角蛇、そして懐
身体は変わらず蛇だが、頭部部分は樽の様な形をしている。
「(うーん……いくら魔獣を参考にしても同じ蛇だとバレるか……角でも生やしておこう)」
急に不安に狩られ、容姿を少しだけ変化をつける。
イメージとしては一角狼の様な長めの角になるよう加工する。しかし樽の様な見た目の蛇に角が生えているのは違和感でしかない。
いっそのこと蛇を辞めたいが、残念ながら動かしやすさの都合上それは出来ない。
「(とりあえずこの形で良いか。どうせ囮だし)」
もう少し拘りたかったがそんな時間もないため、不格好この上ないけれどこれで実行する。
なるべく刑法官の死角から仕かけたい。
ただ、その場合どうしてもブライアンの近くを通過しなくてはいけない。
「(あいつの強さなら余裕で討伐されかねない……)」
大事にしたい訳ではないが、数分は時間を稼げなければ意味がない。そのためブライアンに見つからないように、もしくは見つかってもすぐに討伐されないことを祈るしかない。
全部神頼みになりつつ行動開始する。
ブライアンの背後と鍵の持ち主の方にそれぞれ水を伸ばして行く。
扉の前で待機している刑法官。その死角として部屋の天井隅から奇襲する。ただし、殺すつもりはないのだから狙うは手足のどこか!
狙いを定めつつ水に壁を這わせる。
「(良かった。ブライアンには気づかれてない……!)」
最難関問題であるブライアンによる感知からの即討伐を回避し、心の中で喜ぶ。
しかしもう少しで予定位置に辿り着くという所で、ソファを調べ終えた刑法官がこちらへと向かって来る。
「(マズい! このままじゃ間に合わない……今やるしかない!!)」
見つからないように少しゆっくりめだったのが仇となったのかもしれない。
追い込まれた状態のため意を決して作戦を開始する。
壁を這っていた水の『ウォーミル』に魔力を送って、先端から凍らせて行く。事前に形を組んでおけば、凍らせながら形を作るより時間がかからない。
しかし代わりにその形を維持しないと行けないので、集中しておかないといけないし、場所によっては入れなくなるというデメリットもある。
だが、今回の場合は事前形成でも問題ない。
「……魔獣だっ!!」
「「「「──!」」」」
形が出来上がった所でブライアンが氷の蛇に気がつく。彼は発見の報告と共に剣を抜き、構える。
その声に全員の視線が集まる。
「(よしっ、予定通り!)」
蛇の方に視線が向いたことで出来たチャンス。それを逃さないためにすぐにもう一つの水を動かす。
鍵を持っているコランドの足元まで辿り着いた水。そこから懐まで一気に水を伸ばす。
そして懐に隠されていたゲートリングにキャッチする。
「なっ?!」
思ったより早くコランドに気がつかれたが、もう遅い。ゲートリングを水流の力で取り出し、運ぶ。
「(これでゲートが使える! 冤罪の証拠を集めに行ける!)」
念願の脱出アイテムを手に入れ、心から喜ぶ。
そしてそれと同時に門番のごとく扉の前に立っていた刑法官によって氷の蛇が一刀両断された。




