上位互換、そして主導権
顔にまとわりついていた水を退ける。
「ごはっ……かぁっ、はっ……」
呼吸が出来るようになり、気管に入りかけていた水を吐き出して息を整える。
鼻と喉を通過した水のせいで気道に刺すような痛みが暴れている。陸で溺れるとは思わなかった。
ただ、水の味は無味だった。
どうやったのか分からないが海水ではなく、ただの水を出現させてまとわせたらしい。
『驚いた。ボクの支配下から主導権奪ったんだ』
「はぁ、はぁ……っ、なんなんだいきなりっ?!」
驚いている、らしい水の精霊王から視線と『天眼』の両方を離さずに一番近い首長の元へ走る。身体の痛みは無視する。
触った結果からして、まとわりついている水は恐らく直接触れながら能力を発動させないと主導権を奪えない。
そういう能力なのか。それとも『水流操作』、と言うよりも同系統の能力は“より優っている方”が勝つ。と、考えて良いのだろうか?
今回の場合だと水の精霊王の能力>『水流操作』だろう。
ただ、それを魔力の補充で無理矢理塗り替えた。
「(水流操作は最近手に入れた能力だけど、考えてみれば同系統の能力者は初めてじゃないか?)」
そんなことを振り返っている間に首長の元に辿り着く。
息苦しさからか四つん這いで苦しんでいる。
急いで彼女の顔にまとわりつく水に触れ、大量の魔力を流した『水流操作』を使用する。普段の十倍以上の魔力を流すことで操作が可能となる。
「──がはっ!……ごほっ、ぐっう……」
解放された首長も入ってしまった水を吐き出している。
彼女の無事と水を退けれたことに安堵する。本来であればこのまま次へ行きたいが、彼女への追撃が心配だ。
氷の蛇でも置ければ多少の防衛になるのだけど、『水流操作』から主導権を奪われる可能性が高い。
そうなれば逆にピンチになる。
「(こうなるとブライアンに魔獣を任せたのが裏目に出たな)」
彼が居れば恐らく対処を任せられたと後悔する。
しかし後の祭りのため、とりあえず他三人の様子を窺う。
全員苦しそうではあるがあと少しは耐えれそうだ。強いて言えばコランドが刑法官たちと比べて苦しそうにしているが、今はまだ耐えて欲しい。
「(精霊がどういう存在なのか知らないが、魔眼に表示されたのなら魔獣、もしくはそれに近い存在と考えて良いだろう。ならこの水も固有能力な訳で、神様みたいなデタラメはない、はず。あったらどうしようもない……)」
固有能力と仮定して判明している物は、
・無から水を生み出す(複数展開可能)。
・『水流操作』より約十倍の能力(遠距離操作不明)。
・予備動作なし。
・対応可能距離は約七十メートルと仮定。
・見えている範囲内と仮定。
・発動条件不明。
といった感じだろう。
距離はあくまで一番離れている門番をしていた刑法官まで届いているからというだけ。
「(まあ、対処が難しいとは言え、格上な上位互換の能力に対して対処法が有るのはありがたかったな……)」
悲観の中の小さな希望の光で心を照らしながら他に何か情報が手に入らないかと考え、取り除いた水に目を向ける。
俺のは勢い余って地面に落として土に吸われてしまったが、首長のは念のため残しておいて正解だった。
「(──綺麗な色してるなぁ)」
しかし『魔眼』で表示されたそれからは“水”としか出ていない。
それ以外は薄っすら緑色のかかった青色で、地面が透けて見えるほど澄んでいる。まるで清流から汲んだ水の様だ。
「(……ん? 待てよ)」
しかし不意に閃く。
「ただの水で俺が操った今なら……」
先ほど取り除いた水を操作してみる。
すると主導権が俺に有るためか水は思った通りに動かせた。
水を操れるのは大量に魔力を流した『水流操作』で主導権を奪ったから。だとしたら常にその状態であれば主導権を奪われずに水を使えるのでは?
「(どの道この考えが正解だろうと不正解だろうと、何かに賭けなければこの状況からは脱せない)」
仮定だらけの現状に不安しかないが、覚悟を決める。




