ショタジジイ、そして板挟み
「(それにしても四百年以上も前の言語か……)」
声も見た目も今の俺とさほど変わらない精霊王。しかしその言語を知っているということは、実年齢は四百歳以上。
そんな相手を心の中でとはいえ、偉そうにしている子供の様と思ってしまったことは謝るべきだよな。ごめんなさい。
「そう。お前は分かるの?」
『はい』
「ならお前が伝えて」
『は、はい! 謹んでお受け、致しますっ……!!』
そんな実年齢詐欺の精霊王がドライアドにお願いする。
恭しく受け、顔を上げたドライアドの表情は強張っている。
「キリサキ様。どうかお納めください。こちらのお方は水の精霊王様でございます!」
「……精霊王? そんなやつがなんでいきなり仕かけて来たんだ?」
それらしい返しをしつつ理由を尋ねる。
ドライアドが謎の存在の正体を説明したことで、俺を除いた者たちが驚いている。
そんなタイミングでブライアンが帰還して来た。
しかし全員が見つめる精霊王を不審に思って警戒しているのか木々の間から出て来ないで様子を窺っている。
「……人違いをしただけ。そんなことよりまだつき合え、童」
精霊王の言葉をドライアドが通訳する。
二度手間ではあるが利点として考える時間を少しもらえる。
しかし本当に微々たる間であり、ドライアドが口を開いた途端に水球が宙に発生された。
ブライアン以外の全員が再び緊張に包まれる。
「今は忙しい。悪いけどまた今度で」
そんな精霊王からの要求を断る。
その返答を伝えるべきか迷っているのか、ドライアドが困り顔で何かを訴える視線を向けている。
が、いくらドライアドが拒もうとやり合うつもりはない。
例え水の精霊王が水球から飛んで来た水の刃が俺の右肩と左脇腹を通過して行ってもやり合うつもりはない。
「ドライアド。悪いけど早く伝えてくれ。それで今はシロっていう人が何をしたのかを教えてくれ」
「木。童が動かない」
刃が通過した箇所から血が大量に流れる。致命傷に至っていないので『水流操作』で血の流れを強制する。
そんな俺の様子から戦意がないと判断してくれた水の精霊王が、不満の滲んだ声をドライアドにぶつける。
要求の板挟みとなったドライアドは俺と精霊王を交互に見て、涙を浮かべている。
「あー、坊主。状況が分からんが、一つ聞かせてくれ。上の氷は坊主がやったってことで良えんか?」
すると最悪の空気感の中で突然ブライアンが声をかけてくる。
それにより全員の視線が彼へと向く。
「氷……あ、そうだった!」
ブライアンの指摘を受け、目的を思い出す。
ドライアドにかかっていた呪いと催眠。それの対処をしている途中で変なのが現れたせいで頭から抜けていた。
とりあえず移動エリアは制限した。あとはドライアドの動きを封じ、れ……ば……
「(──待っ……て。『魔眼』に映ったんだ。てことはあの精霊王もっ……)」
次の行動に移ろうとした所で気にも留めていなかったことに思い至る。
過ぎた事象に全身から血の気が引くのを感じる。




