手に入れた自白剤を証言者、もしくは首謀者に近い者に使うのが一番手っ取り早い。
ただ、首長たちが言っていたのが本当であれば自白剤を飲ませると正気を保てなくなってしまい、下手をすれば後遺症も出てしまうらしい。
だから間違った相手に飲ませるのは絶対に避けないといけない。
「どうするんだ? 首長たちを迎えに行かないとだろ」
「そうですね。では手早く転移の起動のさせ方を教えていただけますか?」
「……分かった」
「もちろんその後は再び没収ですが」
「……」
ついでとばかりのコランドの言葉に、初めからそうなると分かっていても悔しく感じてしまった。
「(せめて宝物庫だけでも取り返せれば……)」
未だに手元にすら戻せていない宝物庫にも思いを馳せる。
しかし対処のしようがない。
「私の方で首長をお呼びしておくので、アナタは少し遅れる旨を伝えておいてください」
「分かりました。お願いします! 失礼かけました!」
扉の向こうにいる看守は深く頭を下げてから多くの看守がいた部屋の方に走り去って行く。
一所懸命に仕事をしている彼には申し訳ないが、話を逸らす時間がなくなってしまった出来事を運んで来たことに恨めしさを抱いてしまう。




