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剣の稽古

  

「アズマくん。これ……」


 朝、一階で朝食を食べているとカナさんが俺に手紙を差し出してくる。

 ま、まさかこれはラブレターという物か⁉︎


「えっと、こ、これは?」


 うやうやしく手紙を受け取る。

 初めて真正面から貰っ──


「オニテツのガールさんからの手紙」


 違いましたすいません。


「なんだ、ラブレターじゃないのか……」

「ん? 何か言った?」

「い、いや別に! あ、ありがとうございます!」


 小声で言ったのが聞こえたのかと思って慌ててなかった事にする。

 それにしても手紙ってなんでだろう? 俺何かしたっけ?

 昨日の事を思い返しながら、手紙の封を外す。


「小僧へ

 昨日片手剣を買ってもらったが、様子からして満足に使えるとは思えなかった。だからこの手紙を読んだらすぐに剣を持って俺の所へ来い。

 簡単な稽古(けいこ)くらいなら付けてやれるから。

              武器屋オニテツ ガール」


 なるほど、剣の稽古をして貰えるのは凄くありがたい。丁度朝食も食べ終わった事だし行ってみるか。

 でも小僧へって……名前教えたのに。

 少し不満に感じながらもカナさんに事情を説明して、おっさんの店へと向かう。

 ただ説明の時にカナさんが「大丈夫かなぁ」と心配そうにしていたのが少し気になる。

 まだ持ち慣れない剣を持って走るのは難しいので歩いて、しかし出来るだけ早歩きでオニテツに向かう。

 カランカラン

 オニテツの扉を開けると扉に付いた鐘が鳴る。


「あのぉー? 桐崎ですけど……」


 誰もいない店の中に声をかけると少ししてガールさんが店の奥から出て来る。


「…………おお、来たか」


 そんな彼の身体中が何故か(ほこり)まみれだ。


「着いて来い」


 それだけ言うとおっさんは再び店の奥へと消えて行った。

 何がなんだか分からないが、言われた通りに着いて行こう。


「(うわっ! 暗⁉︎)」


 店の奥は薄暗く、十メートルくらい行った所から光が差し込んでいる。

 そんなに道がある訳でもないのに、どうしてここだけこんなに薄暗いんだ?


「おっさん、電気もつけないでよく進めるな」


 自分の店の中だからか何も気にする事なく進んで行ったおっさんに感心しながら向こう側の光を目指す。

 完全に見えない訳ではないので、道中に何があるかは分かる。と言っても何もないが。

 通路を抜けるとそこには三畳半程の庭があった。

 周囲には二メートルくらいの木の板の(さく)が立っている。


「えっと、ここで何を?」

「手紙にも書いただろ。稽古してやる」


 だよな。でも辺りには剣の練習台になるような物はない。

 もしかしておっさんが相手なのだろうか?


「じゃあまず鞘から剣を抜いて、素振りをする」

「え、素振り⁉ 打ち合いとかではなく?」

「確かに普通ならそっちだ。だけどまずは素振りだ。どんな達人だって素振りは大事にする」

「な、なるほど」


 剣士について詳しくないけどそれっぽい。

 でも素振り、か……


「ただこんなの重すぎてまともに振れそうにないのですが」

「……それが出来ないと、クエストなんて受けたら確実に死ぬぞ」

「うっ……わ、分かり、ました」


 おっさんの言葉は正しく、素振りが出来なければ冒険者なんてやっていけない。

 そう納得して、鞘から剣を抜く。

 相変わらず重たい。少しでも力を抜いたら剣に引っ張られて倒れてしまいそうになる。

 しかしただ剣を持って突っ立っている状態を続ける訳にはいかないので、震える腕にさらに力を込めて剣を自分の頭の上に持ち上げる。


「くっ! うぅぅーぉおりゃ!」


 剣を頭の上から下へ振り下ろす。

 それだけで身体が剣の重さと一緒に吹っ飛びそうになるのを脚と腰の力でなんとか耐える。

 一回素振りしただけでこんなにも疲れるとは……こんなに体力なかったっけ?


「んー……小僧はまず基礎(きそ)作りからだな」


 一回の素振りで息が荒くなっている様子に呆れたおっさんが困り顔で告げる。


「き、基礎?」

「ああ。そうだなぁ……とりあえず腕立てと腹筋をそれぞれ百回と、それが終わる度に素振り五十、いや十回くらいを夜までやればなんとかなるだろ」

「ひゃ、百を夜までずっと⁉︎」


 聞いただけで目眩(めまい)が起こりそうになる。

 スポーツ選手並みのトレーニングだろ。


「素振りは最初のうちは両手でやらないと腕が持たないからな」


 そんな事を言ってくれるが、その前のメニューだけで腕は持たないと思う。

 えっと、今がだいたい十二、三時くらいだから推定でも……七時間以上⁉︎

 いやいや流石にその間ずっとだなんてそれは無理でしょ!


「やった分だけ生き残れるからな」


 しかし俺が嫌がっているのを察したのかそれだけ言い残して、おっさんは右手で「頑張れよぉ」と言うような手振りをして去って行った。


「やった分だけか……ま、出来る限りの事はやってみよう!」


 おっさんの言葉で覚悟を決めて、俺は腕立て伏せを始める。

 ていうか、この世界にも腕立てとかあるんだ。


 ______________


「はぁっ、はぁぁっ、九十八はぁぁっ、きゅう、じゅう……九! はぁぁっ、はぁっ、百っ!」


 ドッ

 俺は腕立て伏せを終えた所でその場にうつ伏せで倒れた。

 もう何セットくらいしただろうか。空はもうそろそろで夜になる。

 あれ以来一度もガールさんは来なかった。

 朝食は食べたが、稽古が始まってからは何も食べずに言われたメニューをひたすら続けていた。

 と言っても、吐きそうで既に食欲がない。


「ほう、ここまでやれるとは驚いた」


 俺が倒れているとガールさんが店の方から出て来る。

 何が驚いた、だ! こっちは死にかけなんだぞ!


「んじゃあ、もう帰って良いぞ。明日も今日くらいに来いよ」


 それだけ言うとおっさんは再び店の方へと歩き出す。


「え…………」


 あのおっさん、ただの鬼畜野郎じゃないか!

 くそ! 腹減った! けど食欲はない!

 お風呂入りたい! てかヘトヘトでもう動きたくない!

 仕方ない、今日はここで寝よう。放置したのだ、文句はあるまい。

 目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて、俺は逆らう事が出来ず深い眠りにつく。


 ______________


「……い……僧……きろ! おい小僧、起きろ!」

「……ん? 何だ?」


 声が聴こえてきたため、目を覚ます。

 するとこちらを呆れ顔で見下ろしているおっさんが視界に入る。


「全く、疲れたからと言って人のうちの庭で寝るな」

「あ! すいません!」


 自分の状況を思い出し、慌てて身体を起こす。


「さて、それじゃあ昨日の体力作りの成果として素振りを見せてもらおう」

「いや、あの、その……体力作りの時に何度かやったんですけど全然振る事が出来なくて」

「じゃあ、ステータスを見てみろ」

「え……あ、はい」


 おっさんが何をさせたいのかが分からないまま、俺は言われた通りにステータスに意識を集中させる。

 すると眼の前に半透明なプレートが宙に浮いて現れる。


 ___________

 ステータス

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 名前:桐崎 東

 ステータス番号:57764

 性別:男

 Lv.6

 攻撃:540

 防御:950

 体力:1780/2430

 魔力:1910/1970


「固有能力」

 魔眼Lv.3

 能力:対象の情報をレベルに応じて把握する


 千里眼Lv.1

 能力:眼で遠くの景色を見れる

 Lv.1:100メートルまで調整可能


 言語解析

 能力:あらゆる言葉が日本語に変換された状態で知れる


 言語伝達

 能力:自身の言葉を相手に伝える


 ______________


 あれ? いつの間にかレベルが上がっているけど何故だ? 

 それになんか、プレートの色が変わった気がする……


「多分レベルが上がっていただろ」

「は、はい……でもなんでですか?」

「やっぱりか。それはお前さんが昨日頑張った証さ」

「えっ⁉︎ これだけで⁉︎」


 腕立てとか腹筋とかでもレベルって上がるんだ。


「あくまで筋肉鍛錬なんかでレベルが上がるのは本当に最初くらいだし、微々たる上昇しか出来ないがな」

「なるほど……」


 確かに結構辛かったけど、五レベルも上がるんだな。

 それにしてもこれは微々たるなのだろうか?


「さ、素振りをやってみな」

「あ、はい!」


 鞘にも戻さず地面に置いたままの剣を拾う。


「あれ? なんか昨日よりは重く感じない。まだ楽かも」


 拾い上げた剣から昨日まで感じていた手にずっしりとくる重さがない。

 持ったまま少しだけ上下に振ってみるが、やはり腕への負担が少ない。


「一体いつから……」

「多分昨日の夕方にはそんな感じだったと思うぞ」

「はい?」


 俺の疑問におっさんが答えてくれる。

 しかしその内容が理解出来なかったため思わず聞き返してしまう。


「いやいや、昨日は今日の倍くらい重かったですよ!」

「それは今まで身体を鍛えていなかったからだろ。昨日の腕立てや腹筋は基礎鍛錬で、腕と腰を鍛えたから少なからずそれのお陰だ」

「ほぉ」

「昨日は疲労が溜まって剣が重く感じただろうが、今がそんな感じなら昨日のうちに身体が重さに慣れたんだろう」

「へぇー」

「と言うか、慣らすために基礎をさせたんだけどな」


 このおっさん、超凄い!


「それでも剣を持つのはかなり苦労するはずなんだがなぁ」

「そうなの?」

「ああ...ほれ、立ち止まってないで素振り」

「あ、ああ。くぅぅぅ...やっ‼︎」


 おお!持ち上げる時にちょっとフラついたけど下ろした時の踏ん張りは昨日より(はる)かに楽だ。

 もう一度...


「ああダメだ!ダメ!」


 しようと思った所でおっさんに止められた。


「どこが?」

「少しとはいえ剣の重さに慣れたんだから、次からは剣を振る際は、肘から先を忘れるんだ。肘そのものを振るつもりでやるんだ。肘を振ろうとすると肩が動いてしまう。そうすると上腕二頭筋と上腕三頭筋に力こぶとその反対側の筋肉を使って悪癖(あくへき)を抑える事が出来るからな」

「難しいな...」

「それにより剣を肩で操作する事が出来るようになる。それに肩を使うようになると背筋が動くようになり、最終的には腹で剣を振る感覚が掴めるようになる。その頃には腕に力を入れている感覚が全くしなくなっているから実際に稽古を数回行なっても、身体への負担がかなり減るんだ」

「なるほど」

「だから剣をこうやって振るんだ」


 そう言いながらおっさんは右手で剣を持っているような形にしてお手本を見せてくれた。

 何も持っていないがあるように見える。そんな綺麗な動きだ。


「くぅぅぅ...はぁっ‼︎」

「おお。呑み込みが早くて助かる」

「くぅぅぅぅ...やっ‼︎」


 くうぅぅ、気持ちぃ!

 もう一度...


「くぅぅぅぅ...やっ‼︎」

「その調子で昼まで頑張れ」


 言われなくてもやるさ。こんなに気持ち良いのだから。


「くぅぅぅ...やっ‼︎くぅぅぅ...はぁっ‼︎...」


 俺はひたすら剣を頭の上へ上げて勢いよく降り下ろすを繰り返していった。

 もちろん言われた通りに、だ。

 肩への負担などはよく分からないが速く振れているような気がする。


「おい小僧。飯持って来たぞ」

「おお!ありがとうございます」


 ギュルルルルル…

 飯と言う言葉を聞いて腹から大きな音が鳴った。そういえば昨日から何も食べてなかったな。


「じゃあここに置いておくから食い終わったら適当な所に置いといてくれ。俺は仕事があるんでな」

「えっと、(かた)とかは?」

「今はとりあえず上下に振れればそれで良いから。別に急ぐ訳じゃないんだろ?」

「まあ...」

「ならそれで良い。じゃあな」


 それだけ言っておっさんはまた店の方へと消えて行った。

 おっさんが置いて行ったご飯は、おにぎり4つだった。しかし一つの大きさがソフトボールくらいはある。


「(おっさんは俺がどれくらい食べると思っているのやら...いただきます)」


 そう思いながらも合唱をしてからおにぎりを一つ取り口の中へと運ぶ。

 うめぇっっっ!

 久しぶりの食事はずっと味わっていたいと思うくらい美味しかった。

 ....ふぅ。


「食べた、食べた。ごちそうさま」


  お腹が満たされたので少し眠いが、稽古を続けるために立ち上がった。

 結局おにぎりは二つが限界だった。

 俺は地面に置いたままの片手剣を拾い上げる。


「だいぶ楽にはなったけど手の(ひら)はマメだらけだなぁ...それにスタミナもかなりなくなっているような気がするな」


 そう思いながら剣を構える。

 まだちゃんとした立ち方を教えてもらっていないので一先ずは学校で習った剣道の構え方で構える。


「いや待って。これって片手剣だよな?じゃあ片手で持った方が良いのかな?」


 そう思い俺は剣を両手から片手へと持ち替えた。


「(うおっ!流石に両手の時より重いな。これでは流石に振るどころか、まともに上へは持ち上がりそうにないな)」


 結局また両手で剣を支えて素振りを始めた。

 剣を振る速さは食事を摂る前よりも速くなっている、気がする!


 ______________


「うぅ...はあっ!」

「おーい。今日はもう帰って良いぞ」


 俺が素振りをしている途中でおっさんがひょっこり顔を出した。

 確かに辺りは薄暗くなっているのでもうすぐ夜なのだろう。


「でも、まだやりたいんだけど?」

「身体を休めないと上達はせんぞ」

「そうか...分かった」

「明日も飯食ったら来い」

「ああ!」


 俺は元気の良い声で返事をした。

 これまではこんな大声は出さなかったのにな...


「あ、あと飯は持って来い」

「ああ、分かった...おにぎり、美味かった。ありがとう」


 苦笑いをしながらおっさんが店の方へと向かうのを見送った。


「明日が楽しみだ!」


 そう言いながらおっさんの後に続き、店を出る。

 そして甘味を目指して歩く。

 カナさんに昨日帰らなかった理由を説明したら「やっぱり」と言われた。


 ______________


 そしておっさんから稽古を受け始めてから5日が過ぎた。

 毎日、毎日朝からガールさんの所へ行き汗だくで夜くらいに帰る。

 甘味に帰ったらすぐにお風呂、少量のお湯を桶に汲んで、布で身体を拭くのはお風呂と呼んで良いのだろうか?に入り、腹が減るので2回以上のおかわりしてから寝る、の繰り返しだった。

 おっさんは時々しか顔を出さない。確定で来るのは暗くなってからだ。

 しかし顔を出した際に振り方や楽な振り方などを教えてもらい、上下だけでなく左右にも斜めにも連続して振る事が出来るようになった。

 そして今俺は朝ご飯を食べ終わり、机に寄りかけておいた剣を持ってカナさんに「ごちそうさま」と告げ、走っておっさんの店へ向かう。


「(今日も一日頑張るぞ!)」


 心の中で決意を固め、おっさんの店の扉に手をかける。

 カランカラン

 扉を開けると扉に付いている鐘が鳴った。


「おっさん!今日もよろしく!」


 シーーン

 返事がない。

 いつもならおっさんが店のレジにいて、よぉっと言ってくれていたのだが今日に限ってはそれがない。


「おぉーい、こっちだ小僧!」


 店の奥の、つまり俺が今まで出入りしていたあの店裏へと続く道だ。

 その奥からおっさんの呼ぶ声が聞こえた。

 俺はとりあえず店の奥へと向かう。

 薄暗い道を向けて庭に着くと、おっさんが刃が両側に付いている(おの)(みが)いている。


「えっと...何してるんだ?」

「おお小僧。今から一緒に狩りに行くぞ」

「...はい?」


 何を言っているんだ?このおっさんは。カリって、獣とかモンスターとかを討伐するあれ?

 つまり...


「つまりギルドでクエストを受けるって事?」

「ああ。ちなみに推定(すいてい)レベルは7くらいを受けるつもりだが、おまえさんはとっくにいってたよな?」

「まあ、昨日見たら10まで上がってた」

「なら大丈夫だな」

「大丈夫だなって、第一何を受けるんだ?」

「ゴブリンだ」


 ゴブリンか...

 確か昔あるゲームで戦った気がする。


「ゴブリンって何の素材なんだ?」

「いや、ただ久しぶりにあれの肉が食いたくなったから狩りに行くだけ」

「⁉︎食うの⁉︎ゴブリンを⁉︎」

「ああ。魔獣の肉は美味いからな」


 マジか!

 このおっさん怖っ!

 でも...え、気になる。


 ______________


「それで、どうやってゴブリンを見つけるのさ?」

「簡単だ。ゴブリンはカルトスの実が好物だからな。その匂いに寄って来たのを倒すだけだ」


 そう言いおっさんは、腰に下げていた少し大きめの革袋からカルトスと呼ばれた実を取り出した。

 カルトスがまんまリンゴにしか見えない。

 リンゴってあんまり匂いしなかったような?

 そんな事を思いながら適当に森の中をウロウロしいる。

 森とはこの前俺が目を覚ました所だ。

 あの後ギルドでクエストを受け、森の方へとやって来た訳だが...


「(魔獣がいる森の中で転生させないでくれよ神様。間違えて遭遇(そうぐう)でもしてたら死んでたかもしれないし)」


 心の中で神様に文句を言う。

 ガサガサッ

 どこかの草が揺れる音が聞こえてきた。


「来たぞ小僧。剣を抜いておけよ?」

「言われなくても、もう抜いてるよ」


 俺とおっさんは草が揺れている方を向きながら剣を構える。

 ガサッ!


「「ガァァ!」」


 草の向こうからゴブリンが2匹飛び出して来た。

 ゴブリンは身長80センチくらいの全身緑色で腰にボロい布を巻いており、手には長さ30センチくらいの小さな槍と横30センチ縦45センチくらいの五角形と言うか、病院の地図記号マークに似た形の盾を持っていた。


「ガァァァ!」


 一匹のゴブリンが走って俺らめがけて突進して来た。


「ガァァァ‼︎」

「わっ⁉︎」


 ゴブリンが手に持っていた槍で俺のへそくらいを突いて来たので、それを横に退いて避ける。

 ゴブリンの速さは人が駆け足するくらいの速さであり、尚且(なおか)つ2メートルくらいは離れていたから避けるのは造作(ぞうさ)もない事だったが、急に攻撃されたので驚いてしまった。


「小僧!俺は片方を倒すからおまえさんはもう片方を倒せ!」

「あいよ!」


 俺はおっさんがそう言ってくれたので片方のゴブリンにだけ集中する。

 さっき接近されたためゴブリンとの距離は1メートルもないくらい。


「....ガァァァ!」

「っと!..この!」

「ガァァッ⁉︎....ガッ⁉︎」


 先程のように突っ込んで来たので今度は余裕を持って避け、さらにゴブリンの足を引っかける。

 走って接近してきていたため、その勢いのせいでゴブリンは2メートルくらい行った所まで吹っ飛んで行った。

 ガゴンッ!

 ゴブリンは飛んで行った先の木に頭をぶつけた。

 ゴブリンはそのまま木を頭で滑りながら地面に落ちる。


「うわっ!痛そう...」


 俺がやっておいてなんだが、ごめん。

 まるで昔のコントアニメのような感じだった。

 ゴブリンは倒れたまま立ち上がらない。どうやら気絶したようだ。


「お?終わったか」

「まあ終わりはしたけど...」

「どうした?」

「やりきった感が全然なくて」

「はっはっはっ!運も実力だ、気にすんな!」

「これが俺の初クエストであり初討伐なんて...ハァ...」


 俺はそんな事を言いながらも剣でゴブリンの首を胴体(どうたい)から引き離した。


「怪我もなく終えられたんだ。魔獣を前にすると動けなくなるって奴も多い。むしろ冒険者に成り立ては大体そんなもんだ。だからそんな気に病む事はねえよ」

「...ああ、そうだな。えっと、ゴブリンの討伐証部位ってどこだっけ?」

「手だ」

「手か...なんかグロいなっと!」


 切り取った手を持ち上げる。


「こんなの欲しいか?」

「正確には爪だがな。まあ何でゴブリンの手の爪が討伐証部位かは知らんが、とりあえずそれで討伐した事になるならそれで良いだろ?」

「そうだけど...んで、気になってたんだが...こんなのが本当に食えるのか?」

「見た目よりも美味いんだぜ?魔獣って」


 そう言いながらおっさんはそこら辺で木の(えだ)を拾っていた。多分薪(たきぎ)に使うのだろう。

 俺も薪を拾い集めてその周りに石を並べて簡易的な焜炉(こんろ)、いや焚き火が出来た。

 直径は40センチくらいかな?

 おっさんは石と石を打ち鳴らして薪に火をつける。

 次におっさんは懐(ふ所)から小型な...サバイバルナイフを取り出した。

 それを使ってゴブリンの腹を...グロいので省略。

 ううぅ...気持ち悪い。

 おっさんは次に切り分けた肉を木の枝に突き刺して焚き火の石、やや内側の外側に傾けながら並べていく。

 ....

 肉には徐々に焼き色がついていく。

 すごい良い匂いだ...


「ほれ、焼けたぞ。食え」

「どうも...」


 おっさんに良い焼け色のついた肉を渡された。

 肉は一口サイズに切ってあるから食べやすいんだろうけど、あのゴブリンの肉だし抵抗はある。


「どうした、食わねえのか?」

「いや......その......匂いは良いんだけど、あのゴブリンの肉だからさ。抵抗が......」

「はあーっ?お前今まで肉食ってこなかったのか?」

「いや、そんな事はないけど。カナさんの料理も結構肉出るし」

「なんだ食ってんじゃねえか。多分それのうちのどれかはこいつの肉も入ってたはずだぞ」

「......は?」


 意味の分からない事を言われ、思わず訊き返してしまう。

 しかし聞きたくないのも事実であり、今一度現実であって欲しくはない事を言って欲しくない。


「だから、肉を食った事があるならゴブリンだろうとオークだろうと食えるだろ。同じ美味い肉じゃねえか」

「......っ」


 おっさんにそう言われ、自分が今まで食べていた肉の元がなんだったのか想像してしまう。

 その結果、吐き気が込み上げてきた。


「お、おい!大丈夫か⁈」


 少し離れた茂みに隠れて、嘔吐する。

 出来る事ならこの嘔吐で、今まで食べた肉が出てくれると吐く甲斐もある。


「はぁ......はぁ......嘘であって、くれ......」

「んー......前々から変わった奴だと思ってたが、ここまでとは。まさか自分が食ってた肉がなんの肉か知らないとはな」

「はぁ......普通、なのか?魔獣の肉を日常的に食べるっていうのは」

「そりゃあ、食えるんだし。魔獣狩って死体を残しておくと他の魔獣の餌になって危険が増える。なら、食糧として使った方が効率的だ。まあ、全部が全部って訳じゃないが。それに何より、ほとんどの魔獣は美味い!」


 軽く、いやだいぶ重めのカルチャーショックをもらう。

 俺の初戦闘でまさかの打撃。

 ......魔獣を食う。考え方的には昆虫食の延長線なのだろうか?

 見た目こそあれだが、どちらも美味しく食べられるし栄養もある。

 そう考えるとまだ大丈夫って気がしてくるな。別に昆虫くらいなら食べられるし。

 視線をゴブリンの串焼きへと移す。

 肉の脂が流れ出て、テカリ輝く肉。その一つ一つが宝石の様に美しい。

 とてもあの醜いゴブリンの肉とは思えない。

 吸い込まれるように肉の元へと向かう。

 初の戦闘による疲労...あ、違う。これカルチャーショックからきた疲労だ。それでもそこからくる空腹感にこの匂いは反則だと、その色艶はセコいと思える。

 今し方吐いたばかりとは思えない速さで食欲が回復している。

 なぜかって?美味そうだからだよ。


「...ええいっ!(まま)よ!いただきます!はぬっ!」


 俺は覚悟を決めて肉にかぶりつく。


「‼︎⁉︎」


 う、美味い!だと...

 口の中に広がる肉汁がすごく肉の柔らかさは鶏のももくらいかな?

 ゴブリンの肉の以外な柔らかさと美味さに感動する。

 肉を飲み込みもう一口とかぶりつく。


「な?美味いだろ?」

「ああ!これは美味い!」

「ちなみにゴブリンは最低ランクの中の魔獣だからこの美味さだが、上のランクのやつはもっと美味いぜ?」

「⁉︎マジっ‼︎⁉︎」


 この肉より美味いのか!た、食べたい!

 ゴクリと(つば)を飲み込む。


 ______________


「...おっさんの方を見るといつの間にかにゴブリンが倒されてたんだ」


 俺とおっさんはゴブリンの肉をものの数分で完食してギルドへゴブリンの討伐証部位を見せて討伐料小銀貨を2枚もらい、半分ずつの分け前を受け取りギルドを出た。

 おっさんとは武器屋の前で別れ、今はカナさんに今日の事を話していた。


「まあ、当然だと思うよ」

「何で?」

「だってガールさんって一応青ランクだし」

「ランク?って何?」

「あれ?ギルドで説明されてないの?」

「あー...多分」

「ランクっていうのは討伐していって、ある程度のレベルまで上がると色が変わるの」

「?でもどうやってそのランクを知る事が出来るの?」

「ステータス画面の色が自分のランクの色になっているはずだよ?確かギルドに入ったばかりだと黒色だったはずだけど?」

「ほぉ...」


  そう言えば前にステータス画面を開いた時に黒色だった気がする。

  あれってそう言う事だったんだ。


「それで話を戻すけど、ガールさんは武器の素材を集めるためによくクエストを受けてるから強いのよ」

「ああー。だからあんなにも早くゴブリンを倒したのか」

「まあ、ゴブリンは弱いから倒すのにそんなに時間はかからないわね」


 ちなみにランクは全部で9種類あるらしく、最初は全員黒色からで、次に茶色、黄色、緑色、青色、赤色、銀色、金色そして最高ランクがゴールドらしい。

 あんまりゴールドも金色も変わらない気がするけど...

 まあそれで、ゴールドにはここ数十年は誰もなった事がないらしく、金色は世界に1人しかいないらしい。

 銀色もそんなにいないそうだ。

 つまり武器屋のおっさんはかなりの腕前だと言う事か。すごっ‼︎

 こんな感じで俺の初クエストで初討伐の幕が閉じた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しくは有るよ新しくは。 [気になる点] なんでゴブリン食べれる設定にしてしまったのだろう…新しくは有るがゴブリンと言う個体を映像等で見た事ある人には受け入れないと思うのだが [一言] 正…
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