重い空気、そして窓口
すると首長の言葉に刑法官の二人の表情が強張る。彼らの変様は首長の位置からは見え難いだろうが、『天眼』で観ている俺には見ることが出来ている。
なのでそれについて訊こうとするも、それより先に彼女は言葉を続ける。
「申し訳ないが、報告書はまだ途中で出せていない。事前通達として一報を入れるようにも言っていない」
ブライアンの近くにいた首長は刑法官らから距離を保ちつつ、顔の見える所へと回り込む。
その間もブライアンとドライアドが警戒をしているために彼女を止めに行けないらしい。刑法官たちの表情は変わらずにいるのに、怒りや恨みが混ざった目を向けている。
「お前たちが何故脱獄や医官の件を知っている」
それを知ってか、知らずか。首長は今一度確認の言葉を投げた。
「答えろっ」
そして一喝するかのように促す。そんな彼女の声に反応してか、どこからか鳥型の魔獣が鳴き声を上げた。
それが一段と首長の圧を、まるで初めて強面のボルグさんに会った時のような、そんな強い圧迫感へと昇華した彼女に促され──
「……はぁ」
門番をしていた方の刑法官が大きな溜め息を吐いた。
「知っていたからなんだ。何か問題でもあるのか?」
すると開き直って逆に質問をしてきた。
そんな彼の態度へ特に反応を示すことなく首長は続ける。
「先の突然の訪問。その時の物言いといい、何かしらの介入をしているのは明らかであり、刑法官といえどそんな勝手は許されん」
「そんな妄言を平然と。首長まで上り詰めればそれが日常なのかぁ?」
「ふっ、はは……」
首長が淡々と問題の提議をするも、それを小馬鹿にするように煽って返す門番と、彼の言葉が可笑しかったのか相方が小さく鼻で笑う。
そんな刑法官たちの態度が、緊張に包まれていた空気に一層の重みを追加させた。
「我々は貴女からとは別に署内での報告を受けられるようにしてある。もし、貴女が何者かに操られていたり、キリサキのような罪人と結託していたりするかもしれない。それらを考慮して、署内では貴女方と無縁の窓口を用意しているだけなんだよ!」
今度は剣を振り回していた相方が楽しそうな表情と共にツラツラと事情を説明してくれた。
「(言っていることは分からなくもないが、それでも納得は出来ない部分もある……)」
今のでとりあえず首長の知らない窓口があるのは自白した。
これが自白しても問題ないと考えているから笑っていたのだろう。であるなら──
「……なるほど。脱獄や医官の件を知っていた理由は理解した。では、私の元にそこの子ど、キリサキが来ていたことを知った経緯の説明を求める」
首長が俺も気になっていた部分を質問してくれる。
いくら報告を受ける手管があっても、(荷物として)首長の部屋に来た囚人を認知するのは無理だろう。
そして教えてはいないけど『魔眼』の範囲内に情報を盗み見るような魔道具の情報は出ていなかった。
そうなるとある程度は答えが予想出来る。
「(ただ、思いついている予想は確証が低いのばかりなんだよなぁ……)」
首長が当ててくれるのを願いつつ、刑法官の答えを待つ。




