付与系の能力、そして解除
首長の言葉にどう反応するべきか悩む。
「……分かった。私が悪かった。だから言わなくて良い」
そう思っていたら首長が静止を呼びかける。
何を思って、何を想像して追求を止めてくれたのかは分からないが、彼女の少しだけ気まずそうな、申し訳なさそうな表情は気になる。
しかしそれは尋ねない方が良い気もするので止めておこう。
するとまるで思考を読んだかの様なタイミングで、ブライアンが口を開く。
「付与系はな、固有能力の中でも所持者が少ないんや。エルフとかならともかく、人間で俺が知ってるのも一人くらいか?」
「へー」
てことはリリーって結構すごい能力者だったんだな。
「というか貴様の仲間の、リリースティアも付与系だろ。それにエルフの娘も体外型の能力者だったはずだが」
「そうだな」
「仲間に該当する者おるのに知らんかったんか?」
「いやぁ……皆が当たり前のように受け入れてたから普通なのかなって」
キリもサナもニーナも驚いている風ではなかったし。
周りだって……そういえば俺らって基本自分らでしか討伐に行かないからリリーたちの能力に驚く人もいなかったな。
それに俺はソロで動くことも多かったし、案外俺の知らない所では驚かれたりしていたのだろうか?
「どんな仲間だよ……」
「あー……うん。それより仮に遠隔だったとして、なんで急に能力を消したかだよ」
「そうだなぁ、考えられるとしたらやっぱ距離か? 有効距離から外れたから消えた、とか。それか魔力切れか」
「それはありそうではあるんだけど、うちの付与系持ちは維持自体に魔力はあまり消費しないらしい」
「え、そうなのか?」
「ああ。付与時に大量消費はするらしいけど、一度かければ長い間保つそうだ。ただ、能力によって違うかもしれない」
「そうか。なら候補程度だな」
知らない情報を手に入れられたのはありがたい。そしてそれを共有出来たことで自分では思いつかなった候補が生まれる。
異常事態を解決する糸口は多いに越したことはない。
「あとは術者が能力を切らざるを得ない事態になったとかではないか?」
「緊急事態か」
「ああ」
すると今度は首長が候補を挙げてくれる。
「(……能力で身を守るほどの事態が起こった)」
想定出来る物だと魔獣の襲撃だろうか。
この森は高レベルの魔獣もそれなりいるし、低レベルでも厄介な能力を持つ魔獣や草花も生息している。
巨獣が現れたことだってある。
『千里眼』、『天眼』での索敵は結局の所一キロ以内でしか見れていない。
本来はもう少し見渡せるはずの『天眼』も、森の中では木々が邪魔なため近場の動向を窺うことしか出来ていない。
「(まあ、距離の操作と複数発動で範囲内にいたコカトリスにも気がつけた訳だが)」
それはそれとして他の候補は……敵襲とかか?
いやでもそれらしい霧は見当たらなかった。魔獣もそうだが、人でも霧は見える。
しかし眼で見れる範囲内の霧は少しだけ薄くなっている。霧は時間経過と共に薄くなる。
ということは上書きする存在がしばらくの間いなかったってことだよな。
「ただ周りにそれらしい痕跡はなさそうなんだよな」
「……どこまで見ているのか聞かないでおくとして、案外坊主のあの氷のせいだったりしてな」
ブライアンはそう言って、茶化すように笑う。
首長もまた彼の言葉に賛同するかのように小さく笑う。
「そんな訳ないだろ」
全く失礼な奴らだな……
ただ、術者の有効距離が眼の範囲外以上だったとして、氷を危機と感じて能力を解除した。もしくは氷が地面に入った際に起きた地震に警戒しての解除だったかもしれない。
しかし『天眼』で見えなかったので可能性は低いだろう。だからそんなことはないと判断出来る。




