仮定、そして紛失
「特例として一時的に私物を返還する。ただし、用途以外に使用が見られた場合即時没収。異論は認めない」
「それで問題ないっ、ありがとう!」
首長からの許可が降りる。
これで湖の水を使えるので状況に変化を生める。確か大きさは直径が三キロ、深さは百メートル強。
別に測った訳ではないので目測だが、それに近い大きさだと思う。水量は十分、とは言い難い。
名前は憶えていない。
「(能力の範囲は恐らく森全域。他人を連れて移動が出来る……違う。あれは最初に会ったドライアドだけって言っていたような……まあ良いや)」
細かい部分までは思い出せないし、これ以上の情報も思い出せない。
強いて挙げるなら転移系とは違い移動、超加速なのか、次の場所まで着くのに少しばかり時間がかかった。
「(転移系ではないから移動に時間がかかる。超加速……そういう能力と仮定するなら、移動出来ないように氷で囲えば森全域に逃げられずに対応出来るかもな)」
おおよその対策案が形になる。
ただ、水は有限のためそこまで大きい壁は作れない。ドライアドの実力を甘く見積もって、恐らく赤ランクの下側。
壁を厚くすればそれだけ水もいるし、爆発の威力が分からない以上上も塞いだ方が良いだろう。
そうなれば湖一つの量では賄い切れないかもすれない。
「(予定変更。使うのは海だ)」
使う魔力量は増えるがそれくらいなら問題ない。
「コランド。聞いての通りだ。指輪をキリサキに」
首長がハンカチで自分の手首に巻きつけて止血に手こずっているコランドに命令する。
「……それが、少々無理でしてね」
「何故だ?」
「……しまし……」
「声が小さい! はっきりしゃべれっ」
「──申し訳ございません! 失くしました!」
「……は?」
言い難そうだったコランドが首長の圧に負け、手を抑えながら謝罪の声を上げる。
その返答につい声を漏らしてしまう。
「部屋からこの森に転移する際に手を放してしまい、辺りを探しましたが見当たらず……」
彼は続けて失くした理由を話す。
経緯を教えてくれたが、失くしてしまった原因は俺だ。
ゲートを使う際にデタラメに魔力を流したことで『水流操作』が暴走して変な突起が出来てしまった。
それにより手から放してしまったのだろう。
痛い思いをさせてしまった上に首長からの冷たい視線を浴びせてしまっている。申し訳ない。
ただ、失くしたのがこの森に転移する際であったのなら見つけられる可能性は高い。
今一度『天眼』の高さを変更する。今度はコランドの周りが見渡せる範囲に眼を置き、『魔眼』で指輪を探す。
「……コランドさん、あなたから見て左足斜め後ろ。少し濡れた場所を探しみてくれ」
「え? は、はい……」
急な指示に困惑しながらも素直に従ってくれた彼は、言われた場所付近を見回す。
そして水滴の残る草の間からゲートリングを見つけ出す。
「ありました……ありましたよ! ほら」
指輪の発見に安堵しながら、見つけた指輪をこちらに見せる彼。
そんな彼に俺は続ける。
「宝も──革袋の魔道具の中に治癒核が入っている。使って大丈夫だから、手を治してくれ。俺のせいで痛い思いをさせてしまって申し訳ない」
「治癒核……残念ながらこの魔道具内の物は別に分けて保管しているので、この中は空です。ですのでお気持ちだけいただかせてもらいます」
「そう、なのか……」
しかし治療の考えは断念させられる。
確かに押収品なのだから、中身を確認してそれぞれを保管しておく方が当然か。
浅はかな考えだったな。




