曲解、そして浅ましい考え
「(いや、今は状況が良くない……)」
しかしその考えを頭から追い出す。
状況が好転するまでは頼らない方が良いと決め、彼女から自白剤(上)を受け取る。
それを持ったまま刑法官たちの方へと歩みを進める。
「何考えてんだ、この罪人が!!」
「そんな怪しげな物を使って吐かせて、国が許すと思うなよ?!」
ドライアドとの会話を聞いていた二人がさらに表情を歪ませて叫ぶ。
しかしそれは彼らだけの反応ではなく、首長も少しだけ眉根を寄せて何か言いたそうにしている。
対してブライアンは気にも留めていないのか静観している。
「分かったぞ。さてはドライアドと結託して我々を殺すことが目的なんだろ?! 移動の能力を持つドライアドが何よりの証拠だ!!」
「私たちの能力が及ぶのはこの森の中だけです」
「それをどうやって証明するっ? 言っておくが、我々が今日中に戻らなければ上が署内を徹底調査しに人を送る手筈になっている! 残念だったな!!」
「そうだ! だからとっとと解放するのが得策だぞ!」
すると門番をしていた刑法官が曲解した答えを導き出した。
彼の答えに全員が困惑を憶えさせられる。
「(どうしたらそんな答えに辿り着くんだよ……)」
しかしその考えの中で面倒なのが出てきた。
彼らが帰らなかった場合に他の刑法官が調査をしに来ると言った。
刑法官がこの世界でどういう役割を担っているのか分からないが、首長たちとの会話からして警邏に近い職なのだろう。
そうなると今言ったことが事実であった場合、いよいよ以って出来るはずだった弁明もタイミングを失うことになる。
まあ、理由はどうあれ脱獄した事実があるから新たな刑法官が調査に来なくても助からない可能性の方が高いけど。
それでも脱獄のことだけなら俺一人の刑で済む。あとは牢で考えていたようにギルドの口座のお金とかでなんとかするつもりだ。
「(……もしこの薬が本物ならこの場の全員の情報を知れるのか)」
自己解決に向かっていた途中でそんな良からぬ考えを思いついてしまう。
情報を得れれば冤罪を証明するための、さらに言えば資料だけでは分からない情報も持っているかもしれない。
そんな浅ましい思いが自分の中でどんどん膨らんで行くのを感じる。
「(ただ、そんなことをすれば首長たちも敵に回りかねない。今の状態も不明なのに、それが完全に敵対になる方が不利益になるよな……)」
その考えの行末は暗い。それにこれを使うのはためらわれる。
「なあ、坊主。それを俺に譲ってくれないか?」
するとブライアンがその場から尋ねてくる。
彼の意外な要求に驚かされる。
「この自白剤を?」
「せや。ドライアドが調合した物なら効能も確かだろうし。ま、坊主が良ければだが」
「ちょっとアッ、ブライアン! そんな物を何に使うつもりだ」
そんな彼の行動に首長が慌てて目的を訊いてきた。
しかしそれは俺も気になるのでブライアンに視線を向けて答えを促す。




