付与系、そして有効距離
「悪い、取り乱した。実はドライアドの状態をもう一回見てみようと思って見たんだ。そうしたら呪いが消えてて……」
「……理由は、分かっていない様子だな」
「申し訳ない」
さすがにあれだけ取り乱した状態から何もなかったは通用しないだろうと考え、素直に経緯を伝える。
「(それにしても本当になんで消えたんだ?)」
恐らくはリリーと同じタイプの能力。だとしたら術者と接触したタイミングは、白という人物が謀反を起こした時だろう。
それ以降だとどこかのタイミングで誤爆しかねないしな。
ただ“呪い”という文字だけだと遠隔でもかけられそうなので、仮定を否定したくないが俺らと出会ったタイミングでもかけられている可能性だってある。
「なあ、遠隔で対象者に能力をかけることって出来るのか?」
「……」
「付与系なら可能ではある。ただなぁ、離れ過ぎていたり、視認が不可能だったりすると出来んはずや。あとはある程度の効果有効範囲もあるから、こっちも対象と離れとったら効果が消えるらしい」
首長によって促されたブライアンが回答する。
しかしその内容は仮定を肯定も否定もする物だった。
「(タイミング的には謀反の辺りで恐らく正解か。それと下手な遠隔による物でもなさそうだから術者が居たのもその場だろう。ただ、距離制限があるのなら術者が近くに居るはずだよな?)」
改めて『千里眼』で周囲を探る。
森内だと探し難いが、能力の最大値である一キロまででくまなく探す。
「付与系の能力が及ぶ最大距離は分かるか?」
索敵をしながら続けて質問する。
一キロ以内であれば助かると思いつつ返事を待つ。
「あー……確か最長で十町と聞いた憶えがある」
「……なるほど」
聞いといて大変申し訳ないが、一町ってどのくらいだ、なんて訊いても分かる回答が返ってくるかも怪しい。
仕方がないので分かったフリにしておいて、大まかな予測で代用するしかない。
ブライアンの口ぶりからして離れ過ぎず、しかし観測が可能なくらいの距離。
同じ系統のリリーが戦闘時に付与出来ていた距離は大体七から八百メートル程。
それと「十」という数字から十倍なんだろうけど、この世界“寸”とか“里”が普通に使われているから闇雲に十倍をしても七百や八百にはならないだろう。
もしかしたら寸や里と違って三点何ではない単位なのかもしれないが。
「(リリーを基準に考えた方が早いし、そこに少し加えた千メートル程としよう。だから千里眼の有効範囲と同じだ。それにそれ以上だったとしてもどの道見つけられないし)」
推測と仮定を立てつつ、『千里眼』を『天眼』状態に変えて上から不審な霧がないかを探す。
「(……ま、いないよな)」
しかし残念ながら見つからない。が、それは分かっていた。
精霊王が来る前にすでに一度、一帯を確認していたのだから居るならその時点で分かる。
それでも念のため確認しておきたかった。
一体だけ眠そうにしているトカゲの魔獣がいたくらいで怪しい人物はいなかった。
「まあ、あんまり当てにせん方が良い。少ない付与系持ち内でも有効距離はピンキリらしいしな」
「なるほど……ん? 少ない? 何が?」
「……付与系持ちがだ。まさかそれも知らんのか?」
「……」
追加で何気なく話ていた彼の言葉の中に引っかかりを覚え、思わず尋ねてしまった。
それによってブライアンと首長から最大限の呆れを感じさせる目を向けられる。
返答に詰まり、目を逸らしてしまうがそれが肯定と捉えられたらしい。
「坊主……」
「キリサキ。貴様はどう生きてきたんだ……」
溜め息と共に嘆かれる。




