立場、そして劇物
「ドライアドが言ってた通り、あの二人から情報を聞き出そぉ思って」
「そんなことをやって良い立場か?」
「まあ、そう言われるわな……でも俺は坊主に、キリサキに言ったんや。信じてくれって。そら、坊主がキリサキだったのを知らずに言ったことだけど、坊主を見とると自分らの方が間違っとるんじゃないかって思えてきて。だからまずはアイツらがどこまで知ってるかを聞き出そうって考えたんだ」
「……理由は理解した。それで、自分の立場を理解し、どうなるかを考えた上でそれをやるんだな?」
「悪い」
「……はぁー」
生暖かい目でこちらを見てきたブライアンからの言葉。それに呆れたように大きめの溜め息を吐いて返した首長がこちらに視線を向けた。
彼女は鋭い目つきでこちらを見下ろしてくる。
「キリサキ。まずは貴様がそれを飲め」
「っ! ちょい、それは……」
そんな彼女から出た命令に今度はブライアンが慌てる。
しかし首長は平静に、ただ俺の答えを待っている。
「(効果の確認のためか? それとも毒を警戒してる?)」
その目的の予測を立てるがどちらもあり得そうであり、どちらもあり得なさそうな気もする。
会話の流れからしてブライアンが自白剤を欲している理由は俺も分かった。その上で俺に飲むよう促す理由……
やっぱり今の予測が一番正解に近いように感じる。
「(何しろ今の俺は、一大組織のボスを脱獄の手助けをした犯罪者となっている訳だし)」
そんな人間に未確認の魔道具で転移させられて、そこで突然現れたドライアドが敬った態度で自白剤なんて物を出せば怪しいことこの上ない。
確かにそれで考えれば疑いを持っても不思議ではない。
「(……あれ? よくよく考えたらこれってラッキーいてるのでは?)」
しかしそんな状況下が実は良い状況なのだと感じ始めた。
証拠が既に上がっている罪人だが、当人が自白剤で無罪を主張すればそれはどうなる? どちらかに疑いが発生するはず。
「(だから俺が今から飲むこれは──)」
一つの思惑を胸に、俺はドライアドから受け取った自白剤の入った葉っぱの器に口をつける。
そして少しだけ口に含んだ瞬間僅かに止まる。が、すぐにそこからさらに半分程を一気に飲む。
「……ぷはぁ」
勢いよく飲み終え、器から口を離し一息吐く。
そして大きく息を吸う。
「──まっっっっずぅぅううぅ……?!!」
天高々に叫び声を上げる。
オレンジジュースの様な見た目はどこへ行ったのか、一口含んだだけで恐ろしく強い苦味、それと土臭さが口の中に充満した。
旨味のない青汁にドブネズミを混ぜた様な衝撃だった。いや、ドブネズミの方は食べたことないけど。
これは一気に行かないとダメだと即座に感じた。
一度飲む手を止めてしまえば、再度飲もうとは思えないと。
だから勢いに任せて飲んだが、喉を通った自白剤は食道の途中から熱を発したのではないかと思える程に熱くなった。
そして何よりほんのり、本当にごく僅かに甘さが顔を出す。
しかしそれを感じた瞬間に苦味と土臭さと青臭さの濁流が甘さを誘拐して行った。
そんな地球にいた頃には飲むことのなかったはずの劇物なのだが、どう言う訳かこの衝撃に既視感がある。
この、身体が拒絶反応を示す感じが近年のどこかで味わった気がするのだが、思い出そうとすると身体が震える。
それにより思い出せそうで思い出せない。
マカカナ:木苺の様な見た目だがその部分は殻であり、果実は中に胡麻一粒分ほどの大きさしかないが、噛めばジャムの様な甘さが口に広がる。(下剤と嘔吐薬に使われているので、三粒食べれば脱水症状に悩まされるぞ)




