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証拠、そして抵抗

 

 決勝戦を終え、表彰式となった。

 表彰式といっても地球などであるような賞状やトロフィーなどを渡すことないらしく、ただ前優勝したチームの貴族から称号をもらうだけらしい。

 前回はミルフィーさんのところが優勝しているのでミルフィーさんからもらった。

 食貴の称号は金で出来たバッチのような物で、コック帽の下に包丁、上にスプーンいやたまじゃくしか?が彫られている。

 ベルクさんがそれを受け取ると胸に付け始めたので俺も付ける。

 すると周りから惜しみない拍手が鳴り始めた。


「おめでとうございました。宜しければ何か一言頂けるとありがたいのですが?」


 そう司会者に訊かれ、ベルクさんが大きく一歩前へと出た。


「私はこの勝利に不服があります!」


 そう大声で言った。その言葉に会場が騒ぎ出した。


「私が勝ってこの称号を手に入れる事が出来たのは彼のお陰です。この勝利は彼の素晴らしい思いつき(アイディア)とそれを可能にした腕によって成し得た事です!なので...なので彼の足手纏(あしでまと)いとなってしまった私がこの称号を受け取る資格はありません...」


 最後の方は全く力がなくカスれた声のようだった。

 ベルクさんの熱弁に会場の人々は黙ってしまった。ただ一人を除いて...


「ふっ...はっはっはっは!そうだ!貴様にはその資格はない。我輩の料理人に勝てたのもそこの者が居たからだ。でなければ貴様には勝てなかったとも。そんな者が由緒ある王国の料理長をやっていたと思うと吐き気がするわい。があ、はっはっはっ」


 テリオスの叫んだ言葉にベルクさんは悔しそうな顔で拳を震わせている。


「そうか?俺がいなくてもベルクさんなら余裕で勝てたと思うぞ」

「....何?」


 高笑いしていたテリオスの表情が一変する。


「貴様、立場を弁えろ!このお方を...」

「貴様!たまたま勝てたからって図に乗るな!それにだ!我輩の料理人の方がそこの王国料理長よりも点数は上だったのだぞ!」

「俺は素人だけど美味い、不味いの判断くらい出来る。ベルクさんの料理は美味かった。だから審査員の点数に疑問を持った」

「そんな事は貴様の舌が可笑しいか、真の味を理解出来ていないだけ...」

「だから実行しているって確信が持てた」

「何の話だ!」

「何のってイカサマ、不正行為をしているってことがだよ、テリオス子爵。あんたがな」


 会場が再び騒ぎ出す。


「ふっ、そこの駄目な王宮料理長の点数に納得出来ずよもや我輩が不正行為をしているだと?笑わせるな!何処にそんな証拠があ...」

「これ」


 宝物庫から取り出した紙を見せる。

 それを観て、テリオスの表情が青くなる。


「アズマ様、そちらは?」

「契約書。料理対決の時に自分たちの料理人が勝てるようにさりげなく点差を点けるようにしろ、その報酬として白金貨一五十枚と貴殿を貴族の一人に推奨すると書かれている。そしてこの契約は審査委員会第四代会長ホリセア・ベルタクスさんとテリオス・スミス・ドフェルグ子爵が結んでいる」

「ええっ⁉︎」


 全員の視線が交互にその二人へと向けられる。

 この契約書は本物だ。調べている時にテリオスの書斎の引き出しの中の書類の下の方にあったので持って来た。

 泥棒認定とかされたら困るので先に王様から調べる許可とかをもらった。


「テリオス子爵、これは一体どういう事でしょうか?」

「ぐっ....覚えておけっ!」

「あっ⁉︎」


 テリオスが逃げ出した、近くにいた兵士三人に台車を押してもらって。

 まああの見た目じゃあそうなるわな。でも逃がすわけないけどな。


「止まれ!」

「何をする!」


 突然テリオスたちの前に現れた軽装備の男たちがテリオスとその兵士たちを縄で拘束した。


「貴様ら!我輩を誰だと思っている!」

「その人たちは俺が呼んだ警邏だ」

「警邏?我輩らのお陰で飯を食えている者らが何故我輩を捕らえる⁈」

「犯罪者を捕らえるのが警邏の仕事なんだから当然だろ」

「貴様、まさかたかが料理対決で審査員を買収しただけで捕まえられるとでも思ったのか?なら残念だがそんな事はない。残念だったなー?我輩を捕まえる事が出来なくて」


 こいつ反省する気ゼロかよ。まあいいや。

 俺はさっきの紙とはまた違う紙を宝物庫から取り出す。今度は十枚くらいある。


「これがあんたを捕まえる事の出来る証拠だ」

「⁉︎な...何だ...その紙は?...訳の分からぬ文字が書いてあるだけではないか...その訳の分からない紙に我輩が犯罪を犯したとでも書いてあるのか!」

「ああ、先日の日付けの物から大体四年前まである。これも契約書だな。内容を簡単に言うと自分が捕らえた者を売り、奴隷にした後またその者を買うって書かれている。契約者は、サヘル・トライスチレム・ボワン伯爵とテリオス・スミス・ドフェルグ子爵と書かれている」

「ばっ、馬鹿な!ハッタリだ!ハッタリに決まっている!」

「いや書いてあるでしょ?あんたの名前、テリオスって」

「いいや、それは我輩を落とし入れる為のハッタリだ!古代ペルセウス語が貴様に読めるはずがないのだ!」


 そうテリオスが叫んだ後にしまったという顔をしたがもう遅い。まさか自分から吐いてくれるとは思わなかったけどな。


「何でこの文字が古代ペルセウス語だとすぐに分かったんだ?」

「そ、そんな事...そんな事我輩には直ぐに分かるに決まっている」

「そっか、じゃあ...」


 俺は捕まったままのテリオスに近づきやつの顔の前に紙を見せる。


「じゃあ全部読んでよ?多少なら間違ってもいいからさ」

「....」

「なあ」

「....」

「はあ、嘘も大概にしろ」

「貴様、覚えて居ろよ!牢なんぞ我輩なら簡単に...」

「ああ、そうそう。王様にこの事とか話したら調査隊を出してくれるってさ。今頃あんたの家から今までの悪事の証拠とか出て来てんじゃない?」

「なっ⁉︎」

「ああそれと...」


 俺は最後に少し高価そうな紙を宝物庫から取り出す。


「王様からこれを読み上げろって言われてんだ。『テリオス・スミス・ドフェルグ、今回の奴隷所持また人身売買の件により貴殿から爵位の称号を剥奪する。他の処分については後日知らせる』だとさ」


 紙からテリオスへ視線を移すと現実を受け入れられないのか、それとも受け入れたのか蒼白の顔色になっていた。

 しかし少しして一気に青から赤へと顔色が変わった。


「クソがっ!ならこの場にいる全員を殺した後王を殺せば我輩に損はない!殺せ!」

「きゃあぁぁぁぁっ⁉︎」


 テリオスが叫んだと同時に背後から多くの悲鳴が訊こえ、振り返ると武器を持った男たちがいた。

 武器を持った男たちは全部で一三人ほど。武器はロングソード、ナイフ、両手に湾曲剣の半月刀(シャムシール)、四角形の肉切り包丁のような物、後は海賊刀(カトラス)だな。

 全員武装している。

 武装した男たちは貴族たちや料理人たちを取り押さえ始めた。


「はっはっはっ!今頃謝っても遅いからな!我輩に逆らった事を後悔しながら死ぬが良い!があー、はっはっはっ!」

「はあ...何も警戒せずにこんなこと公にするとでも思ったの?」

「え?」

「「「「「「「ぎゃあぁぁぁぁっ⁉︎」」」」」」」


 聞こえた悲鳴(男の)にテリオスが視線を俺から会場へと移す。

 会場には完全武装をした人たちが武器を持っていた男たちを次々と捕らえていた。武装をした人たちの鎧には女神が竪琴(たてごと)を弾いている紋章が彫られていた。

 あれはこの国の紋章。つまり完全武装している彼らは王国騎士団だ。


「な、何故ここに王国騎士が...」

「俺が呼んでおいたんだよ、こんなことが起こるかもしれないからな」

「そんな事で王国騎士が動くはず」

「国王にあんたの悪事のことを話したすぐに動かしてくれたぜ?」

「なっ⁉︎」


 まあ本当は王様の提案なんだけどな。


「くっ...だが我輩にはまだ最期の手段が残っておる!ジール!」

「しまったっ⁉︎」


 さっきまで感じなかった気配がしたかと思うとリリーの慌てた声が訊こえた。


「リリー!」


 黒装束がリリーの片腕を抑え、首元にダガーを突き付けている。

 気配に気付けなかった。見た目的に暗殺者か?


「がっはっはっはっ!王国騎士(きさまら)!大人しくしなければこの男がどうなっても知らんぞ!」


 王国騎士たちは捕まえていた男たちから手を離した。離した途端騎士の一人を蹴り飛ばしたやつも出た。

 走ってもこの距離じゃ着く前にリリーが斬られる。クソっ!こんなことになるならあの時リリーをゲートで帰していれば。あの時もう少し早く調査を終えて帰っていれば。キリの能力が俺にもあれば....

 そんな後悔をしていても仕方がない。今はどうやってリリーを無事に助けるかが先決だ。

 しかしどうする?雷光核でフラッシュを...普通に斬ることは出来る。ゲート...は公に出来ないし。


「何だアレ!」

「「「⁉︎」」」


 リリーが上を見上げて叫んだので全員の視線が上へ(・・)向いた。


「何だ、何もないでわないか!所詮は時間稼...」

「アズマ!今なら出来る(・・・・・・)!ボクのことは気にしなくていい!だからこいつを!」

「五月蝿いぞ!ジール、そいつを黙らせろ!」

「がっ⁉︎」

「リリー!」


 ジールと呼ばれた黒装束がダガーでリリーのうなじを叩いて気絶させた。怒りが込み上げたがそれを堪えてリリーの言った言葉について考える。

 今なら出来る....そしてあの時、なぜ何もない上を見せた...目を逸らさせるためか?何を?....ああ、なるほど。多分これで合ってることを願って地面を蹴る。

 やっぱり...


「ふんっ!」

「がっ⁉︎」

「っと!ありがとな、リリー」


 黒装束の顔面を半分くらいの力でぶん殴って、倒れそうになったリリーをスレスレで受け止めた。

 予想通りで良かった。

 リリーはあの時上を見せて視線を逸らしたのは俺にリリーの固有能力を付与するためだったのだろう。多分脚力か速度の上昇を付与したのだろう。

 にしてもリリーの能力すごいな、ここまでスピードが上がるとは思わなかったな。


「人質がいなくなったからもう抵抗出来ないだろ?」

「ぐぅぅぅ....この下民がぁぁぁっ!覚えて居ろよ!我輩をこんな目に合わせおって!殺してやる!貴様の大事な者から順に殺してやるからなっ!」

「そうか...」


 ごめんな、リリー。少し待っててくれ。

 リリーをゆっくり地面に降ろし、捕まって伏せさせられているテリオスの元まで行く。


「じゃあ、生かしておく必要はないな。今すぐ殺してやるよ」

「何だとっ!」

「キ、キリサキ様...流石にそれは...」

「ん?だって俺の大事な人を殺すって言ってるんだぞ、そんなことさせる前に殺すべきだろ?」

「そ、それは...」

「さ、許可ももらったし全力で殺してやるから歯、食い縛れよ」

「ま、待て!さっきのは冗だ...」

「ふんっ!」

「ごがっ⁉︎」


 顔面を殴って一バウンドしてテリオスは倒れた。流石に殺すわけにはいかない。まあ骨にヒビは入ったと思うけど、それくらいで済んだだけマシだと思えよ。




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